#15

“グレート・エスケープ”での訓練が始まってから1か月が過ぎていた・・・・


 ここでは悪と戦う為の戦闘技術に加え、その状況で最優先される選択は何かを学んでいた。

 楓は“グレート・エスケープ”と出会ったあの日以降、昼間は≪鳥飼インダストリー社≫の社長として夜は第5地区にある地下空間にて戦闘訓練を受けるという異常な生活を送っていた。家で着替えている姿を一度、母親の和歌に目撃された事があり何事かと心配していたが〝転んだ”という言い訳に終始してなんとかやり過ごした。

 楓は体にフィットする繋ぎタイプの黒い戦闘スーツを身にまとい地下空間中央に立っていた。

 その周りには同じスーツを着た数名の男達がおり、そして一斉に楓めがけて襲ってきた。楓は巧みに攻撃をかわしながら男達を倒していく。

 その素早さは1か月という短い期間ながらも素晴らしい進歩だ。さすが中・高・大学と武術をやっていたという事だけはある。

 楓が男達をすべて倒すと奥からパチパチと拍手の音が聞こえ、猿渡が現れた。

『素晴らしい』

『ありがとうございます』楓は拳を作った右手を開いた左手の中央に当ておじぎをした。


『もうこれであなたは立派なファイターです』


 *


 楓と猿渡は地下空間から外に出て行き空地からT湾を眺めていた。

 猿渡はT湾を眺めながら楓に話しかけた。

『楓さん、あなたもファイターとして第9地区を本気で救いたいと思うのであれば“マスク”をしなさい』

『マスク??』

『“鳥飼楓”には失うものが多すぎます“鳥飼楓”は地区の再生として戦い“ファイター”であるあなたは別の人物として戦うのです。大切な人を守るために・・』

 楓はまだ少し理解できてない様子であったが猿渡は続けて言った。

『あと、ファイターとして戦う事になりますが決して人を殺めてはいけません、それが例え生きる価値がない人間であってもです』

『これからやることはすでに法に触れているのにですか?』

『人間が人間を殺める資格はありません、それは神の領域です。我々は処刑人ではありません悪は法で裁くのです』



 楓は“グレート・エスケープ”での訓練を終えると猿渡にある提案をした。


『このスーツ・・貰ってもいいですか?』

『どうなさるんです?』

『少し改良しようと思います』

『そんなことできるんですか?』

『うちは≪鳥飼インダストリー社≫ですよ』

『そうでしたね』

『それと・・このナインゲート(第9地区)での戦いは、僕に任せてもらえませんか?』

『長い戦いになりますよ』

『ええ、それでもお願いします』

『やはり私の目に狂いはなかった』猿渡は笑みを浮かべ答えた。

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