ティナシーの報告書
思った以上に上手く物事が運んだ。
事前にティナシーに目いっぱい怖がらせておくよう指示をしておいたのが功を奏した。
もちろん、マリアは怒ってなどいなかった。ただ、大声を出されて恐怖で震え、気絶しまいとこわばっている表情をしているだけだった。その、性格の特性を利用したに過ぎないのだが、単純な部族であるゴブリンであることが幸いした。
玉座の間を眺めると、最後の大声で気絶してしまっているマリアがいつのまにか気持ちよさそうに眠っている光景。
しかし、大声をあげただけで気絶してしまう魔王とは……頭痛い。
「ほらっ、起きて下さいマリア様」
そう何度も何度も揺り動かしてやっと目が覚めたマリアだった。
「はぁ……びっくりした。ガトさん、あの、ブンドドさんの贈り物、受け取らないで返してあげてくださいね」
「……受け取れば、よろしいのではないですか? 何もくれるというものを無理に拒む必要はないでしょう」
「いえ! そもそも税を納めることもできないほどお困りになってるのです。むしろ、何かお手伝いできることはないでしょ――」
ちょお前バカ小娘魔王。
「そ、それは絶対に困ります。本来、上納できなければ斬首もあり得ます。そんな中、逆に施しなどやってしまえば他の部下に示しがつきません」
そう言うと、マリアがこれ以上ないくらいわかりやすいふくれっ面を示した。
「むーっ……じゃあ、せめて贈り物をさせてください。私の気持ちがわかり、誤解が解けるようなものを」
「……何を贈るんですか?」
「エヘヘ……内緒です。あっ、ラップは私にさせてくだいね。好きなんです、私」
はぁ……これから起こる未来とともに大いなる不安を感じながら、大きなため息が出た。
翌日、ティナシーから報告書が上がってきた。
*
「な、なぜだー! なぜ贈り物が突き返されるのだー」
頭を抱えるブンドド。そこに、部下のゴブリンがマリアの手紙と贈り物を持ってきたという。
「……なんだ、これは?」
そう言ってブンドドが包みを開けると、四葉のクローバが一本入っていた。
『四葉のクローバを持つと幸運』になれるという話は有名だが、あくまで人間の間の話である。当然、ゴブリンのブンドドにそのようなゲン担ぎが解せるはずもない。
「ちょっと……これ読んでみてくれ」
そう言ってお付きの部下に手紙を渡した。
「草……食え……すいません、これぐらいの単語しかわかりません」
頭を掻きながら部下のゴブリンが答える。
なんじゃそりゃ……未来のため、部下に読み書きを学ばせ始めているブンドド。だが、それでもこの程度の読み書きしかできない。元々、学ぶのが苦手な種族だ。実際に役に立つにはもう少しかかりそうだ。
……そもそも、『草』『食う』って……草を食え……草でも食え……草でも食ってろ……貴様らなんか草でも食ってればいい。いいから財産を全て上納せよ!?
「うわあああああああっ! おい、お前らっ! すぐに全ての財産を集めろ! 魔王に献上する」
「そ、そんな! 俺たちはどうやって生活すれば――」
「魔王は……仰った。『貴様らなんか草でも食ってればいい。いいから財産を全て上納せよ草でも食ってろ!』すぐに贈らねば処刑だぞ」
「ひええええええっ!」
何かと勘違いの多い族長ブンドドであった。もちろん、手紙にはそんな非情なことは書いていない。
『西方は草花があまり育たぬ地と聞きます。自分たちが日々食べるのも困難な中、毎年税金を納めるのは非常に大変な仕事だと思います。ご無理なさらずご自愛ください』
そう手紙には書かれていた。
追伸
このマリアの贈る『四葉のクローバ』は西方で『死刑宣告』と同義であるとして広めておきました。
注)一部、ブンドドの気持ちを推測で書きました。
*
……非常にわかりやすい文面だった。ティナシー、奴はいったい何者なのだろうか。
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