まだ見ぬ嫁を求めて魔物退治(仮)

君野笑顔

第1話 運命のヨメ‼︎



今日も街では多くの人々が出逢い、別れ、出逢ってもいないのに妄想で恋焦がれる賢者がいたり、不幸にもその賢者に好かれた嫁で溢れている。


「嗚呼、あそこに見えるは俺が長年探し求めていた嫁だ‼︎ まさか、こんな所にいたとは…」

「おい、お前のその言葉もう何回聞いたと思ってるんだ?」


俺は深いため息をつきながら、巨漢の漢をたしなめた。


「見よ、黒髪のロングヘアーに透き通る様な白い肌。キリッとしたキツネ目の虚勢な顔付きは、まさにこの世界に咲く一輪の薔薇。凛としたその佇まいは、見る者を全てを魅了する。そんな姿に近づく輩も多いことだろう。しかし、綺麗な薔薇には棘がある! 触れる者は皆、その棘に触れて傷ついてしまう。まだ見ぬ夫となる男性と出逢うまでは指一本触れさせることを許さないのだ。」


只ならぬ視線を感じたのか否か、黒髪の彼女はその視線の先を探すように怪訝な顔をして辺りをキョロキョロ見渡している。


「いやいや、お前も自分の言う幾千もの輩の中の一人じゃないのかい?」

「何を言う! 見よ、この汚れなき純粋無垢な清き身体を‼︎」


そう言うと、頼んでもいないのに着ていた鎧を脱ぎ捨て、自分の肉体を見せびらかすかのようにポーズをして見せる。本人は力こぶを作って見せているつもりなのだろうが、丸みを帯びた身体からは浮き出る筋肉もなく、丸みを帯びた腕にはだらしなくたるんだ二の腕が揺れるだけだった。


「いやいや、脱ぐな脱ぐな‼︎ その気持ち悪い毛むくじゃらなその身体を公衆の面前に晒すんじゃない‼︎」


いきなり立ち上がり、服を脱ぎ捨てた30過ぎの男を見た周りの客が、悲鳴をあげている。俺は手を広げて公衆の面前からユータの身体を隠しながら、頭を下げてスミマセン、スミマセンと頭を下げてまわった。


「いい歳なんだから、現実を見なよ。お前のことなんか彼女は気にも止めていないよ。だいたい、酒場で依頼されている仕事でもDランクの仕事しかこなせない戦士に何処の女性が魅力を感じるというのさ。」


ローブに身を包み、ドリンクを片手に俺らのやり取りを静観して見ていたケイスケがため息をつきながら嗜める。


「馬鹿を言うな! 俺だってコツコツと仕事をこなしてだな、次からはCランクの仕事を受けた所なんだ! すぐにでもBランク、Aランクの仕事をだな…」

「行方不明のペットを探す仕事なんかをやっているようじゃ先が思いやられるね。」


むぐぅ、と声にならない呻き声をあげてユータが黙り込む。ケイスケは涼しい顔でドリンクを飲み干すと、マスターにお代わりを注文した。


「まぁ、俺らみたいな出来損ないに振り向く女性なんかよっぽどの変わり者かダメ男を放っておけない女神みたいな人だろうね。」


そんな話をしているうちに、話題の彼女は何処かに行ってしまった。


「もう!お前らがつまらないことを言うから、俺の運命の嫁がいなくなってしまったじゃないか‼︎」


鼻息を吹き出しながら、真っ赤な顔をしてユータは俺らを非難した。


「お客さん、これ以上騒ぐようなら他のお客さんに迷惑になるので出て行ってもらうよ」


マスターにそう嗜められると、ユータは黙ってその巨体を椅子に預けた。


「嫁を探す前にまずは目の前の仕事を片付けないとね。ほら、もうお昼も過ぎて依頼人に会いに行く時間だよ。」


俺たちは、不毛なやり取りをやめにして残りの昼食を平らげると、支払いを済ませて酒場を後にした。



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