玉置一利「新・はじめてのサンドスター―サンドスターを巡る五つの意味―」(論壇社現代新書、2038年、初版)

第五章 サンドスターが環境理論に与えた影響とは?

 サンドスターはこれまで述べてきたように、人類社会を一変させた。その革命性は前章で散々述べてきたから、これ以上付け足すことはない。単純な統計的数値を見るだけで、サンドスターの革命性がお分かりいただけるだろう。事実、サンドスターが発見された2013年当時は、世界人口が百億に達するのは2050年と考えられていたが、2040年を待たずして既に世界人口は九十九億に達している。しかし、急激な人口増加にも関わらず、人類社会は窮乏の一途をたどるどころか、繁栄の道を極めている。人口増大の伸びを遥かに飛び越える食料生産量の増加と、人工知能(AI)の進化による行政機構の合理化とによって、貧困は撲滅されようとしている。先進国は言うに及ばず、発展途上国ですら飢えて死ぬということはなくなりつつある。


……(中略)……


・新ガイア理論

 ガイア理論とは、地球と生物との相互作用を一つの「巨大な生命体」と見なす仮設である。仮設が発表された1960年代は、この仮設に否定的な意見が多かったが、時代が下るに連れて肯定的な意見が大勢を占めるようになった。現在では半ば暗黙の了解と見なされている。この理論の画期的な点は、地球環境を全体的に俯瞰すると、地球は恒常性を有しているというのを明らかにした点にある。そして、このように地球そのものを一つの生命体と見なす視点は、環境への人為的な介入は思わぬ悪影響を与えかねないという重要な事実を人類に認識させた。

 だが、サンドスターの登場によって、ガイア理論は修正を迫られた。つまり、サンドスターという、謂わば「掟破りの例外者」をどのようにガイア理論に接合させるかが問題となったのである。現在、サンドスターの影響を含めたガイア理論は新ガイア理論と呼ばれているが、新ガイア理論は大きく分けて二つの方向に別れている。一つは、サンドスターを地球環境の謂わば白血球として肯定的に捉える「サンドスター肯定説」。二つは、サンドスターを生来の貴重な地球環境を破壊する謂わば侵略者エイリアンとして否定的に捉える「サンドスター否定説」だ。


……(中略)……


 一方、サンドスター否定説では、サンドスターは地球外来からもたらされた物質であり、地球環境を守るどころか、地球環境を知らず知らずのうちに侵略する「エイリアン」だと主張する。事実、地球上でサンドスターが散布されていない地域は限られており、特に人類の生存に適さない地域はサンドスターの散布によって、急速に環境の変更がなされた。否定説は、サンドスターが保全するのは人類にとって都合の良い環境のみであり、結局のところ地球を人類中心主義的に作り変えてしまうことを強調する。つまり、肯定説は環境の保全というサンドスターの効能を賛美しているが、その実、保全される環境には偏向があり、肯定説は偽善に過ぎないと否定説は喝破したのである。


……(中略)……


・あとがき


……(中略)……


 実際、サンドスターは旧来の地球環境を完全に作り変えてしまった。もし、サンドスターを侵略者とするならば、まさしくサンドスターは地球を完全に侵略し、征服してしまった。ところで実は、サンドスターは従来考えられていたようには完全ではないことが最近になって分かってきた。環境サンドスター学の世界的権威、アダム・ハートがごく最近に提出した論文によると、環境固定の際に発生するセルリアンが、ある限られた条件のもとでは巨大化する可能性があるというのだ。もし、巨大セルリアンが人類に多大な損害を及ぼすとしたら、まさしくそれは「侵略者エイリアン」となるだろう。

 このことを題材として、著名なSF作家の伊藤計助は『ハルモニア』を出版した。詳しくは是非読んでほしいが、その本によると、実はサンドスターは人類滅亡を望む異星人によって作られた物質だと言うのである。最初は制御できていたサンドスターが遂には制御不能となり、最終的に人類は繁栄から滅亡に突き落とされるというのだ。

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