こうなったら異世界旅行だ!

イナロ

第1章 

 召喚(壱)

 俺の人生というトンネルに出口は無かったのだ。


 トンネルとは見せかけだけで俺は中に入ってやっと正体が分かった。

 俺の人生のトンネルとはダンジョンが化けた姿だったんだ。


 奥に行けば行くほど強くて屈強なモンスターが俺に攻撃をしてきて、敵わないと逃げた先には罠だらけ。

 どうしろと言うのだろうか。


 某勇者でさえ武器に棒や鍋の蓋を装備していたのにこっちは何の装備も身に着けず、人生という荒波に。

 ダンジョンという出口がなく、バットエンドしか残されていない冒険に行かなくては行けなんだ。


 俺には救いがないのだろうか。


 そんな事を俺は牢屋の片隅で考えていた。


「おっさん。落ち込み過ぎだぜ? 楽しく行こうぜ? なぁ?」

「うっさい。馴れ馴れしい」


 俺の肩に手を置いて慰めるな。


 それに俺はおっさんではない。

 今年で25歳のチョベリバな大人だ。


 俺と一緒の牢屋にいる無駄にテンションが高いこいつは佐崎さざき 真守まもる

 年は18歳のヤンキーみたいな小僧だ。


「イヤ~。異世界って本当にあったんだな! 俺、ライトノベルとかアニメとかで意外に憧れだったんだよね~」

「……お前、俺たちが置かれた状況を理解できているのか?」

「え? 牢屋に入れられましたね。それが?」

「……」


 バカなのか?

 牢屋ってのは悪い事をしたヤツが入るんだぞ?


 このままじゃ何があるか分かったモンじゃないんだぞ?!


「いやいや、異世界と言ったらこのくらいへっちゃらですって!」


 その自信はどっから来るんだよ。

 俺には嫌な予感しかしないよ。


 これまでの人生で理解しているつもりだが、俺の人生はクソだ。

 俺が死んで神と言う存在が目の前に現れたら一発だけ殴ると心に決めているぐらいに俺の人生はクソッタレだ。


 俺の人生に良い時があったのは少ない。


 俺には幼馴染がいた。

 その幼馴染の女の子と仲が良かったのは幼稚園だけで、小学生になったら俺をイジメる主犯の一人となり突如として始まる。


 絶望の六年間。

 

 中学生になりオタ友が出来た。

 彼は中々のオタクで俺よりもその道に精通していた。

 だが、そいう奴らはクラスの不良グループに目を付けられやすい。

 俺たち二人が目を付けらた時に彼は俺を切り捨てて向こうに付いた。


 幼馴染と一緒に俺をイジメる彼の顔は一生忘れないだろう。

 そして始まる。


 裏切りの三年間。


 高校は……。

 うん。

 特にない。

 ボッチだったよ。

 始まらなかった。


 孤独の三年間。


 この辺で理解した。

 俺の人生はクソだ、とな。


 高校を卒業と同時に地元を離れて就職した。

 地元は居づらい。


 バッタリと幼馴染か旧親友と会いそうなので、逃げるように地元を離れて就職の道を選んだ。

 頭も良くはなかったからね。


 就職した場所は安定のブラック企業。

 朝方の五時に働き、夜の十二時に終わると言う社畜真っ青な暗黒っぷりだ。


 太陽を一分も浴びる事のない日が週六日だ。

 正直、過労死しなかったのは奇跡に近い。


 一ヵ月に数人は救急車で搬送されてたっけ。


 まぁ金はもらえたからお金に関しては不満は無いが、それ以外は不満だらけだな。

 ある日、親戚が入院したのを伝え、休む事を申請したら却下された。

 その理由を聞いたら、


「死なないなら行く必要は無いだろう?」


 だった。


 ゾッとしたね。


 この会社の上の役職の方々は人として壊れているって今さら思ったよ。


 流石に俺もおかしいのを言ったら、逆切れされた。


「俺は母親の最後の日も葬式も行けなかったんだぞ! そんな事でグダグダ抜かすな!」


 結果は分かるよね?


 辞めました。


 終止符が打たれた、社畜地獄の七年間。


 俺って間違ってたかな?


 会社を辞めた俺は、お金はあるからしばらく自由気ままに休みを満喫しようとしたら……コレだよ。


 異世界に召喚されました。


 異世界召喚の始まり。


 俺の人生は呪われてるのかな?

 神じゃなくて悪魔にでも操られてるのかな?


 マジで一発だけで良いから殴らせてくれ!


 はぁ~。


 現状だが、召喚された俺たち2人は近くにいた兵士にいきなり謎の球体を握らされた。

 青い水晶球で、大きさも本家のドラゴンを呼び出すボール並みの大きさだった。


 その後、この牢屋に入れられた。

 意味分からん。


「魔法とかありますかね? エルフとか人魚とかいますかね!」

「お前は少し落ち着けよ……」


 この時の俺はまだ知らない。

 俺たちがコレから直面する危機を。


 そして俺の人生が如何にクッソタレなのかを。

 

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