帽子の話

オーランド

第1話

日本国、季節は夏。

彼の額に浮かぶ、ジンワリとした水滴を見る限り、相当な暑さであろう。

しかし、それでも彼は帽子を被る。


夏に被る帽子といえば、やはり麦わら帽子が適当であろうか。昨今では、ストローハット(straw hat)と言うらしい。つばが広ければ広いほど、直射日光が顔面に当たることを免れるという、お肌の強い味方だ。

しかし、彼の被る帽子はストローハットではない。いわゆるサマーニットというやつだ。一見すると、耳が冷気に耐えられないような時期に被るニット帽と、大差はないように見える。濃緑色の見た目は、夏らしくて良い。商品の売り文句では「夏仕様の素材と編み方で、暑さを感じません!」などと書いてあったが、その効果のほどは、彼の額に浮かぶ、滝のような水流を見る限り、知れたものである。夏らしい緑色は、グラデーションがかかっている。急いで家を出たもので、タオルを忘れてしまった彼の表情は、清々しいといった類のものではない。

それでも彼は帽子を被る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

帽子の話 オーランド @nanzeru128

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る