第59話 仕入れ2
「お兄ちゃん、やっぱりそうなのね」
小太郎を見送る俺の背中からニヤニヤしてそうなさくらの声が聞こえる。振り返るとやっぱりニヤニヤしていた。
フィアはまた連れてくる予定なのでそのうちバレるのは時間の問題なんだが、まあできれば隠しておきたいわけで。
どうせさくらも今日は家に帰るだろう。今日を乗り切ればしばらくはもつはずだ。
「な……、なんのことかな」
「楽しみにしてるわね」
ニヤニヤ顔をにっこりとした笑顔に変えてそれ以上突っ込んではこない。なんだかあとが恐ろしい気がしてならないが、こちらから突っ込むのは藪蛇と言うものだろう。
「それより買い物に行くんでしょ。ちょうどお腹も空いてきたし、モールでお昼ご飯も食べよう」
「そうするか」
前回行ったときと同様に、今度は助手席にさくらを乗せて車でモールに向かうのだった。
結局ネット注文したのはキーホルダータイプのLEDライトのみだ。ソーラー充電タイプと手回し充電タイプがあったので半分ずつ注文しておいた。値段も安かったので100個ずつだ。
今回モールでの買い物の予算は五万円。センサーLEDライトは二千円で売っていたので十個購入した。残りの三万円で十種類十個ずつくらいのものを調達できればいいかな。
ちょっとかじった異世界転移物小説の中で売れそうな現代製品はなんだったかな。
ガラス製品とか鏡とか……、うーん、あんまり記憶にないな。あとはコピー用紙とかどうだろう。羊皮紙って高かったよね。……でも既存の製品が売れなくなりそうだな。店の帳簿だけに留めておくか。
そういや娯楽も少ないんだったかな。フリスビーとかバドミントンとか、ただのボールでも売れたりして。
「お兄ちゃん、これもどうかな?」
百均をめぐりながら売れそうなものを物色しているときに横から声がかかった。
さくらが手にしていたのは皮むき器だった。
「ふむ」
俺自身も一人暮らしなので自炊をしないことはないが、確かに包丁に比べると皮むき器は便利だ。これはありかもしれない。
「売れるかも? ……あ、じゃあおろし金とかも売れるかな」
「うーん。料理の幅は広がるかな?」
一般人で食にこだわる人がどこまでいるかかな。世界観を見るに、あまりそういう人はいなさそうな気はするが……。
まあ人間生きていく上で食は大事だし、これも候補に入れておくか。
案外レオンハルト王なら調理器具に理解を示してくれるかもしれないな。一緒に昼食を摂ったときの会話で、俺の世界の食について質問された内容を思い出す。
俺自身高級料理には縁がないので自身の知る調理法や食べ方などの話をするだけだったが、天ぷらと刺身の話は食いつきがよかった。
王都は海が遠いので生魚は食べることができず、天ぷらは油がそこそこ貴重らしく、揚げ物は高級料理に含まれるので一般家庭やそこら辺の酒場でも出ないようだった。
「なるほど。調理器具も需要あるかな……?」
「それはわたしに聞かれてもわかりません!」
なぜか胸を張って答えるさくら。
いやそれくらいわかってるって。何気なく呟いた独り言に反応されてもこっちが逆に困る。
「うーん。まあ多すぎても整理しきれないし、今日はこれくらいにしとくか」
「そうだね。いい加減カゴも重いし……」
そういうさくらの両手には商品が大量に詰まった買い物かごが握られている。もちろん俺も両手にカゴを持っているが、こっちもいっぱいだ。
結局モールで仕入れた商品は次の通りだ
・ガラスコップ
・ガラス皿
・ハサミ
・手鏡
・石鹸
・ピーラー
・おろし金
・フリスビー
・バドミントン
・マジックグローブ
・トランプ
マジックグローブというのは、グローブ二つとボールが二つのセットになっており、マジックテープが手のひらに施されており付属のボールをくっつけることのできるようになっている。
子どもでも簡単にキャッチボールができるおもちゃである。
あとは単品でアルブレイムさんに見てもらおうと思ったものがいくつか。
レジにいる店員さんに怪訝な顔をされながらも無事に会計を済ませるが、最終的にレジを通過したカゴは六つになった。
袋に詰めていくがちょっとこれはまずい。
「周囲の視線がなんだか痛い……」
「ちょっと……、お兄ちゃんこれ全部持てるの?」
あり得ない量の買い物をしたせいかすごく目立っている。
いや荷物はアイテムボックスに入れるから問題ないが、周囲がね……。
「大丈夫。ちょっと待ってて」
両手に袋を抱えてそそくさとお店を出る。人の多いモールではあるが奥まった場所のトイレの通路は人がほぼいない。ましてやトイレの中となれば誰もいないので、さっと荷物をアイテムボックスに突っ込んでさくらのいるお店に戻る。
「お待たせ」
「もう……、そういえば荷物は気にしないでよかったわね」
そもそも車で来ているのでアイテムボックスがなくても家には持って帰れるのだが。
でもこんなに大量に同じ物を買う人はいないよね……。
「じゃあそろそろ帰るか」
二人並んで荷物を持ちながらモールを歩く。
さくらと買い物なんていつぶりだろうか。両親が亡くなったときのバタバタしてたときにした買い物以来かもしれない。
ふとそんなことを考えていると目の端に光るものがひっかかった。
「ん……」
「……どうしたの?」
視界に入ったのは姿見の大きい鏡だ。
「……なんでも……、いや、あれも買って帰ろうかな」
「あんな大きい物も売るの?」
すでに荷物はすべてアイテムボックスに仕舞ってあるので手ぶらだ。
買って手荷物に加えることに不自然なところはないだろう。
「ちょっと、非売品の店の目玉にしようかなーって思って」
「ふーん、まあいいんじゃない」
こうしてまだ残っていた予算で、目立つ姿見を購入するのであった。
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