第26話 物語1 -開き直り-
「……えーっと、フィアさん……?」
掠れた声で呟いたのはセルフィナさんだった。
さっきまで妖艶な雰囲気だったがその影は文字通り影も形もない。
明と穂乃果の優秀っぷりは勇者補正込みでもあり得る範囲だったのだろうか。しかしいきなり魔法を発動したと思われる王女様は予想外だったようで、セルフィナさんの動揺っぷりが半端ない。
「……マジか」
「…………」
明は驚いているようだが、穂乃果はどこか悔しそうな雰囲気だ。
しかしだ、いきなりやらかすとは王女様は何考えてんだ。
「……なんでしょう?」
若干やっちまった感のある表情で返事をする王女様。
「先ほどは……何をしたのでしょうか?」
「あー、えーっと、……魔法で水を出しました」
正直に答える王女様。まあこんな状況でしらばっくれても無駄だろう。むしろベタに「汗をかきすぎました」とか言い訳されても反応に困る。
普段面白いことには自重しない王女様だったが、今回はなんだかしおらしいじゃないか。
もしかして自分がネタにされるのは嫌なんだろうか。
「そう、ですか。……さすが勇者様です」
王女様の答えを聞いて顔を引き攣らせるセルフィナさん。
やっぱり話を聞いただけで魔法発動とか勇者補正込みでもありえない事象でしたか。
「……そうですね、……もう一度見せていただいてもよろしいですか?
問題なく魔法が発動できているか確認したいので」
「はい」
セルフィナさん復活早いな。そしてきちんとやることはやる人のようだ。
王女様は大きく深呼吸をすると手のひらを突き出して集中しだした。
一度成功したからか、今回はそれほど待たずに効果が表れる。手のひらの先に握りこぶし大ほどの大きさの水の塊ができたかと思うと、軽く投げる程度のスピードで飛んで行き、地面へと落ちた。
「……素晴らしいですね。魔力の流れも淀みがないですし、初めてにしては出来過ぎなくらいです」
「……すげー」
「……すごい」
どうやら問題ないようだ。
きちんと魔法の発動を目にしたからか、明と穂乃果も目を見開いて驚いており、穂乃果に至っては先ほどの悔しそうな雰囲気は感じられなくなっている。
そういえばセルフィナさん、散々魔法について蘊蓄垂れてたけど実践して見せてくれてなかったな。教えることに特化した人なんだろうか。
「ありがとうございます。でも、まだまだですね。マコト様には敵いませんので」
「えっ!?」
おいおいおい、そこでなんで俺に振るかな!
「だって、昨夜の賊を一人で撃退されたんでしょう?」
ずばり説得力のある真実で切り込んでくる王女様。ええ、確かに撃退しましたとも。手段は言ってないんですけどね!
しかしたったそれだけで話題が俺に移るのは十分だった。
王女様を見ると、いかにも得意気な表情で普段通りに戻っているような気がする。
「……そういえばあなたでしたか」
感心したように頷いているが、視線は俺から外れない。
「ふふ、ではあなたの魔法も見せてくれないかしら」
すっかり妖艶な雰囲気が戻って俺に魔法を催促してくる。
くそっ、やっぱり! 何してくれてんだ王女様!
焦りながら元凶に目を向けると、してやったりといった感じと、何か期待を含んだものが混じっているような表情だ。
というか俺が魔法を使ったところなんて誰も見てないはずなんだが、使えることを誰も疑っていないのはなぜだ。
明と穂乃果までキラキラした表情でこっちを見てるじゃねーか。
「……なんで俺が魔法を使えることになってるんですかね」
「あら、使えないんですか?」
どこか試すように尋ねてくるが、その言葉にはまったく疑いがない。
「……そうなんだ」
明は若干肩を落としているが、その隣を見るとイラッとする表情があった。
「なんだ……、期待して損しちゃった……」
おうおう、残念美少女が言っちゃってくれますね。
俺が魔法を使えることを疑っていない王女様は、どんな魔法を使ってくれるのか超ワクテカ表情だ。もう断定しよう、目がキラキラだ。
セルフィナさんは不思議そうに人差し指を頬に当てて小首を傾げている。
うん、そうだな。俺が賊を撃退したって半ば開き直って暴露したんだ。もう全部ぶちかましちまえ。
それにさっさと問題を片づけたらこの世界にはもう来る予定はないし。後は知らん。
むしろ『詠唱破棄』とか『無詠唱』みたいなスキル増えてラッキーだよな。よし、そういうことにしよう。
「――誰が魔法を使えないって?」
無駄に笑顔を顔面に張り付けると、おもむろに両手のひらを前面に突き出して構えた。
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