第104話 転生者は異世界で何を見る? -情報開示-
「えっ? えええええぇぇぇぇぇっっっ!!!??」
アイテムボックスから周囲に何もない草原へと、テーブル、椅子から湯気の立ち上る朝食と次々と取り出す俺に、瑞樹が絶叫を上げている。
「ちょっ、何ソレ!? ずるくない!?」
椅子に座って俺たちが食べ始めるまで固まったままだった瑞樹が再起動してツッコミを入れる。
「何してんだ。早く座って食えよ。……冷めるぞ?」
「え、あ……、はい。
――じゃなくて!」
言われるままに座った瑞樹だったが、やっぱりスルーして食べる気にはならなかったのか。
「とりあえず食えよ。冷めるだろ。……ツッコミはそれからだ」
「何言ってんですか! ツッコミも鮮度がだいじ……、いやそうじゃなくて!」
とか何とか言いながらもとりあえず食べることにしたようだ。やはり目の前の空腹には勝てなかったらしい。
「う、うめぇ!」
食べ始めてすぐにまた、何か言いたそうな顔をしたがとりあえず食うことにしたようだ。
まぁ言いたいことはわかるけどな。何せ用意したのは日本食だし。ごはんに味噌汁に焼き魚と卵焼き。
だがしかし。
「こんなまともな朝飯食ったの、三日ぶりだ……」
日本食を渇望する異世界人特有の感動といったものはなかった。
なにしろ転生二日目ですし。
「……よかったな」
フィアもお箸の使い方が様になってきている。まだ若干ぎこちないところはあるが、ちょっと不器用程度で通じるんではなかろうか。
しばらく無言で飯を食い、食後のお茶を飲みながら一服する時になってようやく瑞樹が口を開いた。
「なんで日本食……」
「ごちそうさまでした」
「あ、ごちそうさまでした」
食べ終わったあとのフィアの言葉に、慌てたように瑞樹も続く。
「誠さん? どっから出したんですか?」
テーブルに身を乗り出してこちらに詰め寄る瑞樹。
「アイテムボックスだ」
「……はあ?」
「アイテムボックスだ」
特に大事ではないが、聞き返されたのでもう一度答えておくことにする。
「いや、ちゃんと聞こえましたって。……そうじゃなくて、なんでそんな便利なスキルを持ってるんですか!?
確か【鑑定】と【スキル取得率上昇】の二つって話でしたよね!?」
「ああ、この世界に来て手に入れたスキルは【スキル取得率上昇】だけだな」
「…………はあ?」
しばらく間があったかと思ったが、帰ってきた返事は結局さっきと同じものだった。
「だから、さっき出したこのテーブルや椅子やらごはんやらは、この世界に来る前に仕入れてたモノだってことだ」
「えええ?」
さっきから疑問形の言葉しか出てきてないな。しょうがない……、もっとわかりやすい話を出すか。
「昨日瑞樹に、同じ学校の明と穂乃果のことを知ってるかどうか聞いたのは覚えてるか?」
「……なんですか急に。今は関係……」
そこまで言いかけたところで気が付いたのか。あの時は明と穂乃果の話を聞いて、自分も日本に戻れるかとわずかに期待もしたはずだ。
ならば俺が言いたいことにももしかしたら気が付いたのかもしれない。
「そうだ。あの二人は行方不明って話だったが、結局はお前と似たような状況だったんだよ。それを連れて帰ったのが俺だ」
俺の言葉で予感が確信になったのか。目を見開いて動きを止める瑞樹。
「お前が期待したように、日本に帰りたいんなら連れて帰ってやるぞ。まぁ、帰っても、お前は死んだことになってるけどな……」
「ちょ……、ちょっと待ってください……」
それだけ絞り出すように言うと、しばらく考え込むように黙り込む。
いろいろありすぎて考えがまとまらないんだろうけど、まだ言いたいことはあるしどうしたもんか。
考えがまとまったあとに追加で情報をだされても困らないかね?
「いつでも帰れるし、帰ったら戻ってこれなくなることもないけどね。
――あ、あと、何か魔法が使いたいんなら教えてやるぞ?」
待てと言われた瑞樹を待つこともなく一方的に話しかける俺。ついでに魔法の話題も出して、目の前で軽く炎を出して魔法を見せてやる。
「――ぶふぉぁっ!?」
目の前で炎を出されたことに驚いたのか、椅子ごと後ろへひっくり返る瑞樹。
しかしそのまま起き上がる素振りもなくそのまま固まっている。
フィアが心配して瑞樹を覗き込むが、ちょうどその時に瑞樹も再起動したらしく、勢いよく起き上がった二人は案の定額をお互いに打ち付けた。
「「――!!!」」
涙目でうずくまる二人に苦笑しながらも、【ヒール】をかけて治してやる。
「ありがとう……」
瞳を潤ませて額に両手を当てながら、上目遣いで礼を言うフィアは破壊力抜群だ。
「うぅ――!!」
瑞樹に至っては大量に情報を詰め込まれた上に額を強打して軽く混乱している。
「まあ考える時間はあるけど、今晩の宿を考えるとここで時間をつぶしてる暇はないぞ」
まだ動き出さない瑞樹をスルーして、とりあえず後片付けを始める俺とフィアだった。
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