第22話 変化

 俺は部室に一人で居た。

 しおんだけじゃない、由美ゆみも体調不良で休むと聞いていたので、特に一人でここにいる理由も無かったのだが、習慣になってしまったからかつい部室に来てしまった。


「しおんも風邪……かな?」


 毎日会ってる分、会わない日がくるとは思ってなかった俺は、彼女の体調を心配していた。


「お見舞いに行った方がいいのかな……でも家、分からないからな」


 特に何もする事がない。

 俺はしおんが座っていた席に座りながら窓から空を眺め、昨日の出来事を思い出す。


「あれは、七不思議だったんだろうか……」


 突然の頭痛に見舞われたあの夜。

 結局未来へ帰る事はできなかったが、かわりに無くしていた記憶が戻った。

 あの時しおんを助けていなければ起きえた未来。それを変える事ができたことを確信する。


「俺は、ここからスタートするしかないんだな」


 不思議とそこに不安は無かった。

 だって、これからは大切な人と一緒に居られるのだから。


「でも、あの光は何だったんだろう」


 由美の身に起きた変化、確かに淡い光を放っていたように見えた。

 それに起因するように起きた事象。

 分からないことはまだ残っていた。


「由美は、何か隠してる? でも何故?」


 あの時由美がポツリと呟いた言葉を思い出す。


「何も……ない……」


 何もないって何なんだ? 何が無いんだ?


「わからない」


 答えの無い考察に頭を使うのも疲れた。


「今日はもう帰ろう……」


 俺は鞄を手に取り、部室を後にした。



-----------------------------------



 翌日、しおんは学園に登校した。

 由美も休んだのは一日だけで、しおん同様学園に来ていた。

 放課後、部室内で揃う三人。

 しかし、その空気は少し違っていた。


「……」


「……」


 二人とも無言で、何か思い詰めた様子を見せていた。


「二人とも大丈夫? まだ休んでいた方が良かったんじゃない?」


 俺は心配になって声を掛ける。


「いえ、大丈夫です。もう平気ですから」


「うーん、私はまだ頭が痛いかなあ……」


 由美は頭痛に悩まされてるらしい、さっきからしきりに頭を押さえる仕草で弱音を吐いてくる。


「由美さんも、無理なさらないで今日は早めに帰ってもらって構いませんよ?」


 そう言うしおんの言葉に由美は「うん」といい、鞄を手に取った。


「じゃあごめんね? 先に帰るよぉ……」


 そう行ってフラフラと部室を出て行く由美。部室には俺としおんの二人だけが残った。


「しおんも大丈夫? なんだか顔色悪いけど、無理せず早めに帰った方がいいんじゃない?」


「はい、ご心配ありがとうございます。でも私は大丈夫ですので……」


 そう行って少し影がある笑みを浮かべるしおん。


「本当? でも──」


「本当に大丈夫です……平気ですから」


 本当に大丈夫なのだろうか? さっきから元気が無いし、なにより──


「しおん、なんだかいつもと雰囲気が違うなって思って、体調不良が原因ってわけじゃないよね?」


「ですから、もう大丈夫ですって……」


 話せば話す程、彼女の表情には影が落ちるように見えた。


「もしかして、あの夜何かあった?」


「え……?」


 彼女の表情が固まる。

 俺は聞いてはいけない事なのかもしれないと一瞬考えたが、彼女の俺に対する態度があまりにも普段とは違い、昔に戻ったようなよそよそしさを感じ、聞いてみることにした。


「やっぱり、何かあったんだね? 俺でよかったら力になるよ」


「ッ……!」


 彼女は視線を逸らしてしまう。


「俺にできることなら何でも言って欲しい、だって俺たちは──」


「……めてください」


「え?」


「やめてください!」


 突然大声を上げるしおんに俺は黙ってしまう。


「やめて……今は……ダメなんです……」


「ダメって……何が……」


「……っ!」


 ガタッと席を立つと部室の外へ走り出してしまうしおん。


「あ、待って!」


 俺はすぐに後を追うも、彼女を見失ってしまった。


「……どうしたんだよ……」


 部室には俺と、彼女の鞄だけが残された。

 夕暮れになってもしおんは帰ってこなかった。


「どこ行ったんだろう……」


 俺は一人、部室で彼女の帰りを待っていたのだが、一向に帰ってくる気配を見せない事に苛立ちと不安を感じる。


「……やっぱり探そう」


 俺は部室を出た。



 教室や校庭を一通り探し回ったが、彼女を見つけることができなかった。

 途方に暮れた俺は、部室へ戻る途中、ふと、あの校舎裏の空き地が気になり寄ってみることにした。

 確信があったわけではないが、何故か、彼女がそこに居る気がしたのだ。


「しおん……」


 やはり、彼女はそこに居た。

 俺はゆっくりと近づき、空き地の真ん中にポツンと居るしおんに声を掛ける。


「そこに居たのか」


祐二ゆうじ……くん……」


「探したよ」


「すみません……」


「何があったかはもう聞かない。聞いちゃいけない事なんでしょきっと」


「それは……」


 答えに迷う表情で硬直してしまうしおん。


「俺が力になれない事なら仕方ないよ。無理に聞こうとしてごめんね」


「優しいんですね……」


「そりゃあ、しおんの彼氏だからね」


「祐二くん……」


 お互い見つめ合う。

 しおんは何か思い詰めた表情で俺を見つめる。


「あの、祐二くん……お願いがあるんです……」


「うん? 何?」


「私と──」


 彼女は一瞬、ほんの一瞬言うのをためらったが、その残りを俺に伝えてきた。


「私と、別れてください」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る