こんな俺に期待する世界が間違っている

川本純志

一章 こんな俺に期待する世界が間違っている

1、こんな体は間違っている

―――1

 長い長い夢を見ているようだった。

 暗いトンネルの向こうに微かに見える光に向かって、ただ歩いていた。

 どれだけ歩こうともその光は一向に近づこうとしない。

 歩く地面はぬかるみ、一歩踏み出そうとする度に足がもつれる。

 疲れた・・・もう外に出たい、もうこんな場所は嫌だ。誰か、誰でもいいから俺をここから出してくれ!!


「・・・・※※※※※※※」


 カチッと電気を付けるような音がした。

 俺が目を開けると、太陽の淡い光が映る木製の天井が見えた。

 しばらくその天井に見覚えがないか記憶を遡ってみるが、思い当たらない。

 首を横に向ける。

 これは見覚えがある、たしか中学の時の学校行事で行ったアウトドアキャンプで泊まったロッジの風景だ。

 木製の椅子、サイドテーブルにはランタンまである。

 懐かしいなぁ・・・と昔を思い返していると左のほうから声がする。


「※※※※※※?」


 うん、これは記憶にない。

 フランス語か?いや、俺がフランス語を知っているわけじゃないが、とにかくテレビで見たフランス語の音に似ている。

 声がする方へ顔を向けると、麻色のおさげの少女の顔があった。

 幼く見えるその子は、俺の顔を見るとニッコリとしてさらに幼く見えた。


「※※※?」


 んー、夢でも見てるのか。

 こんな外国の子が居るロッジで俺はベッドに横になっている。

 ただ夢にしてはすげぇリアルだな、布団から匂う太陽の香りも感じられるし、何より素肌に感じるシーツの感触が・・・は?


「裸!?」


 俺は恥ずかしさと驚きで上半身を起こすと、少女は叫び声のような声を上げて俺から顔を背けた。


「※※※!※※※※※※!!」


「お、おぉ!スマン」


 再度布団に潜り込んだと同時に部屋の扉が開き、少女の顔に似た女性が入ってきた。

 同じ麻色の長い髪、漫画や映画で見た事がある、ファンタジー世界にありがちな女性が着ている服。

 彼女は少女と俺を見てクスクスと笑いながら、俺の方に近寄ってきた。


「※※※※※?※※※※※※※※※※※」


 言ってる事はわからん。だが彼女は見慣れた物を俺に差し出してくれた。

 俺の服だ。


「ありがとう」


 俺がそういうと、彼女は不思議そうな顔をして、その後すぐに笑顔になった。


「※※※※※」


 二人はそのまま部屋を出て行った。

 とにかく服を着ろってことか・・・。


 俺は服を着ながら一番近い記憶を思い出していた。

 たしか大学に行こうとして、家を出て階段を降りようとしたら黒い猫が駆け上がってきて、猫を踏むまいと庇うために階段を踏み外して・・・。

 そうだ、階段から転げ落ちた先に、やたらボディータッチをしてくるマッチョでゲイの大家さんがいて、抱き着かれた勢いで階の踊り場から外へ放り投げられて。

 10階から落ち・・・・・落ち、てから覚えてないな。


 服を着終わった俺は、寝ていたベッドに腰を掛けた。


「死んだんじゃね?」


 ということは、ここは死後の世界か?天国ってやつか?

 いや、天国に行くほど良いことをした覚えが無い、悪いことは・・・ガキの頃スカートめくりしたりアリの巣壊したりしたか・・・。

 でも地獄っていう感じじゃないぞ。


 俺が首を傾げているとノックの音が聞こえた。


「はいどうぞー」


 着替えが終わっているか気を使ってくれたんだろう。

 俺が答えると扉が開く。

 先ほどの少女が、お盆に湯気の立つカップを持って入ってきた。

 少女は少し緊張した表情でゆっくりと俺のほうに近寄ってくる。


「※※※※※※・・・・!?」


 なにか話しかけてきたが、少女は躓きお盆とカップを俺のほうへ放り投げた。

 お約束ですね、わかります。

 次は俺の服がアツアツのお茶的な物で濡れて、少女がタオルか何かで優しく俺を拭いてくれて、そのタオルが俺の息子的な何かに当たって赤面した少j



【GAME OVER】



「は?」

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