第7話
「さて、これで一応パーティは組めたかな」
「正直勇者のパーティなんてヘドが出るほど嫌だけど、面子が面子だからまだマシね」
「個人的にはもっと真面な方が良かったけどな」
篠原を仲間に加えた俺たちは、ギルドを離れてある場所へ向かっていた。それはこの町で最も大きな城であり、この国の要、アグリオ城だ。そこに行けばお姫様救出のクエストに参加することができるらしい。
で、そのことを教えてくれた伊集院は、篠原と横に並んで俺の後ろを歩いているのだが……
「本当に男の子だったんだね篤人氏」
「驚いただろ?」
「こんな驚くに決まってるでしょ常識的に考えて、でも……女の子の姿が可愛いから許す!」
「だよなー」
ついさっきまで敵対していたとは思えないほど仲良くなってる。猥談して盛り上がってる男子高校生並みのテンションで話してる。それがまた怖いんだけど。
「なんでそんな仲良くなってるのお二方は?」
「いやー最初はただの豚だと思ってたんだけど、こいつがまた話がわかるやつでさ」
「僕も最初はただの腐れイケメンだと思ったんだけど、趣味が合いそうだって気づいたんだよ」
「……ちなみにきっかけは?」
「「一番エロいパンツの柄!」」
「最悪だ、萌え豚とエロガッパが手を組んだ」
「ふふっ、そういえば豚とカッパで思い出したけど、貴方たちがいた世界にそういうのが出てくる昔話があったわね?」
「え?あー西遊記のことか」
「豚とカッパと来たら、猿はもちろん――」
「お前か」
「なんでよ!どう考えたって私が三蔵法師でしょ!」
「お前みたいな邪仙、孫悟空も唾吐いて追い返すわ」
「なんですってぇ!」
獲物を見つけた野獣のようにミューが襲い掛かってきたが、男に戻った今の俺からすれば飛び掛かってくる子犬も同然。俺は歩きながら抑え込んだ、やっぱり女神でも子供は子供なんだな。
「おっ、もしかしてあれが……」
「見えてきたな、あれがアグリオ城だ」
俺たちの前に現れたのは、城を守る城壁とそれよりも大きい真っ白な城塞だ。どれもファンタジー系のゲームで出てきそうな見た目の建造物で、俺は心が昂ぶるのを感じていた。
「初めて来たお」
「結構小さいお城ね」
「えっ、これでも十分デカイだろ?」
「貴方、私を誰だと思ってるの?転生を管理してた女神よ?これの千倍以上デカイ城だって腐るほど見てきたんだから」
「お前からしたらそうかもしれないけど……うん、やっぱりテンション上がってくるよ!これぞファンタジーって感じで俺は好きだな!」
「ねぇねぇ、なんであんなテンション高いの篤人氏は?」
「ああいうベターなのが好きなのよ、私は大っ嫌いだけど」
「なるほど、決闘にノリノリだったのもそういうことか」
「ほら何やってんだよお前ら!早く行くぞ!いや~王様ってどんな人なんだろうな~!」
心と体も弾ませながら、俺たちは城塞の入り口へと向かった。城は水が張られた外堀で守られていて、城には跳ね橋を下ろして渡らないと入ることができない。今は橋が降りている状態で、橋の手前には城を守っているであろう鎧を着た男性二人が立っていた。
男性のうちの一人が、スキップしながらやって来た俺を見て少し警戒したのか、腰に下げた剣に手を置いて声を掛けてきた。
「そこの人間、ここはリーネンス王国の中心であるアグリオ城だ。何をしに来た?」
「おお、エルフ兵士だ!ってウキウキしてる場合じゃなかった。えーと、俺たち姫様救出の緊急クエストをしに来たんですけど……」
「そ、そうか、勇者か。済まない、姫様が連れ去られてからどうもピリピリしてしまって」
そりゃそうだ、一国のお姫様が魔王に連れ去らわれたとなっちゃ呑気になんてしてられないよな。
「任せてくださいよ兵士さん!俺たちが姫様を救出してみせますから!なぁみんな?」
「エルフの国の姫か……一体どんなパンティーを履いているのだろうか」
「今頃敵対しているオークたちにあんなことやこんなことされてたりして……あぁー、堪りませんな!」
「ねぇアツヒト。これから王様の姫様を助けてくれーってイベントあるだろうから私帰ってもいい?」
「…………………………………」
おい、頼むから誰か真面なことを言ってくれ。兵士さんの不審な目が俺に突き刺さってるから!
「えーと――と、とりあえず入っていいですか?」
「あ、ああ……」
エルフ兵の視線を背中に受けながら、俺たちは跳ね橋を渡って城壁の向こう側へと入った。これから姫様を助けようっていうのに大丈夫かこれ。
「なんかさっきからあのエルフ、私たちのこと変な目で見てくるんだけど。何かしたのアツヒト?」
「いやお前の所為だからな!もう、頼むから王様の前では変なこと言うなのよ?」
「何を言ってるんだ」
「そうだよ篤人氏!僕たちがそんなことすると思うかい?」
「思うから言ってんの!」
全く自覚がない仲間たちに不安を募らせている間に、俺は城壁の内側へと足を踏み込んだ。
そこで目にしたものに、俺は心を奪われた。
寂れたところが見え隠れした歴史を感じさせる白い城塞、それを彩るように色とりどりの花が周りを囲んでいた。心地の良い優しい風が頬を撫で、暖かい日差しがより神秘さを際立てている。まさに、俺がイメージするファンタジーの城だ!
「あれ?どうしたのアツヒト、急に止まって――アツヒト!?」
「え?」
「なんで泣いてるの?もしかしてホームシック?ちょっと引くよ?」
「いや、あまりにも素晴らしい景色に思わず……」
「確かに綺麗だけど、泣くほどか?」
「馬鹿野郎!ちょっとほつれのある白い城に埋め尽くすほどの花!そしてこの暖かな雰囲気!まさに俺の理想とするファンタジー世界のお城なの!」
「なるほど、それで感動のあまり泣いてしまったと」
「これくらいどこにでもあるよ、むしろ崩したいくらいなんだけど」
「お前この城に指一本触れてみろ?俺はお前を殺す」
「ええ、そこまで?ほんと引くよアツヒト?」
この素晴らしいさがわからないとは、所詮は王道に飽きた邪道女神だな。まあこれ言ったら噛み付いてきそうだから言わないけど。
花畑のような庭園を惜しみながら進み、城の入り口へと辿り着いた。そこには橋の前にいた兵士から連絡でも受けたのか、メイド服を着た女性が綺麗なお辞儀で出迎えてくれた。エルフの国だから当然だが、この人もエルフだ。
「お待ちしておりました、勇者様」
「ゆ、勇者様だなんてそんな……」
「何デレデレしてんのキモヒト」
「おほぉ〜、間近で本物のメイドさんを見れるとは!眼福であります」
「初めまして。速さに定評のある勇者、伊集院幸宗と申します。宜しければこの後俺と一緒にホテルにでも」
「え、えーと、国王様が王室でお待ちしていますので……」
「はい!すみませんこんなパーティでほんとすみません!」
引きつりながら笑顔を保つメイドさんに連れられて、俺たちは城の中へと案内された。中は質素だけど上品さがある内装で、高級ホテルよりも広い。エントランスだけでこれだと王室とかも相当広いだろうな。
「な、なんだ緊張してきたお」
「そうだな、なんせこれから会うのは国王だ」
「何言ってんのよ、国王なんかよりも遥かに偉い女神がここにいるのよ?緊張する必要なんてないわ」
「今のお前はただのちびっ子勇者だろ。頼むから余計なこと言うなよ?」
「わかってるわよ、さっさと終わらせましょう」
まだまだ不安が残るものの、進む足は止めることはできず、とうとう王室の前まで来てしまった。部屋の入口は大きいというよりも高いと言った方がいいだろう。縦に長細い二枚の扉で塞がれている。一応ドアノブはあるけど開くのだろうか?
俺たちを扉の前で待機させたメイドさんは、高い扉を小さくノックした。すると、俺たちの目の高さ辺りから急に四角い穴が開いた。どうやら小窓になっているらしく、そこから男性が顔を覗かせた。
「勇者様御一行をお連れ致しました」
男性はメイドさんから俺たちへと視線を移し、一瞬目を細めてから視線を戻した。これ絶対勇者からどうか怪しまれたな。
「……わかりました」
それだけ言うと男性は小窓を閉めた。もしかして入らないんじゃないかと不安になったが、メイドさんは何も言わないし多分大丈夫だろう。
「勇者たちよ、中へ入り給え!」
扉の向こうから声が聞こえたと思った途端、縦長の扉がゆっくりと開き始めた。どういう仕組みかすごい気になるが、入れと言われたので俺は扉の間を通り抜けた。
王室の床は大理石になっていて、赤いカーペットが兵士たちに挟まれるながら玉座まで真っ直ぐ続いていた。壁と天井はエメラルドを中心に煌びやかな装飾がされていて、エントランスなどと比べて豪華な部屋になっている。この光景だけでもいい意味で鳥肌が立つ、今にも駆け出したい気分だ。
そして、二つある玉座の右側には緑と金を基調にしたマントと王冠を被った男性が、少し険しい顔で座っていた。おそらくあの人が国王様だ。
「勇者たちよ、前へ」
扉の近くに待機していたエルフ(おそらくさっき小窓から覗いてた人)に促され、俺たちはカーペットの上を歩き出した。初めてのレッドカーペットに内心興奮しながら、両サイドにいるエルフの兵士たちを見る。橋の前にいた兵士のように俺たちのことを怪訝な目で見送っていた、視線が痛い。
「其方達が我が娘の救出を願い出た勇者達か?」
玉座の前で止まると、国王は渋い声で喋り始めた。見た感じ五十代後半の人間に見えるけど、エルフだし実際はいくつなんだろ?
まあそれは置いといて――
「お初にお目にかかります。リーネンス王国国王、ユーリス・アイリス様!我が名は雨宮篤人、恐れながら今朝勇者として道を歩み始めた若輩者でございます。ですが、勇者に長いも短いもありません。勇者として姫様の命、我が全てに掛けてお守り致します!」
俺はその場で傅き、たった今思いついたセリフを口にした。俺の行動についてこれなかったのか、ミューたちは後ろで唖然としている。
「おお、そうか。自分の弱さを認めた上で、それでも勇者として誓いを立てるとは……其方は良き勇者であろう」
「有り難きお言葉感謝致します、ユーリス王」
くぅ〜!これだよこれ!これこそまさに王道ファンタジーの掛け合いだよ!若き勇者と国王、まだまだ未熟でありながらも国王は勇者の志に胸を打たれ称賛を与える!始めての旅立ちとしては完璧だ!
「なんかすごい勇者っぽいですぞ篤人氏」
「こういう展開も好きなんだろうな」
「おい、お前らも傅けよ。俺だけじゃ意味ないだろ」
いつまで経っても棒立ちの伊集院たちに俺は国王に聞こえない音量で促した。それを聞いて伊集院と篠原は同じように傅こうとした。
その時だった。
「へぇ〜、今の王様ってハーフエルフなんだ。エルフの国なのにハーフエルフってどうなの?」
「………………………………………………………………………………………………………………………」
誇り高い雰囲気は、一瞬にして氷河期へと叩き落とされた。
「あっ、もしかして気にしてた?ごめんごめんちょっと気になっちゃって、でもあれだよね?かつて人間から国を守ったエルフの国が、今じゃ人間とのハーフだなんて……昔の人が知ったら笑っちゃうね?」
「この無礼者がァ!!」
俺たちは瞬く間に兵士たちに取り囲まれ剣先を向けられた。このアホ女神!だから余計なこと言うなって言ったんだよ!
「すみませんウチのアホが無礼なことを――」
「良い……」
「えっ」
ミューと一緒に土下座しようと頭を下げたが、それは国王様によって止められた。俺は驚いて思わず顔を上げた。
「彼女の言う通り、私はかつて敵対していた人間とのハーフ。それをよく思っていない国民がいることも事実だ。だが、私はこの血と共に生きていくことはすでに覚悟している。国民たちと向き合うことも。私はハーフエルフとして、このエルフの国を導いていく。それが私の決意だ」
「国王……」
すごい、正直種族の偏見とかハーフが悪いとかそういう問題は詳しく知らないけど。ここまで自信を持ってハッキリ言える人は今まで見たことがない。この国王なら、きっとリーネンス王国を良い方向に導くことができる。そう確信が持てた。
「ひぃすみません!姫様助けたらちょっとお尻触らせてもらおうとか考えててすみません!」
「助けた暁に結婚しようとか考えててごめんなさい!」
「ちょっ、お前ら――」
「殺せェ!こいつら全員ぶっ殺せ!」
「えええええええええええええええ国王様!?さっきまであんな寛大だったのに!」
「娘に手を出そうとする輩は例え勇者でも許さん!シエルは米寿になるまで誰にも渡さん!」
「もうそれ結婚云々言ってる場合じゃなくなってますけど!?」
「うるさい!者共、こやつの首を刎ねよ!」
ぎゃああああああああまだ冒険も何もしてないのにもうゲームオーバーなんて嫌だあああああああああ!!
そんな俺の心の叫びが聞こえたのか、王室の扉が勢いよく開かれた。入ってきたのは俺たちを案内してくれたメイドさんだった。
「失礼致します国王陛下!」
「なんだ、今からこの不埒者共を始末するところなのだが」
「帰って来ました!」
「……誰がだ?」
「あの勇者ユウヤ一行が、リーネンス王国に戻って来ました!」
「なんだと!?」
メイドさんの報告に、俺たちを取り押さえようとしていた兵士たちが驚きながらも歓喜の声を上げていた。えーと、誰ですかその勇者ユウヤとやらは?勇者って言うくらいだから俺たちと同じ異世界転生者なんだろうけど。
「マジかよ……」
「あ、あああああの勇者ユウヤ一行が……」
「えっ何、伊集院たちも知ってるの?」
「ああ、一年前に突如現れ、魔王が支配下に置いていた地域を次々と解放し、多くの者を救った伝説の勇者とその仲間だ」
「伝説の、勇者……ッ!」
「さ、最悪……」
「ミュー?」
「また……アイツに会うだなんて……ッ!」
震える声を絞り出したミューが気になり顔を向けると、全身すら真っ青にならそうなほど絶望的な表情をしていた。一体こいつと伝説の勇者の間に何があったんだ?
「それで、勇者ユウヤはどこに?」
「呼びましたかユーリス王?」
聞いたことのない声が王室の入り口から聞こえて来た。俺を含め王室にいた全員がそっちを向いた。
そこに立っていたのは、俺と同い年くらいの少年だった。髪は黒髪でアホ毛が動く度に跳ねている、顔は伊集院と比べると劣るが悪い訳ではない。身長も体格も同じくらいで、違いは服装と装備くらいだ。
そんな彼を目にした途端、険しい顔をしていた国王の表情が晴れやかになった。
「おお勇者ユウヤよ!戻って来てくれたのか!」
「丁度近くを通りかかったから挨拶でもお思ったんだけど……またマズイことになってますね?」
冗談ぽく頭を掻きながらユウヤは中に入って来た。俺たちは兵士に引っ張られる形でレッドカーペットから退けられた。レッドカーペットを歩く彼の後ろをついてくるように三人の男女も王室へと足を踏み入れた。
「なぁ伊集院、アイツの後ろにいるやつらって……」
「伝説の勇者、
なるほど、要するにバケモノの揃いってことか……
「バケモノとは心外ですね。これでもれっきとした人間ですよ」
「えっ!」
俺の心の声が聞こえていたのか、修道服に身を包んだ男がそう呟いた。いや、もしかして本当に聞こえてたのか?
「アイツは見ただけで心を読み取るブレイバーを持つ僧侶、
「やっぱりここは慣れないぜ、俺はこんなキラキラしたところより、泥臭い戦場の方が性に合ってるな」
僧侶の隣を歩いている屈強な身体をした男が、王室を見渡しながら背中に背負った大剣に視線を送る。これなら俺でもなんの職業かわかる。
「あのデカイのは、自分の体や武器を巨大化させるブレイバーの使い手、大剣戦士の
「巨人族!?そんなのもいるのか……」
「全く、なんで勇矢は自分から危険に飛び込んでかな。ほんと、私がついてなきゃ今頃死んでるかも」
オレンジと黒の魔女のような服装をした少女は、僧侶と戦士の後ろを歩きながらそんな独り言を呟いていた。
「あの魔女みたいなのは?」
「あの子は
熱く解説してくれていた伊集院を貫くように、雷が横から飛んで来た。真っ黒になったアホから顔を移すと、腕に電気を纏いながら顔を真っ赤にしてお怒りになられている魔法使いがいた。
「貧乳はステータスだお!気にすることなあべし!」
「あはは……ほんとすみません」
「ふん!」
魔法使いはそっぽを向いて後を追いかけた。彼女の前で貧乳って単語は出さない方がいいな、命に関わる。
「勇者ユウヤよ、どうか我が娘を助けてくれ!もう君たちしか頼れる者がいないのだ!」
「とはいえ、相手は魔王です。今までモンスターとは比べ物にはならないでしょう」
「だな、それにここには通りかかっただけで、俺たちはクエストの真っ最中だ」
「……どうするの、勇矢」
魔法使いの問いかけに、勇矢は一度大きく息を吐いてから申し訳なさそうに笑顔を返した。
「悪い、ちょっと寄り道していいか?」
「はぁ、そう言うと思ったわよ」
「はははっ!それでこそ勇矢だ!」
「ユーリス王、シエル姫の場所はわかりますか?」
「シエルはリーネンス王国から北西に進んだ場所にあるエルベルダという街にいる。あそこは魔王トゥーカが拠点する魔王城がある、きっとシエルもそこにいるだろう」
「じゃあその魔王城に行ってシエル姫を助ければいいんだな?」
「ああ、宜しく頼む」
なんだかトントン拍子に話が進んでいく。ていうかいいな今の会話、俺もやってみたい。
「うっしゃ!なんだか気合い入ってきたぜ!」
「そうは言うけど、ここからエルベルダまで歩いて四日は掛かるわよ?」
「お前がテレポートの魔法でも使えればな」
「あら、テレポートなんかよりも速い電撃なら使えるけど。試してみる?」
「い、いや、遠慮しとく……」
「やめないか大貴、今の愛梨は勇矢がシエル姫に会いに行く&助けると言い出して機嫌が悪いんだ」
「な、なんで私が勇矢のことなんかで機嫌損ねなきゃならないのよ!別にアイツがどこの女にうつつを抜かそうと私には関係ないんだから!」
「勇者ユウヤよ。其方達にこれを進呈しよう。救出までの足掛かりにするといい」
そう言って国王の命令で一人の兵士が勇矢に一つの箱を渡した。中にはこの世界の金である金貨や銀貨が大量に入っていた。あれざっといくらくらいだ?
「ありがとうユーリス王!」
「お礼を言いたいのはこちらの方だ……娘を頼むぞ、勇者達よ!」
伝説の勇者たちは国王に一礼してから踵を返した。その途中で勇矢が俺の方を向いた、驚いて体が強張ったが、視線がどうも下に向いていることに気づき、それを辿る。そこには俺を盾にするように隠れているミューがいた。
「何してんのお前?」
「アイツ、一年前に私がこの世界に送ったやつなの!しかも、私が異世界転生を嫌いになった原因もアイツなのよ!」
「マジで?」
ミューの言葉に俺は内心驚いていた。こいつが邪道へ進んだ原因がいるとは……でも、そんなに王道系か?確かにザ・主人公って感じはするけど。
そう思った瞬間、二つの短い悲鳴と倒れるような音が聞こえた。俺はそっちへと顔を向けると、そこにはカーペットの上で倒れる勇矢と魔法使いの姿があった。
しかも、ただ倒れているのではない。魔法使いが勇矢を押し倒したように上で四つん這いになり、下にいる勇矢は咄嗟に支えようとしたのだろう、魔法使いに両手を伸ばしている。
だが、触っている場所は完全に彼女の胸部だった。
「あ、アンタ……ッ!」
「え?あ……」
「なんで毎回毎回そうなるのよ!」
電撃を纏ったビンタが勇矢の顔に炸裂した。あんな光景ライトノベルしか見たことないんだけど、羨ましいなおい。
同じくその光景を見ていたミューは、我慢出来ずに悶絶し始めた。
「転生の間に来てから伝説になるまでずっっっっっっとあんな感じなのよアイツ!もう嫌になっちゃうわよ!」
「なるほど、典型的なライトノベル主人公タイプってことか。羨ましい」
「アツヒトがあんな感じになった瞬間、私はもう――何するかわからないから!」
おいやめろ、目がマジ過ぎる。
「ごめん!ほんとごめん!」
「今日という今日は許さないんだから!」
「二人とやめないか、王室だぞここは」
「はははっ!いいじゃねぇか、これでこそウチのパーティだ」
魔法使いに追いかけられながら、勇矢とその仲間たちは王室を出て行った。彼らがいなくなった後も、王室はすっかり安心した雰囲気に満ち溢れていた。
ていうか――
「あ、あのー……」
「む?……あっ、まだ居たのか貴様達は」
「いや、俺たちも一応姫様助けに来たんですけど?」
「うん。まあ……あれだ。頑張ってくれ給え」
「え?いやまあ頑張りますけど、軍資金的なものは……」
「なんだ金が欲しいのか?欲張りな勇者だな」
目に見えて面倒臭そうな顔をして国王は近くにいた兵士を呼び寄せ、懐から数枚の金貨を取り出し兵士に渡した。
それを受け取った兵士はそそくさと俺の前までやって来た。
「まあなんだ……無駄かもしれないが其方達の武運を祈る!さぁ旅立て、勇者達よ!」
こうして俺たちの旅は始まった。
貰った軍資金は、150アグルだった。
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