夢の中の悲しい小鳥

月舟まをり

第1話夢を持っていた頃のお話

人は誰にでも一つぐらい夢を持っているはず

でもそれが必ずしもかなうわけでは無い

夢は叶わないから夢なのだと誰かが言っていた

しかし、私にも夢はあった


ー3年前ー


母が死んだ

突然朝消えた

昨日最後に話した言葉はおやすみなさい

次の日も同じような朝を迎えると思っていた

いや思い込んでいた

しかし次の朝は違っていた

気が付けばお昼近い時間

私はその時、母の存在を忘れていた

もう起きているのかと思い込んでいた

だからそれほど気にも留めなかったし捜しもしなかった

しかし正午を過ぎても母の姿がない事に多少不安を感じた


ーきっとどこかへ行っているんだろうー

ー買い物かもねー

ーでもお金は持っていないはずー

ーまさか…まだ寝ている?まさかねー


念の為、母の寝室に向かった

あの時の事は鮮明に覚えている

寝室のドアを開けると母はまだ眠っていた

いや違う

何度も最悪な結果を打ち消しながら近づき、体をゆすってみた

「もうお昼だよ」

「お母さん、起きて」

「ねぇ…ねぇってば!」

一筋の嫌な汗が額を伝う

真冬なのに汗をかくほど動揺は大きくなっていた

「お母さん?」

少し震える手をそっと鼻に近付けた

嫌な汗

足元にすり寄る母の猫達


その後はまるで映画を見ているような感じだった

主役の私がセリフすら忘れただただ見ているだけ


息をしていない母

慌てて電話を掛ける私

救急車のサイレン

野次馬の人間達


「警察へ連絡しますので」


警察?

何で?

ああ、そうか

家で死んでいたんだから仕方がない

もしかしたら私が殺人犯かも知れないしね


そして今度はパトカーのサイレン音

さらに増える野次馬と言う人種


本当に暇人だな

日本が平和だと言う事なのか?

どうでもいい

そんな事どうでも


夕方医者がやって来て死因を調べた

と言っても解剖などではない

「心筋梗塞」

その言葉で騒がしかった家から人が消えた

残っているのはほんの数人

身内だけ


心筋梗塞って…

心臓が悪いと言う話は聞いた事が無い

でも今更だ

その後、お通夜から納骨まであっという間だったような気がする


そう言えば最後の日

私達は喧嘩をしたんだっけ

くだらない事で言い合いをして母は怒って寝てしまった

いつもの事だ

明日になれば忘れてしまうだろう

しょうがないな…明日買い物にでも行って母の機嫌をとるか

しかし、その買い物は出来ないまま私は喧嘩した事をずっと後悔していた

どうしてもう少し優しくなれなかったのか

お金が無いと言っていた母にどうしてお金を渡さなかったのか

行きたい所もたくさんあったはずなのに

美味しいものだってまだまだたくさんあったのに

一緒に銭湯にも行きたかったのに

胡散臭い健康食品も怒らずに買ってあげればよかったのに

いつもそう

人間は失って初めて気づく事の出来る動物

そんな悲しい生き物なのだ


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