第07話

  リテラという星の景観的特徴を一言で言うならば、「まるで宝石のような」という言葉がふさわしい。

 鉱物を基とする生命進化を遂げてきたこの星の自然は、その殆どが多種多様な美しい結晶構造を持っている。

 そして、リテラの主生存種族たるナマートリュもまた、その構造を文字どおりした生命体である。

 総体的な精神構造を持つ彼等は、自らの種の「同根にして同源」である自然に対し、太古から強い親愛と敬意を抱いてきた。

 その意識のひとつの現れが、リテラにおける建築であり、建築物に自然の構造と外観を取り入れることで、自らもまた自然の一部であると表しているという。

 無論、それを可能とする文化の成熟と、高い技術力を持つからこその話であるのは言うまでもない。

 しかし、自然と共にあることを喜び、その存在を喜ぶという、ナマートリュの種族的な性質がよくわかる話でもある。

 そして、地球ときわめて似たであるリテラは、大気の組成もまた、地球とほぼ同じ。

 地球の酸素生成は、そのほとんどが植物の光合成によるものだが、実はこのリテラにおいても、酸素の供給は植物によって為されている。

 前述の通り、リテラの自然物は全て結晶構造を持っており、植物もまた例外ではない。

 どういった進化を経てのものなのかはわからないが、結晶や貴金属でできているはずの植物もまた、地球の植物同様に光合成を行い、酸素を生成しているという。

 これひとつを例にとってみても、リテラは、地球のものとは全く異なるものでありながら、結果として、極めて地球に近似の環境を形成していることが見て取れ──

 風景を眺め、道々、そんな話題を口に上らせつつ、彼等は歩いて──そう、歩いている。

 てくてくと、外を。リテラの、美しい宝石のような自然の中を。

 彼等、ひかりとナマートリュの新人組ふたり。心地よい空気の中、自然と横に並んで、賑やかに。

 もっとも、本来ならば「外を歩く」必要はほとんどない。

 というのも、今回の滞在で訪れる予定の施設は、どれもそれぞれに相互の転送装置で繋がっており、専用のさえ通れば、簡単に往き来できるようになっているからだ。

 けれど、今日それを使わなかったのは、「リテラを自分の目で見て、自分の足で歩きたい! そういうのが勉強ってことでしょ!」というひかりの強い好奇心ねがいを満たすため、ふたりに頼み込んであえて「寄り道ハイキング」を決行してもらったのである。

 そもそもは、昨日のこと。

 ひかりは、例の「旅のしおり」を読み直しておさらいしつつ、ふたりにリテラについていろいろと質問していた。

 しおりに書かれている内容など当然、必要最低限のものだけである。であれば、ふたりから聞くリテラの話が、ひかりの興味と好奇心を大いに刺激したのも無理からぬ話であった。

「……今更ながら、リテラって不思議な星よね……植物まで鉱物でできてるなんて。」

 あちらこちら目移りするように見まわしながら、地球では絶対に見られないような景観を視覚に収めては、ひかりは感嘆にも似た息を洩らす。

「地球人から見ると、確かにそうかも。僕たちはそれが当たり前として、地球とリテラでは、起源や環境には本来かなり違いがあるしね。でも、結果として、それも含めた上で、ふたつの星はとても似た環境になった。そのことの方がずっと不思議だなって、僕は思うよ。」

 確かにそうかも。フィニットが返す言葉に、ひかりも深く頷いた。

 最近、ふたりとの雑談が高じると、今みたいにちょっとした講義っぽくなることがある。

 とはいえ、そうなるとほとんどの場合、フィニットが先生役だった。ちょっと難しそうな話になると、ノーティはすぐ「オレは得意じゃねぇから!」と丸投げして逃げてしまうのだ。

 ノーティっていつもこんな調子なんだよね。肩を竦めてあきれたように言っていたフィニットは、けれど、あきれながらも、何処かそれを楽しんでいるところがあるように見える。

 要するに「凸凹コンビ」というやつなんだろうな。ふたりの間にあるものが、いわゆる男子の悪友関係のそれっぽくて、ひかりは大いに微笑ましく、そして、ちょっしたうらやましさも感じてしまう。

「ねぇ、ひょっとしたら、いつか地球人が来たときのために、リテラが地球人に合わせた進化をしてくれてるとかって可能性があったりは……しないかなぁ?」

「其処まで話が吹っ飛ぶと、さすがに自意識過剰じゃね?」

 想像たくましく語るひかりに、ノーティが平たい表情でツッコミを入れた。とはいえ勿論、その程度で盛り上がる想像が止まるはずはない。

「すっごいロマンのある話だと思うんだけどなー。だって、地球とリテラって、実は双子の星なんでしょ? 双子っていえば、こう、以心伝心してるとか通じ合ってるとか、そういうイメージあるじゃない。突飛な話なのは認めるけど、ま、想像するだけならタダよ、タダ!」

 地球とリテラ、こんなに違って、こんなに似ている。

 その奇縁を思えば、こんな突飛な想像も、案外悪くないと思うのだ。

「あっ! ねぇ、そういえばリテラって水はどうなってるの? 海もある?」

 滞在施設がある辺りは、日本に近い場所を選んだと言っていただけあって、確かに「じわじわと暑い日本の夏」だった。けれど、今歩いている場所の空気は、もう少し、ひんやりさらりとした感触である。

 気候に差があるなら、雨や雪もあるのだろうか。

「海もあるよ。海水が太陽光で温められて雲になって、それがまた雨や雪として循環するのも、地球と同じ。ただ、地球の海よりも鉱物ミネラルが多く含まれるから、比重はもっと大きくなるけど。」

「比重が大きいってことは、重いってことで……あ、つまり死海みたいに沈まないってことよね? うわ、リテラの海行ってみたい……!」

「シカイ? あぁ、地球上の塩分濃度の高い湖……だっけ?」

「そうそれ! 水の比重が高いから人の身体がプカプカ浮いちゃうっていうやつ! あれ一度体験してみたいと思ってたのよね!」

「でも、スケジュールを見た限りだと、今回の滞在中に海に行くのは、ちょっと難しい……かも……?」

 未知の場所に対する期待に、ひかりはわくわくと胸躍らせる。ただ、フィニットの、やんわりながらも否定気味な言葉で現実に引き戻され、がっくりと肩を落とすことにはなったが。

「っていうか、次があるかどうかわかんねェだろ。あったとしても、またひかりが来られるとは限らないんだし。だったら、行けるときに行っとく方がよくね?」

 がっかりするひかりの横から、ノーティが、やにわに大きく声を上げた。フィニットの肩をはじくように叩いて詰め寄り、いかにも「悪いことを思いついた悪ガキ」という顔でそんなことを提案する。

「でも、今回の見学リストに、海寄りの場所は入ってなかったし……」

「オレたちがチョチョイっと連れてってやればいいだろ!」

「僕たちにそんな権限ないよ?!」

 フィニットの言葉どおり、護衛として着いているふたりには、ひかりの予定を勝手に決めることなどできない。

 せいぜいが今日のように、「目的地に行く方法を任意に決める」くらいのことである。

 だが、ノーティはその思いつきを引っ込める気はないようだった。

「ひかりの予定なんかばっかりじゃん! 一日くらいならどっか空けられるだろ?」

「ちょっと! 予定なんかって何よ、なんかって!」

「まって、ひかりもちょっと抑えて?!」

 ひかりがノーティに抗議する。フィニットがその抗議も制止して、ふたりの間に割って入る。

「あのさノーティ。さっきも言ったけど、それは僕たちの一存じゃ決められないってば! 予定の変更は申請出さないと無理だし、受理されるかどうかもわかんないし!」

「んなこたわかってるって! 何も今すぐ行こうって話じゃないんだし、それに、リテラをもっと知ってもらうって名目なら、悪くない案だと思わねぇ?」

「確かに理由としてはいいと思うけど、どちらにせよ僕たちだけじゃ無理。改めて、きちんと予定を組むなら、ひかりからも強い要望って形をとってもらうとか、いろいろ必要だから! ……それが通れば、僕だって全然賛成だよ。」

 ノーティの放言に振り回されている感たっぷりに、はあぁ、と大きな溜息をついたフィニット。とはいえ、結局のところ、フィニットもひかりを海に連れて行きたいと思っていたのだ。

 実現はともかく、ひかりにとってのリテラでの楽しみが、こうしてまたひとつ増えた。

 現金なもので、楽しみが増えれば、テンションも俄然上がってくる。

 きらっきらの満面の笑顔を浮かべて、ふたりの背をバシバシと思いっきり叩きながら、ひかりはいつか来るかもしれないその日を、わくわくと想像した。

「……ありがと、ふたりとも!!」

 声高らかな感謝の言葉に、盛大な気持ちをこめながら。



「十五分の遅刻だ。」

 自分の前に、蝦名の不機嫌な顔がある。

 理由は、蝦名の言葉そのままであった。

「……えーっと、すみません……」

「滞在から日も経ち、そろそろ馴れが出てきているようだが、我々はあくまでも客分ビジターであり、公的な立場として此処に来ていることを忘れてもらっては困る。これは君が一般人だろうと学生だろうと関係ない。責任ある特殊な身であるという自覚を持って欲しいものだな。」

「あー、あの、勿論、そのとおりだと思います、ハイ。すみません!」

 蝦名の嫌味含みのに、ぺこんぺこんと頭を下げて謝り倒す。

 勿論、少々とはいえ、遅刻は遅刻。ちゃんと転移門を使っていれば遅刻はしなかったはずだ。

 それに、自由時間の多いひかりと違い、協議だの何だの多忙な中でも遅れずに来ている蝦名を前にすれば、ひかり自身としても反省あるのみ、ということは重々わかっている。

 でも、だからこそ。

「……私も、リテラについていろいろ知っておきかったし! っていうか知っておくべきだと思うし!」

 そうしてしっかり反省した上で、ひかりは必死に言い募った。

 蝦名から見れば、ただの言い訳か反発にしか見えないかもしれない。実際、更に険しくなる顔を見るにつけ、更なる不機嫌が加算されているのは火を見るより明らかだ。

 だが、ひかりとしては、此処はどうしても主張しておかねばならなかった。この滞在中、リテラのいろいろを、心おきなく見て回るためにも。

「一向に反省が見られないようだな君は……!」

「反省してます! ものすごくしてます! だから、今後は遅刻とか、予定に響いたりとか絶対しません! 約束します! 今回のことだって絶対私が悪いのもわかってます。でも私だって、リテラのことをいろいろ見て、知りたいんです!」

 力説し、ぐっと蝦名を見上げれば、必然、にらみ合うような状態になった。後ろめたさはある。それでもひかりは、まっすぐ顔を上げる。

 黙ったままのにらめっこ状態が、暫し続いた。

「おふたりとも。そろそろその辺りで収めてはどうでしょう。」

 不意に響いた、取りなしの声。

 ひかりと蝦名がほぼ同時に、声の方に視線を向ける。其処にある、やわらかくにっこりと微笑む顔。

 シンだ。その後ろには、シュンとしょげかえる空気を頭の上に漂わせた新人組の姿も、ちらっと見える。

 あのしょげっぶりを見る限り、もしかして、ひかりよりもよほどこってり叱られたのではないだろうか。

「しかし、このように身勝手な行動をされては……」

「お怒りはごもっともかと。彼等に対し、行動の反省と、自らの立場への自覚を促すことは、とても重要なことです。ですが、既に予定に遅れが出ています。お叱りの場は、時を改める方がよいでしょう。彼等にかまけて我々まで時間を浪費するのは、全く得策ではありません。」

 続く言葉も、勿論やわらかい。だが、問いかける形で示された言葉の真意は、「理を説くならば、自らも勘気を制せよ」と遠まわしに告げるものだった。

 のほほんとした顔で、さらりと辛辣で鋭い指摘をする。

 何だろう、この落差。やさしいのに怖かったり、厳しいのに甘かったり。

 シンの人物像が未だに掴みきれないのは、こういうところだろうか、あの朝のやりとりを思い出しながら、ひかりはそんなことをぼんやり考える。

「…………わかりました。」

 やがて、蝦名が口を開いた。苦虫を噛み潰したような苦りきった顔はしていたが、口にする言葉はあくまでも冷静を保とうと必死に抑えているようだ。

「では、改めて見学と参りましょうか。」

 泰然鷹揚、シンが言う。

 以降、滞りなく事を進めるべし──本意不本意はこの際不問。両者間に無言の合意が成った瞬間である。

 そしてひとまず、今に限っては何の問題もなかった、として、彼等は目的地へと向かうことになった。



  前以て勉強しておいたところによれば、リテラには「ダルク」と呼ばれる統治のための集団が存在しているという。

 ダルクとは、役職や種族の長が集まって形成された、地球で言うところの「議会」のようなものらしい。その議会が行われる場所、つまり、「議場」に相当するのが、今ひかりたちが目にしている「為政所ミディアルベ」と呼ばれる場所だ。

「わかりやすく説明すると、ひかりの住んでる……えっと、ニホンのコッカイギジドウ? が、施設としては近いんだって。」

 フィニットが横から説明をしてくれたが、当のひかりは目の前の建物が醸し出す偉容と荘厳さに気を取られ、右から左に聞き流してしまっていた。

 国会議事堂といえば、小学校の社会科見学で行ったことがある。ちらっと赤絨毯を歩いた記憶もある。自国の政治の中枢機関である建物は、とても広くて大きかった、と覚えている。

 だが、ミディアルベはそれ以上だった。大きさもだが、何よりその外観の美しさが、ひかりの目を釘付けにした。

 白亜の殿堂という言葉があるが、この建造物には更に、「光り輝く」という形容詞がつくだろう。

 塔を構成する物質は、白く透きとおった片状結晶の集合体だった。これが幾幾層も緻密に重なり合い、透過する光の過干渉を起こし、ダイヤモンドの散乱光ディスパージョンのような強烈な輝きを作り出している。

 精緻なカットを施された宝石が、空へ向けて高く幾何学的に集積している如き荘厳な尖塔は、あきらにきらやかに、まるでそれ自体が光を発しているかのように輝いていた。

 リテラの建造物が、鉱物の結晶構造を模した構造と外観をしているという話。今日聞いたばかりのそれを思い出しながら、ひかりはミディアルベを見上げる。つまり、これもまたそうなのだ。

 ミディアルベの圧倒的ともいえる美しさと存在感に、息を呑む。

 隣の蝦名が、ひかりと同じ反応をしていた。いや、この場合の蝦名の反応は、ひかりのそれより顕著だったかもしれない。

 呼吸の気配が寸時途絶え、ごくりと唾を飲み込むような音まで聞こえてきたのだから。

 些細な好悪など、其処では何の意味をなさない。それほどまでに「圧倒的なもの」が、目の前にある。

「……何ていうか……もう、何か、すごいとしか言えないんだけど。」

 しばしの無言から、ひかりはようやく口を開いた。溜息と共に呟いたその言葉を耳ざとく聞きつけて、フィニットとノーティが満足げな笑顔を浮かべて大きく頷いている。

 ほめられて嬉しいのは、地球人だけではないということだ。

「此処が、リテラにおける政治の中枢……ですか。確か、ナマートリュは統裁合議制を採っているとのことですが、議会は現在行われているのですか?」

 蝦名もやっと我に返ったらしい。早々に疑問を尋ねる辺り、仕事熱心というか生真面目というか。

 まぁ蝦名さんってそういう人よね。感心ともあきれともつかない顔で、ひかりは蝦名を見た。

「いいえ。ダルクは定例ではなく、星内及び地球で看過できない問題が発生した場合に召集されます。」

「つまり、特に問題がなければ遊んでいられる議会、ですか。……随分と気楽な議会もあったものだ。」

「そうかもしれません。ですが、看過できない問題なんてものは、よりも方がいいでしょう?」

「それは勿論そうだが……しかし、問題が起こった場合にすぐ議会を招集できるものなのか?」

「逆に、必要なとき機能しないものに、存在意義があると思われますか?」

「……できるからこそ、そういうシステムを採っている、と。」

「そういうことになります。とはいえ、わたしは一介の活動員にすぎませんので、のことを全て知っているわけでもありません。ですのでごく簡単に、この星ではそういう方法を採っている、という説明であると御理解頂ければ、それで十分かと思います。」

 皮肉を混ぜ込んだ言葉で蝦名が尋ねるも、いらえるシンの余裕と微笑みは、全く崩れない。

 相変わらず当たりが強いなぁ、この人。

 またなの、という意思をこめて、ひかりはジト目の視線を蝦名に向ける。その気配を察した蝦名の視線もまた、じろりとひかりの方を向いた。

 視線がかち合う。

 にっこり。ひかりは、満面の笑顔を浮かべて返した。すれば、蝦名の顔が一瞬硬直する。

 シンの真似、というわけでもないが、この満面の笑顔には、ひかりなりの抗議と皮肉の意思を込めたつもりだ。

 蝦名の顔が渋りきった。ひかりの意図したものが通じたのだろう。かろうじてまっすぐを保っていた口端が、今しも何かに噛みつきそうなほどへし曲がる。

 こういうところ、蝦名さんもまだまだ青いよね。

 不機嫌極まる蝦名に向けて、なおも余裕ぶるようにふふーんと笑う。些細な意趣返しではあるが、ひかりの溜飲も少しだけ下がった。

「……それで、中は見せて頂けるのですか。」

 自分を冷静にさせるためか、蝦名は長い一呼吸をおいてから、もう一度シンに尋ねた。たとえどんな感情プライドが心内にせめいでいようと、あくまでも自身の職務を忘れはしない、ということだろう。

 まぁ、そういうところは褒めてもいいかな? つんけんした態度はともかく、そういう部分はちゃんと評価すべきだもんね。

 ひかりはちょっとだけ、蝦名の評価を上方修正することにした。

「全部は難しいですが、差し支えない場所を幾つか御案内しようと思っています。」

「それは、我々が見るには差し支えのある場所がある、ということですか。政治の中枢に近いところは、我々には明かせないと? ……この際だから言わせて頂くが、あなた方は、地球人を信頼していると言う割に、我々に対して真意を明確にすることを避けているように見受けられる。」

 えーと、前言撤回。蝦名さん、いい加減に底意地悪すぎでしょ!

 嫌味すら通り越して、いっそ非難と呼んでもよさそうな蝦名の物言い。またしてもムカッときたひかりだったが、今度は、それを出すことは、できなかった。

 其処に見たのは、シンのやわらかな微笑みが、淡い困り顔になる瞬間だった。蝦名に向けられたそれは、益体なく駄々をこねる子供を見るような、そんな表情だった。

「……信頼とは全てを明かすこと、と、あなたはお考えですか? もしそうお考えであるなら、たとえばあなたが我々の立場にあり、そして何らかの秘密を持っていた場合、迷うことなくそれを我々に明かして下さいますか?」

 一音一語、ゆっくりと平らかに、シンが蝦名に問いかける。

「それは……必要ならば、そうするだろう。」

「では、わたしたちも、明かすことになるでしょう。」

 蝦名が一瞬気後れしたように言葉を詰まらせ、それから、何処か歯切れの悪い口調で答えた。

 蝦名の答えが、シンの望んだ答えだったかどうかはわからない。

 わからないけれど、それに返したシンの言葉が、蝦名の口をこれ以上開かせないものだったということは、端から聞いているひかりにも十分にわかった。

 この「親善交流」、何だか自分が考えるのとは違う部分で、どうも一筋縄にいかない「何か」があるような気がして仕方ない。

 ひかりが、ちょっとだけ難しい顔で、そーっと首を巡らせ、フィニットとノーティを窺い見る。

 視線を送られたふたりの方も、互いに神妙そうに顔を見合わせてから、ひかりの視線に、これまたそーっと頷き返した。

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