第50話 モンスターズワールド -目的-

「いやはや、まったくもって面目ない。異世界の道具と聞いてはしゃぎすぎたようで」


 はしゃぎ過ぎにもほどがあるだろ。いやまあ今までに見たことのない道具を出された気持ちはわからないでもないが。

 自身にも覚えのある、どこかの宝物庫からお宝を褒美としてもらった時の記憶を振り返る。今まで使う機会がなかったが、今後小太郎の手伝いをするときには出番があるはずだ。

 まあ何をもらったかはその時にでも。


「ああ、そういえば、もうひとつおみやげをどうぞ」


 ついでとばかりに自宅の庭から引っこ抜いてきたもうひとつのLEDライトを懐と見せかけたアイテムボックスから取り出す。

 取り出した時に反応した人感センサーのおかげですでに明かりを放っている。元々夜の闇を照らす用途の物なので、室内とは言え昼間の屋内では眩しいというほどではない光量だ。


「……これは?」


「これもそちらと同じくソーラーLEDライトです。ただし、玄関や庭などの人が通るところに設置するタイプですが」


「すごいのよ! 人が通ると勝手に光るの!」


 俺の説明に今度はフィアが間髪を入れずに説明を追加してくる。

 屋敷の庭にでも設置しておけば歩くのに支障のない明かりが手に入り、しかもソーラーパネルで充電されるので魔道具の明かりのように魔石の交換が不要なのだ。

 というか魔石ってそんな電池みたいな用途があったのね。ゲームじゃただの収集品扱いだったけど……。


「いやはや……、これほどとは……、異世界の道具とはすばらしいものですな!」


 幾分と我を取り戻したようで、先ほどよりは落ち着いた驚きようであるレオンハルト王。

 ひとしきり感心したあとは急に真面目な表情に取って代わり、腕を組んだ状態で右手で顎鬚を撫でながら熟考する。


「ふむ。……そろそろ本題に入るとするか」


「えっ?」


 今まで本題じゃなかったのかよ。ああ、そういえばフィアを叱るんだっけ?

 俺はそろそろ帰りたいんだけど……。叱るなら親子水入らずでやってくれよ。


「マコト殿には……、この国はどう見えますかな?」


 うん? どういうこと? さっぱり話が見えないが。

 俺がゲーム上でも拠点にしていただけあって、悪くはない国だと思う。ゲームを始めたときの最初の国と言うこともあり、周囲の魔物は初心者でも対応できるものばかりで、現実に『住む』としても治安は問題ないだろう。

 モンスターズワールドというゲーム自体、俺はそれほどやりこんだものではないが、3Dの地形が綺麗な場所が多く、ゲームの中で『観光』と称していろいろな場所を回ることも多かった。

 そういう意味ではこの国は、俺にとって名所の多い国ということでもある。


「うーん、名所もたくさんあって、王都は比較的治安もいいし、いい国だと思いますよ」


 現実としてゲームの中をうろつく機会がつい最近できるようになったばかりの俺にとって、この国の感想と言えばゲーム上で得たものが大半を占める。

 なので、あまり参考になるような答えは持ち合わせていないつもりなのだが。


「名所……、ですか?」


 なぜか意外というか、そんな場所あったっけ? みたいな反応を返すのは、隣で静かに微笑を浮かべた元の様子に戻ったらしいアリエル王妃だった。

 よく見るとレオンハルト王とフィアも首をかしげている。

 なんか俺変な事言ったっけ?


「えっと、ほら……、アグリスの森とか、ドルジウォール渓谷とか。あの大自然は俺のいた世界にはないものですね」


「「「――えっ!?」」」


 俺の言葉に三人が声をハモらせて固まる。

 いやいや、だからなんでそういう反応をするのさ。あのマップはゲーム中級者であればソロで行ける場所だよ?

 まぁ出現モンスターが微妙な奴ばっかりなので、プレイヤーにはあんまり人気がなかったけどさ。


「……魔境じゃないですか」


 いち早く復活したフィアがぽつりと呟く。


「――はい?」


 なんですって? 魔境?


「……いや、散歩がてらに、よく景色を見に行った場所だけど……」


 モニタ越しではあるがそこそこ感動できる風景を見れたのは事実だ。たかだかゲームではあるが、当時まさかモニタの中のCG風景に感動できるとは思わなった。

 三人の余りにもな反応に思わず俺も声のトーンが沈んでくる。


「さ……、さんぽ」


 呆けた顔のまま目だけが驚きの余り見開かれるレオンハルト王。


「と、ところで……、それがどうかしましたか?」


 よくわからないがこのまま呆けられても困る。続きを促すとレオンハルト王が「ゴホンッ」と咳ばらいをして居住まいを正す。


「本当に散歩気分で行けるのであればこれほど心強いことはないな……。

 さらに我が国を褒めていただけるのは、国王としてこれほど嬉しいことはない」


 何かに納得したように頷くと、決意を新たにした顔をこちらに向けて言葉を続ける。


「マコト殿、我が国に腰を落ち着ける気はないかな?」

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