我楽多箱

佐鹿 遊

淡い箱庭

  しんしんと、雪が降り積もる日だった。

 凍えたホットミルク。書きかけの便箋。無造作に散らばった書籍と、無防備な君の寝顔。一見散乱している机の上は、しかし、不思議と何処か完成している聖域のように見えた。

  身体が冷えないようにと、君に毛布を掛ける。君は未だ夢の中。とても幸せそうな寝顔だった。

 カーテンが揺れている事に気付き、音を立てぬように窓へと歩み寄る。雪は未だ降り止まず、外は一面の銀世界だった。

  僕は窓を閉めた。君が誰かに連れ去られてしまわぬように。君が何処かへ行ってしまわぬように。

 それと、風邪をひいてしまわぬようにと。

  便箋の向こうの紳士に妬く僕を、君はどう思うだろうか。自虐と諦観と、ほんのちょっとの期待を閉じ込め、僕は扉を閉めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る