あいつはきっと探してた。

a.p

第1話あいつの苦しみ。





        学校は、戦場だ。






大丈夫?………僕はわかってた。心のどこかでは。大丈夫?って聞くってことは、心配だから?そうじゃない。心配してるフリはしておいて、【放って置いた】と、言われる証拠を残さない為のアリバイ作りにも等しい行為だと。あいつは言った。

「大丈夫な訳無い…っ!わかってるなら聞かないでっ!」

僕はあいつを、さほど気にかけてもいなかった。あいつは、空気を読まず、周りを否定してばかりだったから。それなりに楽しくやってたのではないかとすら思う。なのに。あいつは……

僕はあいつからちゃんと話を聞いたこともあった。大丈夫?って聞いた時。大丈夫じゃないって言うのはわかってたと思う。でも、何があったのか、気になるじゃないか。あいつは言った。

「自分はいじめにあっている。」

僕は何故か知っていた。だからこんな事を聞いたのも僕とあいつ以外居ない所で、だ。僕は弱い。いじめのターゲットになりたくないもんな。当のターゲットを前にしてこんな事を思っていた。自分じゃ無いから良いやと。周りの人も、そんな、その程度の認識だろうと。あいつは身体的には、さほど攻撃は受けていなかった。そう。身体的には。いじめで辛いのは身体的なモノより、精神的なものだということを、僕は知らなかった。だからあいつに

「お前。別に殴られたりしてないじゃん。」

そう、辛辣な言葉を投げ掛けていたのだろう。あいつは言った。最初は悪口だけだった。と。だから笑って誤魔化していたのだと言う。でも、あいつは名前、体型、全てを馬鹿にされ、理由が有れば改善すれば良いと思い、自分の何が悪いのかと聞くと、【お前の存在が】と言われたそうだ。死ね、消えろは当たり前。机に落書き、ノートにも落書き。ノートは破られさえした。上着を隠され、見つけたのは埃だらけの汚いロッカーの裏。上履が無くなっていると思いきや、異性のトイレの奥にホースで水浸しになっているという有り様だった。僕は言った。“じゃあ、何故、そこまで嫌なのなら、誰にも言わないのか”と。あいつは答えた。

「……お前なら言えんの!?…言って誰が信じてくれる!?止めさせてくれる!?ヒートアップするのがオチなんだよっ…」

僕はやっと理解した。誰にも言えないのだと。もう、信用が出来ないのだと。あいつは前に一回、教師に言ってみたそうだ。だが、その教師が腐っていた。あいつをいじめていたのは、その教師のお気に入りの奴だったらしい。その教師は、止めさせるどころか、あいつに向かって、【お前が悪い】と言ったそうだ。

あいつは、何も悪いことはしていない。ただ、運が悪かっただけだ。偶然、眼をつけられて、そいつが偶然、教師のお気に入りだっただけ。



だから僕は、神なんて信じない。信じたくても、信じられない。だって、神がいるならば、もう少し位、平等にしてくれたって良いじゃないか。人は、産まれながらに、平等じゃない。強い者と弱いものが居る。強い者は弱いものの気持ちを知らない。理解しようとすら、いや、見向きすらしないのかも知れない。だけど、たまに、ちょっとからかってみよう。暇つぶしに、と言ってからかい始め、それが当たり前になって、それが回りによって正当化され、例え、そのせいで自殺した人がいたって、学校側は隠蔽いんぺいする。

完全にこういう問題を排除するには、すべての人間の感情を殺すしか方法はないと思う。だから、そんな世界に僕は居たくもないし、僕は、少しでも、多くの良い人に、偽善者じゃない人に、わかってもらいたいと思った。だが、誰もがやっぱり、誰かを憎む、妬む感情は持って居るから、それを無いように見せ掛けて、ニコニコ笑うのも偽善に入るなら、誰だってやっぱり、偽善者なのかも知れない。それでも僕は良いと思う。仕方の無いことだから。でも、その人を嫌だと思った原因を、自分で使って人に嫌な思いをさせるのはやめて欲しいと思う。だから僕は、ここに、もう少し、あいつの事を書いていこうと思う。

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