眼には眼を

foxhanger

眼には眼を

「助けて下さい……」

 男は弱々しく言った。拳やら蹴りやらバットやらで小一時間もボコボコに殴られ蹴られて、顔は腫れ上がり、口の端からは血が流れている。

「ダメだね」

「あんたは○○ちゃんを助けたのかよ」

 おれとヨシオは口々に嘲った。

 五人のうち、もう四人殺した。

 一人目はバットで頭をかち割り、二人目は全身を刺し、出血多量で苦しむところをトドメに首を絞めた。三人目は感電死させ、四人目は手足を縛って湯船に投げ入れ、水を張って溺死させた。そしてこいつが残った。

 この男は、連続女児殺人犯、増田謙一のクローンだ。数年前に女児五人を次々に誘拐して、それぞれ残虐な手段で殺した。そのちょっと前にこの国では死刑制度が廃止され、死刑に相当する犯罪は終身刑になった。こいつは間違いなく死刑になるはずだったのだが、生きながらえた。にもかかわらず、刑務所に入っても未だに反省の色もなく、犯行を否認し続けているというじゃないか……。

 そのためか知らないが、裏で凶悪犯の細胞から作ったクローンが出回り、終身刑になった凶悪犯のクローンに「報復」をするのがちょっとした流行になっている。被害者の無念を、法律に代わって晴らすのだ。

 おれとヨシオもその流行に乗って、クローンを手に入れた。おれたちは被害者とは親族でも、知り合いでもない。しかし、こんな行為をしたやつが許されるはずもない。しかるべき報いを下さなければならない。

 こいつが殺した女児は五人。それに合わせて五人のクローンを作って、四人までは殺した。あとひとりだ。

 俺とヨシオは顔を見合わせて、にやりと笑う。

「最後のひとりは、とびきり残酷な殺し方をしないと」

「そうだな、苦しんで苦しんで苦しめないと、殺された女の子が浮かばれない」

「やっぱり、アレしかないだろうな……」

 手足を縛り上げ、動けないようにしてから、わらでくるんだ。そこに灯油をじゃぼじゃぼと振りかける。

 あとは火を付けるだけになった、そのとき。

 テレビの画面からこんなニュースが流れてきたのだ。

「五年前の連続女児殺害事件に関して、別の事件で逮捕されていた男が一連の犯行に関与していることを供述しました。男の自供には犯人しか知り得ない『秘密の暴露』が含まれており、一連の事件の真犯人である可能性が高いとみられています。これにより現在終身刑が確定している増田謙一受刑者の、再審請求が認められる見通しです……」

 おれは呆然と、縛られた「増田謙一」のクローンを見た。

 顔は原型を留めないほど青黒くふくれあがって血で汚れ、その眼からはうっすらと涙を浮かべている。ぎっちり縛られていて身動きも取れない。

 こいつがやってない、だって……。

「どうか、命だけは……」

「増田謙一」のクローンは、か細い声でいった。

「……」

 しかし、ヨシオはわらに黙って火を付けた。

 瞬く間に火は回り、「増田謙一」は、激しい炎の中に雄叫び声を上げて焼かれていった。

 その有様を見届けたあと、ヨシオは逮捕された「犯人」の画像を指さして、いった。

「次はあいつのクローンを手に入れなきゃ、な」

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