漂流料理の研究家はいつだって!

ちびまるフォイ

漂流料理はどこまでも料理!

――料理研究家ってホントに料理できんのかよ。



その一言で始まった漂流料理。

私は今ゆらゆら揺れる船の上にいる。

あたりは一面大海原で船を出ればどこに流れ着くかわからない。


「さて、今日も料理するわよ」


海の向こうからはタッパーに入った食材や調理器具が流れている。

漂流料理では流れ着いてくるもので調理しなければならない。


それをやってこそ真の料理研究家と呼ばれるのだ。


「鍋に……納豆。それにきゃぺつ。今日の料理が決まったわ」


私の船のほうへ流れてきた漂流物を使って料理をする。

今日はキャベツと納豆のスープを作った。


一流の料理研究家はいついかなる状況でも料理を提供できる。


それがシェフとの違い。

私たち料理研究家は毎回完璧な品を出すのではなく、

どんな状況であっても料理ができる応用力こそが武器。


「ゴールまで作り続けてみせるわ!」


船がゴールの島まで到着できれば終了。

途中でリタイアしたり、自分で魚を釣ったりして食料を調達してもダメ。


あくまでも、漂流してくるものだけで料理しなければならない。


「さようなら、鍋さん」


使い終わった調理器具は再度海へと漂流させる。

手に入れた漂流物をずっと使うことはできなかった。




数日が過ぎた。



基本的に流れてくる食べ物は多いのでひもじい思いはしない。

でも、問題は別にあった。


「なんで調理器具が流れてこないのよ――!!」


漂流料理をはじめて気づいた。

この状況では食べ物よりも調理器具のが重要ということに。


調理器具がないと料理なんてできない。

船に常備されているガスコンロもただのインテリアだ。


「……待って。もしかしたらその考え自体が間違っているのかも」


いつまでも流れてこない調理器具の漂流物を考えて実感した。

調理器具がないから料理できないなんて、料理研究家としてどうなのか。


「そうよ! 私は料理研究家として、

 いつでもどこでも最高の料理を提供できるようにこのプロジェクトに参加したんじゃない!

 調理器具がないから料理できないなんて甘えだわ!!」


調理器具がないときは手などを使って。

食料が入っているタッパーを調理器具としても使った。

まさになんでもあり。



さらに数日が過ぎた。


「ああ、もう私は完全無欠の料理研究家ね!」


漂流料理をはじめてすっかり自信がついた。

いまでは、どんな状況でもアイデアで料理ができる。

まさに歩く万能調理器具。


「あ! 島だわ!! ゴールね!!」


漂流した船が流された先には森が生い茂る島があった。

船をこいで島に到着すると、森からは人がぞろぞろやってきた。


その誰もがやせ衰えているのを見て、思わず腕が鳴った。


「ふふ、なるほどね。ゴールは最後の関門というわけね。

 この島にあるものでこの人たちを満足させるということね」


料理研究家はどんな状況であっても料理を提供できる。


この漂流料理生活で磨かれた技術をもってすれば

島のものを使って料理をすることなんて造作もない。


「さぁ、この生きる万能調理器具の私が見せてあげるわ!

 真の料理研究家の応用力をね!!」


そして、私は料理にされた。









『参加者のみなさんにご連絡申し上げます。

 食人族の島がゴール付近にありますので、

 ゴールと書かれた旗のない島には上陸しないでください』

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