第12話 初めて。

いつの間にか眠ってしまったらしい。

薄く開いた瞼の間に見えたものは、日が陰り始めた夕暮れ時の茜色に染まる空だった。綺麗――。

一瞬自分がどこにいるのかわからなかった。


「ノータ、寝ちゃってたのね。長かったものね。さあ着いたわよ、パピを連れてご挨拶なさい」

むくっと体を荷台から起こすと、先に降りたパピはもうそこら中を駆け回っている。

山をいくつか越えて着いた先を一目見て、クレヨンで塗ったよう緑色だ、と思った。


山を、必要な分だけ削り取り、周囲を緑に囲まれた人のために森からわけてもらった小さな町、という感じがした。


白っぽい石と焼いたレンガを組み合わせた家が、新しい家らしい。ひょいと荷台から降りると、家の入り口から母さんが手招きしている。

ゆっくり歩みよると、気付いたパピが舌をハアハアしながら足元へやってきて歩調を合わせついてきた。


緊張気味に立つと、母さんが出てきて優しく肩を抱いてくれた。

家の中から出てきた男の人を見て思わず悲鳴を上げそうになる。

毛皮の帽子の下から肩まで伸びた栗色の髪はもじゃもじゃで、樽のような、そうワイン樽のような大きなお腹をかかえ、その肩には銃が、長い銃が担がれしかも銃口がこちらを向いていた「ズドン!」男の声色が続く。


母が顔色を変えた、途端大男はその顔にニヤつく笑みを浮かべ「挨拶代わりの冗談さ、ちょいときつい冗談だったな」と銃口を降ろし、手先で入れと案内をする。

母さんの手を強く握りしめると耳元で「大丈夫よ」と小さく聞こえた。


からかわれたのだ。

ノータは怒りに心を震わせながら室内に入る。

男は動物の毛皮で覆われたソファーにどかりと座り、向かい側へ座った母さんに石をくり抜いたコップに注いだワインを勧めている。

「まあ飲め、荷物は明日降ろせばいい」

「ええ」


何もかもが憎らしかった。

この男もこの家も母さんも何もかもが。

家の中の匂いを嗅ぎまわっていたパピに、男が鹿肉がたっぷりついた骨を放る。喜びの仕草で飛びついたパピはそのまま、男の足元でゆっくり骨にかぶりついている。


母さんのためだけに礼儀正しく挨拶をする。

「初めまして。よろしくお願いします。眠くなってしまったので先におやすみなさい」

男は目を細めこちらを見た。

「気の強えガキだな、嫌いじゃないぜ。まあ2、3年後には役に立つだろうしな」


「おやすみなさい」

母さんの視線を無視すると、与えられた部屋に入り硬いベットに潜り込んだ。










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