#28

 23:00pm メトロポリタンテレビ





 1日のニュースを総まとめする番組『ニュース・アルファ』


 メトロポリタンテレビの唯一の弱点である報道に力を入れるべく始まった総合ニュース番組である。


 斎藤はまだ当番組のサポートアナウンサーという位置にいる。

 しかし今日は彼女にとって大舞台となる日になる。

 局長に許可がおり、例の”第9地区”の黒ずくめの男”について特集が組まれたからである。



《つづいては特集です。斎藤さんお願いします》メインキャスターが斎藤に振った。



 斎藤は背筋をピンと伸ばして神妙な面持ちで話し始めた。


《今夜の特集は九十九市、第9地区で起こっている謎の現象です》


《急速な発展の影に隠れ開発の遅れによって治安が悪化したこの”第9地区”に今、異変が起きています。ここ数日で地区を荒らしていたSCARと呼ばれる犯罪集団が立て続けに検挙されています》

 斎藤はカメラを見据えて続けて言った。

《これまで九十九警察が検挙したと発表されていますが、今回我々はある映像を入手しました。その映像には私達の聞いている情報とはかけ離れた真実が映し出されています》

 画面はその映像へと切り替わった。

 映像は第9地区に住んでいる人物の家の中から始まっていた。

 男数名の叫び声が飛び交っている。

 恐る恐る映像を撮っている人物が外へと出ていく。

 玄関越しで声の聞こえる方へとカメラを向けている。

 明らかにガラの悪そうな男が地面にうずくまっていた。

《何が起こったんだ??》映像を撮っている男の声が入る。

 しかし次の瞬間、夜の闇に隠れて何かが動いた。

 映像を撮っている男はその気配に気づいく。

 何者かがそのガラの悪い男2人を柱に括り付けている。

 映像はその暗がりにいる人影の方へと近づいた。

 すると急にその人影は腕から何やら紐らしきものを上へ飛ばして夜の闇へと消えていった。

《なんだ・・?あれは?》映像の最後は撮っていた男の言葉で終わった。

 画面が切り替わって、その映像を撮った男の取材のVTRが始まった。

《いやーもうビックリしましたよ。だって人影が急に空へと消えていったんですよ、なんかデカい鴉(カラス)みたいだったよ!》


 VTRが明け、斎藤の1ショットとなった。


《第9地区に突如現れた謎の黒ずくめの人物は一体何者なのか?警察に希望を感じられないとし、自らヴィジランテ(自警団)として立ち上がったのか?どちらにせよ今この第9地区は大きな変化を見せているようです、今後も番組では追っていきたいと思います》





 *



 第9地区港埠頭




 誰も使っていないコンテナ倉庫内に裸電球1つの明かりだけという薄暗い中、ファントムはテレビ画面を見つめていた。


『うっとしいカラス野郎が出てきたな』

『下っ端のやつらは軒並み捕まってる』デスマスクが吐き捨てるように言った。



 黒のセダンタイプのレクサスがコンテナ倉庫前に停まった。


 後部座席のドアが開き、スーツ姿の男が降りてきた。

 そのまま男はコンテナ倉庫の扉を開け中に入る。



『おやおや、どうなさいましたか?』ファントムは茶化すように話しかけた。

『テレビ見たか、大丈夫なんだろうな!』スーツの男は入ってくるなりファントムにまくし立てた。

『それより例のモノは用意できてるのか?』ファントムは全く気にすることなく聞き返した。

『ああ、来週には取り掛かれる。ただあのカラスが心配だ、ヘヴンもやられたそうじゃないか』

『カラス野郎はオレがなんとかする、あんたは計画を進めてくれ』

『頼むぞ』スーツの男はそう言うとそそくさと帰っていった。


『殺るのか?』デスマスクはファントムに問う。



『あの計画は絶対遂行する。計画にカラス野郎が邪魔なら消す』

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