幼馴染の魔女に殺されたけど、いまは使い魔ライフをエンジョイしています。
雪車町地蔵@カクヨムコン9特別賞受賞
ぷろろーぐ
その心臓に飾るまで
「あーちゃん」
いまにも泣き出しそうな声で、彼女は俺の名を呼んだ。
天を衝くような輝く大樹が、美しく幾つもそびえる白い森のなかで。
一身に、その森が生み出す清らかな風を浴びながら、しかし俺の脳裏は、赤熱に染まっていた。
頬は焼けるように痛く、熱い。
苦しみ、痛み、怒り、憎悪……もはやよく解らない激情の渦が、怨嗟の奔流が、なにもかもを滅茶苦茶に引っかきまわし、俺の記憶を曖昧にしていた。
思考はどこまでも拡散し、たったひとつすら理解できない。
ただただ、そこには憎しみにも似た感情が、悪寒が、たえず背筋を震わせているだけなのだった。
そんな俺を、琥珀色の瞳が見つめている。
眼前の彼女。
古風な魔女の格好をした――そして事実、真性の魔女たる彼女は。
俺の幼馴染ハウレシア・ディム・イリスティアは、肌と肌が触れ合うほど近くまで俺に身を寄せて、俺の名を、切なげに呼んだ。
俯いてしまう彼女の流れ落ちる銀髪が、その表情を隠してしまう。
それがどうしてか、俺に苛立たしかった。
「ブルンスマイヤー・アーダルベルト……たったひとりの幼馴染。あたしの、大切な――大切なあなたを」
呼気が乱れる。
いや、ずっと乱れていた。
ああ、息苦しい。熱いし、寒い。
野犬のように俺の息は荒く、脳髄は熱病に浮かされたように灼熱し。
だからこそ、それは心地好く俺の耳朶を打った。
彼女の、吐息――その冷たい言葉が。
「あなたを、殺害します」
冷気。
左胸に滑り込む、鋭い寒さ。
同時に、それまで早鐘のように打っていた鼓動が、まるで熱を奪われるように消えていく。
視線を呆然と落とす。
俺の胸に、心臓に、白い柄のナイフが生えていて――
「あなたは答えを得るまで、いつまでも絶叫し、問い続けるでしょう。いま一度その胸に、真実の
それが、俺の肉体が聞いた最期の言葉だった。
謎めいた言葉とともに、意識は、急速に闇の中へと落ちていく――
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