第7話
それから時は流れ半年後、ハルカの活けてくれる花が椿からコスモスに変わった頃のことだった。
朝餉を食べおわり、ハルカが膳を下げた離れのハイリッヒの部屋。
「・・・何じゃと?」
「今日の午前、大広間に集まれ。案内はハルカにさせよう」
人形も連れて行くように。
障子越しに、主の影は一方的に話して去っていった。遠ざかるかすかな足音に、その話の内容に目を丸くしていたハイリッヒは。
じわじわと胸の中からこみあげてくる喜びに、ばっと口元を手で覆った。
(この部屋から出られるのか・・・!)
受肉したのはこの部屋、ここから一歩も外に出たことはない。
風に触れる時でさえ、仲間に頼んで障子を開けてもらいわずかに入ってくるそれを感じるだけ。その仲間ですら、主に命じられていたのだろう。ハイリッヒがどんなに頼んでもこの部屋から出してくれという言葉には頷いてはくれなかった。まぁ、結界があったからどのみち無理だったかもしれないが。
それが出られる。風を、緑を自然を太陽の光を、感じることが出来る。
もうとっくに諦めていたそれを!
その時間が待ち遠しくて、うずうずとうずく身体のままその衝動をぶつけるように。ナゴミの身体に覆いかぶさり、その白い頬に口づけた。
「和、わしの和や。一緒に外に出られるぞ。嬉しいのぅ」
「はいりっひ、いっしょ」
「あぁ、一緒じゃ」
「うれしい」
口もとをわずかに緩めたナゴミの笑顔とも言えぬような笑顔を見て、ハイリッヒはここ半年の間にずいぶん表情も増えてきたなと感慨深く見守る。
ついでこみあげてくる愛おしさ。
その後の口づけが増えたのは言うまでもない。
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