第2-4話 部屋に虫が出てきたらどうする?
「お、おい嘘だろ?」
「す、すげ…すげえ……」
「うわ、噴水みたいだ、ばっちい。」
それは一瞬の出来事だった。
三人の男達は自分達の縄張りに迷いこんだ白髪の少女を捕まえ、抵抗できない彼女に対し、イイコトをするはずだった。しかし今、目の前に起こっていることはなんなのだろうか。
つい先程まで彼は、捕らえられた少女の白く滑らかな柔肌を蹂躙せんと、手を伸ばしていたはずだった。あの白い少女はなにも出来ないはずだった。いつものように仲間とともに、一人でいる少女を捕まえ、それを陵辱する。そのはずだった。しかし…
『わかった、じゃあ「抵抗」させてもらうね。』
彼女が苛立ちを隠そうともせずにそう吐き捨てたと思うと、彼の視界は宙に舞い、自分の身に起こったことを認識出来ぬまま、彼は意識を手放した。
「はい、次次。」
「……スゲッ?」
乙女の純潔につばをつけようとした不貞の輩の一人を成敗した私は、残る二人を片付けるべく、再び右腕を振るう。右腕の触手を振るうと、シュッという軽い風切り音とともに、私を羽交い締めにしていた男の首が落ち、細く薄暗い路地裏に立っているのは残る一人と私だけになった。
「ん、じゃあ殺るよー。まさかこんな近所にここまで古典的なチンピラが居るとは思わなかったわ」
「ヒィッ!」
残るチンピラは状況を理解出来ずにガタガタと震えている。可愛そうに、今友達の所へ行かせてあげよう。
「出来る、って頭で分かってても実際にやるのはなかなか勇気がいるんだよね、でもこうするのが一番手っ取り早いからしかたない、しかたない」
そう、私からしてみればこうするのが一番都合が良かったのだ。
相手は大人の男が三人でこちらに危害を加える気満々、この状況を切り抜けるために会話を試みるも失敗。走って逃げようにも逃げ場は無い。ならばもう、武力にものを言わせるしかない。
しかし、如何に私が女子高生としては高身長な方であっても、か弱い女の子のままでは流石に大人の男三人には勝てるわけがない、ならつい最近手に入れた異形ボディの力に頼ろう。
ならついでに口封じも兼ねて殺っちゃおう。ここには誰も来ないらしいし、この体なら証拠を残さず殺れるはずだから世間にバレる心配もない、バレなければ倫理など無きに等しいのだ。何より行き先の決まっている乙女の純潔を散らそうとした奴に容赦などはしたくない、そんな不貞の輩を殺れば気分がスカッとするだろうし良いことずくめだ。
そんな理由もあっていざ
「ほい、ラースト」
ガタガタ震えてマナーモードの携帯みたいになったチンピラにトドメを刺そうとすると、私のズボンのポケットがブルブル震えていることに気づく。
私のスマートフォンに連絡が届いたらしいが、もしかしたらつねひこから告白の返事が返ってきたのかもしれない、そうならば最優先事項だ。殺る前に確認しなくては!!
「……あれ?助…かった?」
ポケットからスマートフォンを取りだし、急いで画面を確認する。SNSには常彦からの連絡が届いているが、どうやら告白のことは書かれていないらしい。あいつらしいと言えばあいつらしいが、少しもにょもにょする。
おおざっぱに要約すると文面にはこんなことが書かれていた。
『どこまで見た目の誤魔化しが効くのか?』
『足りないところは出来る限りサポートする。』
『トラブルが起こりそうだから不用意に外に出るな。』
……やっべえ!!!
おそらく、つねひこは私の身を案じてこの連絡を入れてくれたのだろう。さすがつねひこ優しい!だけどごめんなさい。もうすでに外に出ちゃいました。
私がスマートフォンの画面を見てあわあわしていると、何かが駆けていく音が聞こえた。
「た、たたた助かったーッ!化け物でも現代っ子なんだなァ!ありがとう神様ァ!ありがとうスマホ依存症ォ!!」
「あっ、やべぇ!」
しまった、チンピラを忘れてた!あいつを通じて私が世間にバレてしまえば一巻の終わりだ。絶対に逃がしてはならない。早急に取っ捕まえて人目のつかないところでぶっ殺さねば。
「あぁんもう!畜生!」
奴を追いかけるため、勢いよく左目に指を突っ込む。我ながらとちくるったような所業だが、そこに転がる二匹の死体を処理するためだ。奴を追っかけている間にこの体が露呈するのはたぶん不味い。一番優先すべきことは誰にもバレないことだ。
「これも初めてだけど出来る出来る…」
突っ込んだゆびをぐりぐりと目玉を掻き出すように動かし、黒と金色の異形の目玉がずるりと地に落ちるたと思うと、ぽっかりと空いた眼窩から物理法則なんぞ知ったこっちゃないと言わんばかりに、異形の生き物がうじゃうじゃ這い出てくる。
「うぇっ、気持ちわるっ?!」
大きめのヒルに人間の目を取りつけたような生き物だ、自分の一部とはいえキモイことこの上なしだが…
「この二つ、片付けといて!」
そう虫?達に告げると、
虫達の食事の現場を見られた場合はもうどうしようもないが、このペースならそこまで時間をかけずに処理出来るだろう。虫達よ、武運を祈るぜ。
チェイス開始。今はもう擬態を解いたお陰で異形丸出しなので建物の壁や屋上を飛び移りながら奴に近づこう。
今日のトップスが肩だしの物であったことに感謝しつつ肩甲骨のあたりから触手を生やし、跳躍する。
「せーのっ!」
触手で地面を叩きつけるように飛び上がると、一瞬にしてこの路地を形成する建物の屋上にたどり着く。かなり距離があったが異形っ娘さまさまで簡単に奴の姿を捉える事が出来た。
半狂乱して駅前の大通りを駆け抜けるチャラチャラしたチンピラ。夕方の駅前で人がごった返す中、少しでも遠くへ逃げるためか近道になりそうな裏道を通るらしい。こっちにとっては好都合だ。
さっさとぶっ殺してつねひこに勝手に外に出たこと謝らないとね。
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「ん~、なんだろ?あれ。」
「え、なにどしたの?」
「ほら、あのビルの上!変なのが居るじゃん。」
「え、なにそれ怖い……んっと、何かにょろにょろしてる、蛸?でも人型っぽい?」
「もしかしたら宇宙人かも?」
「大発見じゃん!写真撮ってSNSに上げないと!」
「任せて、もう撮ってるよ!って!うわぁ!飛んだ?!」
「……見失っちゃった…」
この日、K県K市で謎の生き物を捉えた、ある一本の動画が話題になった。
その動画はSNSで拡散され、その日のうちに彼の目にも届くようになる。
「ご馳走さんでした。」
夕飯のお赤飯を食べ終わった彼は食器を下げると、ぽてぽてと二階にある自室へ戻る。
部屋に戻るとご飯中、充電していたスマホに連絡が届いていた。
「樹か?」
確認してみるとどうやら幼馴染みの少女からの連絡ではなく、学校の男友達で作ったグループ「厨二乙」での会話だった。
そこには彼の友人である猿田から、クラスの女子のSNSに上げられていたという動画のURLが記載されており、それに続いて『おいおいおい!これ万定と金ちゃん家の近くの駅だよな!凄いことになってるぞ!!』とハイテンションな文章が綴られていた。
彼はなんだと思い動画を開く。僅か数秒の動画を視聴し終わると、それに写っていた謎の生き物の正体に心当たりのある彼はその場にうずくまり、忌々しそうに呟いた。
「あの大馬鹿女…」
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