短編、まとめてく。

@bdm

ひとつめ

「それ、公式が間違ってる」

 誰もいない夕方の教室。部活動のざわめきは遠くの方に聞こえ、日の色もどこか寂しげに感じる中で、ひとり黒板で数学の問題を解いていた俺に、唐突に女子の声が間違えを指摘してきた。

「ん、まじでか。 俺この範囲苦手なんだよなー」

 先程まで誰もいなかったはずが、いきなり声をかけられて、正直ビックリしていたが、そんなことは少しも見せないように返す。

 黒板で問題を解いていたせいか、教室の扉が開く音すら聞こえなかったらしい。

「そこ出来ないと、再テストも落ちるよー?」

 彼女は、はにかみながら、しかしバカにしたような口調で言うが、嫌な感じは全くしないのだから不思議だ。それは、俺が日頃から彼女、西塔友梨を憎からず思っていることだけが影響しているのではなく、彼女自信の持つ空気が心地よい色を持っているからに他ならない。現に彼女は男女両方から人気がある、クラスの中心的存在だ。

「この前の数学の小テスト、西塔も落ちてたじゃん。 ってか、俺のが点数良くなかったっけか」

 お返しにと、俺も軽口をたたく。たしか、前回小テストでは、俺が30点、西塔さんが24点だったはずだ。ちなみに100点満点です・・・・・・。

「あはは、覚えてたかー」

 西塔さんは照れたように笑った。俺の記憶は、だいたい正しかったようだ。

 つられて俺も笑ってしまった。

「で、西塔さんは何しに教室もどってきたの?」

 質問してから、すぐに答えがわかったが、西塔さんは普通に流してくれた。

「何って、高橋くんと同じ、再テストよ、再テスト」

 我ながら馬鹿な質問だったなと思うが、西塔さんはたいして気にしいない様で、なぜか安心。続けて何時から再テストが始まるかを西塔さんはたずねたので、俺は手に持った再テスト該当者の紙を確認する。

「5時半だよ。 勉強した?」

「んー、もちろん。 だから、その公式間違ってるなーって」

「小テストでは俺より点数低かったのに、追い抜かれた!?」

「へへ」

 西塔さんは、照れ笑いをして、「国語の漢字は、毎回私のが上だけどね」と付け足した。

 ちなみに言うと、俺は西塔さんの漢字の点数を知らないんだけどね。実際どのくらいなんだろーと考えていると、西塔さんが黒板の空いているところに正しいらしい公式を書いていた。

「んー、書いてみると自信無くなってきた。 教科書確認するから待ってて」

 そんな感じで、現在の時刻だいたい5時15分くらい。37分の2の再テスト受験者は、仲良く勉強を始めた。

 このあと、だいたい20分後に予定よりも5分くらい遅れた先生が再テストをやらず、いきなり補講を始めたのは、また別のお話し。みたいな?

 なんだかんだで、クラスの女子と仲良くなれたので、俺は満足です。

 あと、『シグマ』とか言うのの公式?は結局、解説聞いてもよくわからなかった。多分、俺も西塔さんも、再テスト普通に受けてもまた落ちてただろうなー。小テストで良かったです。

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