04:気乗りしない飲み会
「えー、立野です。よろしくお願いします」
会社の同期である
僕は酒が好きだが、飲み会はそうでもない。上司と行けば、あれやこれやと気を遣うし、合コンでは、ついいい人ぶって疲れてしまう。
「立野くんって、優しいお兄ちゃんって感じだよね」
「うん。弟と妹がいるよ」
「やっぱり! アタシも、立野くんみたいなお兄ちゃんが欲しかったな。お姉ちゃんとかマジ要らないし、うざいだけだし」
隣に座った女の子は、僕の好みからは少し外れた、我が強そうな子だ。一番離れた席の子の方がいいのだが、そもそも本気で彼女を作りにきたわけではないので、隣の子の話を営業スマイルで聞き続ける。
「あ、生追加で」
「飲むの早いねー! けっこう強いの?」
「うん、そうみたい」
シーザーサラダが運ばれてくる。隣の子は、それを慣れた様子で取り分けていく。女子力が高いというか、何だか関西のオカンっぽい感じだ。
締めの鳥雑炊が来る頃には、皆すっかりできあがっていて、中々酔えない僕は取り残されたような感覚だ。仕方がないので、ほとんど手をつけられていないから揚げをつつく。大体、なぜ後半になってから揚げ物が来るんだろう。コース料理はこれだから嫌なのだ。
「それじゃあ、パーセントだけ言おう! パーセントだけ!」
すっかり顔を赤くした門木が、よくわからないことを言っているので、隣の子に聞いてみる。
「あれ、何のこと?」
「今まで振った数と、振られた数の比率はどうなってるか、だってさ。母数を言ったら、付き合った人数がバレちゃうから、パーセントだけってこと」
「はあ……」
女の子たちは、割り切れないやら、電卓がないとわからないやら言って騒いでいる。ちなみに主催者は、振られたのが百パーセントだと言って笑いを誘っている。一応、僕も計算してみるか、と過去の恋人たちとの最後を思い返す。
一つ前、僕から。二つ前、彼女から。三つ前は……自然消滅、か?
「おい立野! お前は?」
「あー、五十パー」
酔っ払いの質問には、適当に返すに限る。しかし、ちゃんとした数字を出してみたくなったので、もう一度考えてみる。
陽奈のときは。彼女のときは、何て言ったらいいのだろう。建前上、僕が振られたことにはなっている。実際、僕が振った形にはなるのだが、それは彼女が振らないから、僕から決定的なセリフを吐いただけとも言える。
嫌なことを思い出したな、と僕はため息をつく。礼儀上、全員と連絡先は交換したのだが、僕の方から連絡したいと思うような子はいない。何か来たら、社交辞令だけ返して、誘われてものらりくらりとかわしていこう。
結局、その日もバーに向かう。静かなところで、旨い酒が、飲みたい。
「いらっしゃい! 立野くん、一人?」
「はい」
カウンターの中にはマスターしか居なかった。波流は休みらしい。客の入りは良く、詰めてもらってようやく腰掛けることができる。満席だ。
スマートフォンに、さっきの女の子たちから連絡が入る。今日のお礼と、また飲みに行きましょうという定型文。僕もそれに面白味のない返答をする。隣の子だけ、しつこくやりとりが続いているのだが、今日の混み様じゃマスターともあまり喋れないし、丁度いい。
二杯ほど飲んだとき、門木から電話がくる。
「立野、今日はありがとうな!」
「どういたしまして」
「お前さ、もうマイちゃんにいっちゃえば? いい感じだったぞ」
「そうだね。今もずっと連絡きてるし」
「おー、いけいけ! お前なら絶対落とせるって!」
「ん、落とせたらまた報告する」
門木のテンションの高さに辟易して、さっさと話を切り上げる。お節介な彼は、僕に早く彼女を作れとうるさい。僕は誠実で優しい男だから、独りでいるのは勿体ないのだと言う。まったく、過大評価もいいとこだ。
「ごめんな、立野くん、ほったらかしで」
「いえいえ」
マスターの声に顔を上げると、客はずいぶん減っていた。彼はグラスの片付けに追われている。
「今日はデート帰り?」
「合コン帰りですよ」
「かーっ、いいねえ。俺も最近、合コンとか行ってねえなあ」
おどけてそう言うマスターに、他の客が、あんた既婚だろと茶々を入れる。そこからマスターの奥さんの話になり、さらに子供が二人いるということを知る。下の男の子が、この春小学生になったばかりで、色々と大変らしい。
マスターの話に聞き入っていたせいで、新たな着信には気づかなかった。それは例のマイちゃんからだったが、僕はついに見なかったことにした。
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