捨てちゃダメ

七詩みしろ

第1話 捨てちゃダメ

冬のある日。

吹雪の中、私はというと。

学校からの帰り道。突きつける雪のせいで制服はベタベタ。外気の風、そして濡れたセーラー服から伝わる狂気の冷たさに身体を震わせながら、ザクザクザクと一歩一歩、途方もない道を歩いていた。

「いたい、寒い、冷たい」

何度も心の中で唱えて。いや、直接口に出していたかもしれない。とりあえず、幾度も幾度も呪文の如く言葉を羅列させながら、漸く家路に着いた。


冷え切った身体を温めるため、なりふり構わず制服のままコタツへ潜り込んだ瞬間、口から、

「ふへぇー」

と吐き出すようにして出た言葉が、何となくおかしかった。

冷えきった足先を擦り合わせながら。

すぐ後ろにはストーブがあり、背中も暖かい。

ストーブで沸かしているヤカンがグツグツ鳴っていた。


この平和な世界にもう少し浸っていたいと思った私は、そのままゴロンと体勢を崩し、床へ寝転んだ。

制服のシワなんか気にしない。

暖かなまどろみの中、私は夢の世界へ旅立った。


数時間後、冷えた風が私の身体を目覚めさせてしまった。原因は、祖父がガラス扉を開けっ放しにしているせいだ。


平和な世界はこれにて終了。


「制服から着替えなさい」祖父の声が私の身体を起こさせた。わずかな抵抗として、コタツの中でモソモソ動いたが。この暖かな世界から抜け出すなんて。逡巡したが、私が出した答えはノーだった。


再び平和な世界へおやすみなさい。


そう思った瞬間、足先に冷徹な狂気が触れた。


これは、人の手だ。


次の瞬間足を掴まれ、思わず身を縮こまらせた。顔を上げると、

してやったり!な顔をしている祖父。少し腹が立った。


仕方なく起き上がり、ストーブで暖められていた服に着替える。

ブラウスなどは汚れ物として洗濯機へ。


ノソノソと起き上がり、洗濯機のある方へ。ブラウス放り込む。


「おい⁉︎」

祖父の声がして、虚ろだった意識が浮上した。目の前にあるのは、大きなカゴ。そう、カゴだ。


カゴと言う名のゴミ箱だ。


私は廊下なんて歩いていなかった。

コタツのすぐ側にある、障子をあけ廊下にあるゴミ箱にブラウスを捨ててしまった。


寝ぼけていたのか。

いや、今思えばボンヤリしていたのかもしれない。

まだ夢の中だったのかもしれない。


さよなら平和な世界。

おはよう、現実な世界。


できれば、夢であってほしかった。


私は未だに、私を見ていた祖父の顔が忘れないでいる。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

捨てちゃダメ 七詩みしろ @knid

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ