#41

『最徳寺・・?』


『第9地区にお寺なんてあったのか?』と丸山。


『ええ、唯一の寺ですよ』


『あなたは・・ここの住職ですか?』斎藤は問いかける。


『妙見といいます、寺の中は安全ですので落ち着くまで休んでいなさい』


『助かります』


斎藤と丸山は渡されたタオルで体を拭きながら辺りを見回していいた。


『ナインゲートにお寺なんてあったんですね』と斎藤が台所でお茶を煎れるためお湯を沸かしている妙見に向かって話した。


妙見はコンロのスイッチを切ると急須にお湯を注ぎながら話し出す。


『あなたは九十九の人ではないのですね』


『都内です』


『あなた達は少し誤解をしている、第9地区の住民がすべて危険な人物ではありません』


妙見は斎藤、丸山の分のお茶を煎れながら続ける。


『この地区に古くから住む人たちは凶暴ではありません、彼らは力強く今を生きています』


『SCARが変えたのね』


『彼らが”第9地区”に恐怖をもたらした』


斎藤が自分の両腕で体を抱きしめている格好に気づき


『体が冷えてきたようですね、何か羽織るものを持ってきます』


そう言うと妙見は奥へと消えていった。


斎藤はそこで丸山が居ないことに気づいた。


『マル?・・どこいったの?』


斎藤は居なくなった丸山を探しに部屋を出た。


大きなふすまを開けると本堂に出てきた。


丸山が大きな釈迦像の前に佇んでいた。


『ちょっとマル!だめじゃない勝手にうろついたら』


丸山は何も答えない。


『聞いてるの?』斎藤は丸山に近づく。


『ちょっとマル!聞いてるの?』斎藤は丸山の肩を握り振り向かせた。


丸山の目は焦点が定まらずどこか魂の抜けたようだった。


『どうしたの?マル』


丸山はそれでも何も答えず本堂の方を見続けている。


斎藤は丸山を差し置いて本堂に近づく。


漆黒の闇が迫ってくるような気持ちに襲われ斎藤も目眩を起こしそうになっていた。


服の袖で口元を覆い隠すと斎藤は釈迦像の奥へと進んでいった。


報道に携わる人間としてこの奥に何かを感じ取っていた。


大きな釈迦像の奥に小さなドアが1つあった。


斎藤はそのドアを開ける。


ドアの向こうの広がる光景に斎藤が驚愕した。


そこは最徳寺の雰囲気とはかけ離れたハイテクな施設になっていた。


パっと見、温室管理されたケースの中に何やら見たこともない植物らしきものがある。


斎藤はそのケースに近づいた。


そのケースにはラベルが貼られていた。


斎藤はそのラベルを手に取る。


《ナイトメア 》と書かれていた。


『うそでしょ?ナイトメアはこのお寺で栽培されてたの??』


斎藤は予期していない所からナイトメアの栽培場所を発見したことに驚いていた。


しかし次の瞬間、あることが頭を過る。


(あの住職も・・もしかして・・?)


斎藤は急いで本堂に戻ると朦朧とする丸山を強引に引張り戻って行く。


妙見が羽織るもの持って戻ってきた。


『すみません!急な連絡が入ったので失礼します』斎藤は頭を下げるとボーっとしている丸山を引きずりながら雨の中、最徳寺を後にした。


妙見は少し困惑しながら雨の中消えていく斎藤を見やっていた。



持ってきた羽織を片付けようと戻ると本堂への続くふすまが開いていることに気づいた。


妙見は何やら胸騒ぎを覚え、本堂へ向かう。


本堂の釈迦像まで行った。


奥のドアが少し開いていた。


斎藤が出てきた時、完全に閉めきれていなかったのだ。


妙見は斎藤が帰っていった方向を見つめながら、すべてを悟った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る