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「お婆ちゃん、ただいま。お客様ですか?」


「音々ちゃん、お帰り。お疲れ様じゃったねぇ。はよ上がりんさい。孫が来てくれたんじゃ」


「孫……」


 坊主頭の男子が座敷から飛び出した。両手で私の両肩を掴み、興奮気味に声を上げた。


「音々ちゃんもこの時代にタイムスリップしとったんか!婆ちゃんちにおるなんてたまげたぁ。けど、無事でよかったよかった!」


 彼は私を両手でギュッと抱き締める。

 男子に抱き締められ、全身がカーッと熱くなる。恥ずかしさから、思わず一歩後ずさる。


「時正、何しよるんか。嫁入り前の娘に抱き着くとはなんね。音々ちゃんが困っとるじゃろう。音々ちゃんのこと知っとるんね?音々ちゃんは昔の記憶を無くしとるんじゃ。音々ちゃんの家はどこなんね?ご両親は健在にしとりなさるんね?」


 彼がお婆ちゃんの孫で、名前は時正……。

 

 彼は私の携帯電話の画像に写っていた男子に違いない。


「音々ちゃんが記憶を無くしとる?ほんまか?僕がわからんのんか?桃弥君のことも忘れたんか?婆ちゃん……音々ちゃんのご両親はここにはおらん」


「まぁ……戦死なさったんか?それで記憶を……。可哀想に……」


 私の両親が戦死……?


 彼は家族のことを知ってるの……?


「今日は米の配給があったんじゃ。ご飯も炊けとる。音々ちゃんも勤労奉仕で疲れとるじゃろう。時正、ご飯を食べながらゆっくり話さんね」


「そうじゃな。久しぶりの婆ちゃんの飯じゃ。音々ちゃん飯を食いながら話そう」


 彼に手首を掴まれ、どきんと鼓動が跳ねた。


 着替えを済ませ座敷に戻ると、食卓の上には芋の煮物と魚の干物、富さんから貰った胡瓜やトマト、お婆ちゃんの漬物が並んでいた。


 ここに来て一番のご馳走だ。お婆ちゃんは欠けたお茶碗に白米をよそい、私はお椀にお味噌汁をつぐ。


「婆ちゃんの飯はばりうまいけぇ、音々ちゃんも遠慮のう食べんさい」


「はい。いただきます」


 彼はよほどお腹が空いていたのか、ガツガツとご飯を口の中に掻き込む。


「炊き立ての白飯はやっぱりうまいのう。婆ちゃんおかわり」


「まあ、もう食べたんね。時正、ぎょうさん炊いたけぇ、よう噛んで食べんさい」


 お婆ちゃんはニコニコ笑いながら、差し出されたお茶碗にご飯をよそった。


「あの……。さっき軍人さんがビラを剥がしてました。あのビラを貼ったのはあなたですよね?」


 私の言葉に彼の箸が止まった。


「もう剥がされたんか……」


 彼は悔しそうに唇を噛む。

 お婆ちゃんが心配そうに彼の顔を覗き込んだ。

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