サーカス(担ぐ男)
ばんがい
第1話
さぁさぁよってらっしゃい見てらっしゃい。
今から見せるのは世に二人といない怪力男。
どんなに重たい物だって背中に乗っけて歩いて見せる。デカイ金庫だって車だって何だってだ。
そら、あいつの背中を見てごらん。右肩から腰のあたりまでが盛り上がっている。それこそが怪力の証明だ。さぁ、テントの中にお入り。チケット代をケチっちゃ人生の損だよー。
調子の良いモギリが鉄骨で組まれた大きなサーカステントの入口で声をかけている。
チケットを買って中に入るとそこには入口で言ってたような背中が筋肉で盛り上がった大男が1人ポツンと立っていた。広い小屋の中には大男以外に大きな金庫や何かよくわからないとにかく重そうな鉄のカタマリが置いてある。
充分に人がサーカスの中へ入ったところで舞台にさっき入口で見たモギリが現れた。
さて皆さんよくお集まりくださいました。今からこの大男の怪力をお見せしたいのはヤマヤマなのですが。
残念ながらこの男。荷物を乗せて歩くのは得意でも肩まで持ち上げるのは不得意でして。どなたかここにある物を持ち上げて男の肩に乗せる事が出来る方はいらっしゃいませんか。おや、残念ながらいらっしゃらない。それなら仕方ない、残念ながら見せる芸がございません。お帰りはあちらでございます。
そういってモギリがさっさと出口を指した。
やられた、詐欺だ。つかみかかってやりたいがあの大男。俺より力が弱いということはなさそうだ。
悔しくって出る時、近くにあった柱みたいなのをガツンと蹴ってやった。
ガツン。みしり。
テントが少し揺れたような気がする。
他の客も自分と似たようなものでテントを出る時に悔し紛れに色んな物を蹴ったりなんかして帰っていく。その度にテントは少し揺れて、変な音がした。
ガツン。みしり。ガツン。みしり。ガツン。みしり。
ガツン。べき。
最後の客も同じようにして出てきた時、何かが折れる音がして、モギリと大男が残っているテントはベキボキ音を立てながら倒れていった。
俺たちが青い顔をして、倒れたテントを見ていると、さっきのモギリの声が中から聞こえてきた。
やぁ皆さん私たちの事は心配なさらず、倒れたテントは組み合わさって偶然にも怪力男の肩に乗っかったようです。だがしかしテントが壊れちゃ店じまいだ。また別の町でお会いしまょう。
男の声が聞こえなくなると、倒れたテントはずるずると引きずるようにして動いていき、そのまま町から消えていってしまった。
サーカス(担ぐ男) ばんがい @denims
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