音々side
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広鉄総合病院で受診し、祖母は即日入院することになった。
「こんな状態でよく歩けましたね。しんどかったでしょう」
医師は血液検査のデータを見ながら、看護師に車椅子を用意させた。
「娘さんですか?お父さんに連絡は?」
「私は……親戚の者です。おじさんには電話しました。すぐに病院に来られると思います」
「そうですか。ご主人が来られるまで、守田さんは少し病室で休んでいて下さい。ご主人が来られたら病状の説明をし精密検査をしましょう。このまま入院し治療することになると思います」
「はい。宜しくお願いします」
看護師に案内され、私は入院病棟に付き添う。病室は大きな窓がある個室だった。祖母は着の身着のまま、入院準備もしていない。
「お父さんに、家のことが出来るかなぁ……。お祖父ちゃんの世話もあるのに、すぐに入院だなんて困ったな……」
祖母は自分のことよりも、家族のことばかり心配している。
「蛍子さん。家のことは私もお手伝いしますから。しっかり治療に専念して下さい」
「音々さん、悪いわね。貧血で車椅子だなんて、総合病院の先生は本当に大袈裟なんだから」
広鉄総合病院の医師は、祖母に病名は告げなかった。祖母は個人病院で告げられた病名のことは、私の前で口にはしなかった。
――広鉄総合病院に駆け付けた祖父。
担当医から
祖母は精密検査後、すぐに輸血を始めた。
「音々さん、綾と瑠美に電話して来ます。蛍子が、美紘は出産が近いから心配させとうないと言うので、美紘とお祖父ちゃんには病名は言わんで下さい」
「わかりました」
祖父は病院の公衆電話から、母(綾)と瑠美お姉ちゃんに電話を掛けた。祖父の丸くなった背中。受話器を持つ手が震えていることに、胸が締め付けられた。
――1時間後、病院に母が駆け付けた。
1月の挙式披露宴で両親に逢ったが、その時、直接会話を交わすことはなかった。
この時代に面と向かって、母と話すのは初めてだった。
「あなたが……お父さんの遠い親戚のお嬢さん?」
「……はい」
母は私をまじまじと見つめる。
「私や瑠美と似てなくもないわね。結婚式の日に、私の友達だと嘘をついたでしょう。母はその嘘を信じたみたいだけど、きっと何か事情があるのね。でも、今日は詮索しないわ。母の入院に付き添ってくれてありがとう。お母さんは?」
「今……病室です」
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