22.ビートル兵
「右から3、アリス。左から2、千草。背後の1は鈴彦が受け持ってください」
「ああ」
「わかった」
「了解」
莉奈が神算鬼謀で敵の位置を割り出し、俺たちの受け持ちを割り当てる。
アリスの火炎魔法がビートル兵を3人まとめて焼き払う。千草は瞬発力強化をかけてデスサイズを振り抜き、2人をまとめて打ち砕く。俺もなんとか攻撃をかいくぐり、パイルバンカーで敵を仕留める。
「なかなか手加減ができないな」
アリスが言った。
「ビートル兵は固いですからね」
「ビートル兵の魔獣甲殻は、弱い魔法なら弾いてしまいますし。どうしても一撃必殺を狙うことになってしまいます」
千草と莉奈がそう答える。
三人が気にしているのは、人道上の問題だけではない。
「生きたまま捕らえて、背後関係を吐かせたいところだな」
「いまだ、敵の目的がわからないのは不気味ですね」
アリスの言葉に、そう答える。
「一見組織だっているようでいて、バラバラな感じが気持ち悪いです」
莉奈が言う。
ビートル兵は、明らかに一団を成しているのだが、ピラミッド内に拡散して、散発的に襲ってくる。指揮系統のようなものが感じられないのだ。
「かといって、烏合の衆というわけではない。略奪の形跡はあるが、比較的大人しいものだ」
「一定の規律のもとに、個人の判断で動いている、という感じでしょうか。敵地で特殊作戦に従事するコマンドウ部隊のようですね」
「ああ、なるほどな」
千草の推理に、アリスがうなずく。
会話をする俺たちの背後から、
「ま、待ってください……」
荷物を抱えたジュリオが追いかけてくる。
防御を突破された謁見の間に置いておくわけにもいかなかったので連れてきたのだ。
ついでに、俺たちの荷物を持ってもらっている。
元近衛兵だけに、ジュリオはそれなりに体力もあるし。
はたから見れば王をパシリにしているようにしか見えない。いや、実際パシリにしているのか。
息を切らすジュリオに、アリスが聞く。
「ジュリオ、マナ重合体の貯蔵庫はどっちだ?」
「こ、こっちです」
ジュリオの示す方に歩いていく。
しばらくして、莉奈が言った。
「マナ重合体らしき大量の反応を見つけました。でも、既に敵の手に落ちているようですよ。ビートル兵がわらわらいます」
「どれくらいいる?」
「20」
「一網打尽で上級を使うには足りないな」
アリスが残念そうに言う。
ビートル兵がピラミッド内に分散しているため、アリスは一網打尽を使う機会があまりない。
千草の方は、一騎当千を順調にスタックさせている。
「まず半分を蹴散らそう。その上で残りを投降させる」
「投降しますかね?」
「しなければ、力づくで捕らえるしかないだろうな。しかし、飛び回られてはこちらに犠牲が出かねない」
「千草は大丈夫でしょうけど、俺や莉奈やアリスはキツいですね」
一緒にファラオ(新)もいるしな。
「ひとつ、考えがあります」
莉奈が言う。
「なんだ?」
「妨害魔法でビートル兵の羽根を暴走させることができると思います。フェザーで中継するので、4体までですし、あまり飛び回られると当たりませんが」
「千草が数を減らして……いや、忍び寄って先制で4体落とすべきだな。残りは片付けてしまえばいい」
ということになった。
莉奈の指揮のもと、俺たちはマナ重合体の貯蔵庫へと近づいていく。
ある程度近づいたところで息を潜め、莉奈のフェザーだけを先行させる。
「何か会話をしてますね。中継します」
莉奈が、自分のリングから音声を出す。
『これは……マナの塊か』
『すごい、こんなに』
『純度も凄まじいですね』
『ああ。天上の国が黄金の国だというのは眉唾だったが、これはこれで価値がある』
『これだけのマナがあれば、包囲された帝都を解放することもできるだろう』
莉奈が、アリスに目で問いかける。
アリスがうなずく。
「適当に偉そうな四人を落としますね」
『うおっ! なんだ!』
『は、羽根が制御できない!』
「行くぞ!」
アリスの号令一下、俺たちは貯蔵庫へと踏み込む。
貯蔵庫はかなり広い空間だった。
奥にはマナ重合体の山がある。
その手前で、4人のビートル兵が地面をのたうち回っている。
こうしてみると……ゴキブリみたいだな。
残りのビートル兵がこちらに気づく。
「敵だ! 迎撃しろ!」
「遅いですよ!」
ダッシュし、飛び上がった千草が、声を上げたビートル兵をデスサイズで真っ二つにする。
「なっ!」
浮足立ったビートル兵たちに、
「fermes!」
「ぐああああっ!」
アリスの中級火炎攻撃魔法が炸裂する。
俺も近くにいたビートル兵をパイルバンカーで殴りつけ、ひるんだところでパイルバンカーに通電。一撃だ。
「おのれ!」
べつのビートル兵が俺の背後から襲ってくる。
突いてくる槍を、鞘に入れたままの刀で払う。
ビートル兵がおおきくよろめく。
(練度はまあまあだけど、甲殻が邪魔して動きが悪いな)
空中からの突撃は怖いが、こうして地面に降り立ってしまえば、強固な甲殻が邪魔をして、手足の動きがぎこちない。
俺は問題なく槍を避け、懐に飛び込んでパイルバンカー。
(手加減して残すか?)
一瞬迷うが、この世界にはお手軽に発動できる魔法がある。
迷ったら
千草に言われたことを思い出し、ビートル兵の胸をぶち抜いた。
奇襲の勢いのまま、俺たちはビートル兵を蹂躙した。
「さて、話してもらおうか」
莉奈が羽根を暴走させたビートル兵4人から甲殻を剥ぎ取り、縛り上げた。
魔法を警戒して、4人中3人には猿ぐつわを噛ませている。念のため莉奈は詠唱妨害魔法をいつでも発動できるよう構えている。
ビートル兵のリーダー格は、アリスを睨んで喋ろうとしない。
「弱ったな。できれば拷問などしたくはないのだが」
「……なぜ女子どもばかりなのだ?」
リーダーが言った。
たしかに、俺たちは「女子ども」の集団だな。
「関係のない質問に答えるつもりはない。今もまだビートル兵がピラミッド内を荒らしている。穏便な手段を選んでいる時間はないのだ。しゃべらないなら……そうだな、そこの一人を殺そうか?」
「やめろ」
「では、話すか?」
「……わかった」
リーダーが嘆息した。
「われわれは帝国の敗残兵だ。部隊名は、帝国魔甲戦隊飛甲郡。包囲された帝都を取り戻すべく、伝説の天上国を目指し、やってきた」
「帝国?」
「知らないのか?」
「このプレデスシェネクは下界とは没交渉だからな」
「それもそうか……われわれも天上国については伝説以上のことを知らない」
「伝説というのは?」
「かつて、帝国の将軍だった者が、あまりにも功を立てすぎ、諸侯たちに疎まれた。王は諸侯の讒言を真に受けて、功臣である将軍を処刑しようとした。将軍とその一族は、至天の塔へ逃げ込んだ。一族はダンジョンである塔を突破してその頂上に住み着いたとも、ダンジョンの攻略に失敗して全滅したとも言われている」
似たような話は以前にも聞いたな。
プレデスシェネクの開祖は、地上での迫害を逃れてきた大魔術師だったと。
「それがなぜいきなり襲いかかってくる?」
「敗残兵だと言ったろう。われわれは精鋭だが、指揮系統が麻痺している。天上国との交渉を望む者もいれば、征服して戦力に加えようという者もいた。仲間内で意思疎通が取れないでいるうちに、ここの兵に発見され、なし崩しに戦闘に突入した」
「何を……いい加減なことを!」
俺たちの背後にいたジュリオが激怒した。
「一体どれだけの兵が死んだと思ってる! 何の咎もない我が国を野盗のごとく襲うとは……所詮はわれらが始祖を追放した蛮族どもの兵ということか!」
「それでは、おまえが?」
「ああ、プレデスシェネクの王だ」
ジュリオとリーダーが睨み合い――リーダーが目を伏せる。
アリスが言う。
「さて、この始末をどうつけたものか」
「指揮系統がないというのは厄介ですね」
「今更投降を呼びかけたところで、プレデスシェネク側が許すはずもないです」
「とりあえず、抵抗する者は掃討するとして。戦意のない者は投降させ、その処遇はプレデスシェネクに任せるか」
「任せれば処刑でしょうが、致し方ありませんね」
千草がそう言って肩をすくめる。
「リーダーよ、仲間に投降を呼びかける意思はあるか?」
「……こうなってはしかたあるまい。協力しよう。ただ、戦闘には加わらなかった、咎なき兵もいるはずだ。そちらには温情を頼みたい」
「約束はしかねる。おまえたちの誠意を見た上で決めさせてもらおう」
ジュリオが顰め面でそう答える。
(一方的に攻めてきたわけだからな)
ジュリオの対応は、むしろ甘い方かもしれない。
もっとも、彼らには貴重な地上の情報源としての価値がある。
すぐに殺すのは得策ではないだろう。
「では、残りを片付けましょう」
莉奈の言葉に、俺たちは揃ってうなずいた。
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