アンチヒーロー

夜城 鴉

第1話 クラス

置いてかれている自分をみて、時々嫌な気持ちになってしまう。

定まった未来。持てる力。ありふれる能力。

他のみんなは個人の能力や力を持っている。

自分にはないのか?と聞かれると、わからないの一点張り。

いっそ、ない。と言いたいぐらいだ。

俺にはただ待つことしか出来ない。

なぜなら人工知能:未来解析装置フューチが答えたからだ。

「未来はまだ決まってない。というより見えない。」と……


「ツカサ!ツカサァ!また寝てるの!」

耳に大きく響く声に頭が覚醒する。

「……アガサか?」

目を擦りながら顔をあげる。

「何を当たり前のことを言ってるの?あんたを起こす友達は私ぐらいしかいないでしょ」

「いや、そうとは思わないが……」

アガサは自信満々に言ってるが俺にもちゃんと友達はいる。

……いると思う。

周りを見ると教室には誰もいない。

外窓からは夕日の光が差し込む。

授業はおわり、放課後になったらしい。

「ほら、さっさと起きる。行くわよ」

「……どこに?」

とっとと、歩こうとしているので、一応聞いてみる。

なんとなく、場所はわかってるが……

「あんた、まだ寝ぼけてるの?クラスルームに決まってるでしょ」

やはり……

「今日はアサシンにいくわよ」

「ちょっと待て!あそこは絶対違うから!」

「何を言ってるの!あんたは無いんだから。手当たり次第行ってみないとダメでしょ!」

「だとしてもよ。俺にそんなスキルはないと思うぞ」

「いいから行くわよ!」

アガサに無理やり立たされ、引っ張られる。

「おお!遂に自分たちのところに来てくるのッスね」

教室内明るい女子の声が響く。

「その声は朱里シュリね」

「正解ッス」

天井が捲れたと思えばそこから朱里の顔が出てきた。

あいつ、天井が好きだな。

「そんなところにいないで降りてこいよ」

「よっと!」

華麗にカッコよく、着地。なんという身体能力

「いやぁ~、遂に来てくれんッスね。待ちわびたッスよぉ~」

嬉しそうに語って来るこの少女は赤羽朱里。

クラスはアサシン。一応忍者らしい。

その証拠に首にはマフラー。頭にはドクロの仮面がある。この二つが忍者の証拠と本人は言ってるらしいが……。俺にはそうには見えない……。

「朱里。ちょうどいいところに来たわね。こいつをアサシンルームに連れてくの手伝って。こいつ隙あれば逃げるの」

さっきから偉そうに喋ってるのは黒瀬アガサ。

クラスはセイバー。二刀使いだ。

腰まである黒髪と首に青のチェッカーが特徴的だ。

髪の毛、戦うとき邪魔ならない?

「いいッスよ。じゃあ、左側借りるッスね」

腕に巻き付くように体を寄せてくる。

「くっつくな。歩きずらいだろ」

「いいじゃないッスかぁ。本当は嬉しいくせに~」

「確かに嬉しいが、本当に歩きずらいから!歩きずらくなるから!」

朱里の服の上からではわからない。意外と大きな胸が俺の腕を刺激する。ハッキリ言うと柔らかい。

「ほら、バカなことをしてないでとっとと行くわよ」

「あれ?アガサさん、怒ったりしないんッスか?」

「何をバカなことを言っているの?私がこんなアホを好きって言ったかしら?」

「ええ~。おもしろくないッスね」

ひどいな……

「まあ、別にいいんッスけどね」

さらに腕にくっつく。

本当に歩きずらいんですけど……。

アサシンルームまでこれずっと?

教室棟からクラスルームだと10~15分はかかる。

大変な道のりになりそうだ。

「あ。リゼ」

角を曲がるとそこにはリゼが体育座りで座っていた。

「お、お前……また、変な所に座ってんなぁ」

「お久しぶりです。ツカサさん」

「さっきまで一緒に授業受けてたんだが……」

「あんたは寝てたじゃない」

怒鳴るな。耳に響く。

「自分もいるッスよ。リゼさん」

「朱里さん。いつもよりくっついていますね」

やっぱり聞くよね……それ。

「今日はツカサさんの左を貰ってるッスよ。それに今日はアサシンルームに来てもんらうんで、離れる訳にはいかないんッスよ」

「今日はアサシンルームですか。私も着いて行きます」

……揃っちゃったよ。いつものメンバー

「今日でどこまで行ったのですか?」

変な所によく座ってるのは、高草木たかくさきリゼ。

クラスはガンナー。銃は全部使えるのだが、特に狙撃 スナイパーライフルを得意とするらしい。

いつも冷静で無表情っぽのだが、意外と顔に感情が出やすい。

この中で一番いじりがいがある子だな。

「ほとんど行ったよ。アガサのせいでな」

「おかげでしょ」

「あと、残ってるのはキャスターだな」

キャスターは嫌だな。勉強ばっか、するから。

魔術とか錬金術とか、何を言ってるかハッキリ言ってわからん。

「キャスターもダメだったらセイバーで1からやるわよ」

「嫌だよ。刀怖いし」

ちゃんと言うと怖いのは刀を持ったアガサだけどな

「セイバーするの!逃げたらたたっ斬るわよ!」

「死ぬわ!」

なんやかんやしてると着いちゃったよ。アサシンルーム。

「さぁ、ツカサさん!楽しくやるッスよ。アサシンライフ」

天真爛漫の笑顔を向けてくる。

本当に楽しそうだな。

あァ~あ、その笑顔もっと別の何かで見たかった。


結果的に言おう。やはり無理だった……。

「……」

「しっかりッスよ。ツカサさん、初心者はあんなもんッスよ」

「できねぇよ。あんなの……」

「ツカサさんは最初に一般人以上の体を作らないといけないッスね」

「にしては朱里は凄かったわね。全部当たるんだもの。ぜぇ~んぶ、ツカサに当たってたわね」

色々したあとに最後。朱里と一本勝負になったのだが、勝てるはずがない。

距離を取ればクナイやら手裏剣やらを飛ばしてくるし、近距離にすれば柔道やら組み手などでやられるし。

誰がどうみてもボッコボコにやられてた。

もちろん、本物の手裏剣やクナイではなくゴム製だ。だが、意外と痛い

笑いながら俺を見てくるアガサは堪える気が全くない。

「そりゃ~。自分はすごいッスから」

「百発百中でした。ガンナーとしても行けるのではないでしょうか?」

「ガンナーッスか……。一応才能はあるらしいんっすけど、銃はあまり使ったことないッスからね~。分かんないッス」

ムリムリあんなもん。最初に壁を登れって俺は忍者か。

それにアサシンルームは特に女子が多かった。ルーム長も女子だったし。

ハニートラップとかそういうのが出来るから女子の方が向いてるんだろうな。

気配遮断とか、ホントに忍者がしそうなことを俺ができるわけがない。

「ツカサは基礎になるもの全て覚えないとね。私が専属トレーナーになってあげる」

「いや、いいよ。どうせ無理だし」

「簡単に無理とか言わないの!すぐ諦めるから出来ないのよ!」

「しなくていいよ!……どうせ俺には無いんだから……」

「何で何もしないのよ。抗いなさいよ!無い無い言ってたら本当に無くなるじゃない!」

「そうッスよ。ツカサさん、諦めなかったらできるもんスッよ」

「最初から諦めるのは悪いと思います」

三人とも、俺をはげますように言ってるようだが、無理なんだよ。

人工知能フューチが言ったことは全部本当の事なんだ。

フューチはクラスだけではなく、触れた人間の未来を見る。

見ると言っても人生を見るではなく、可能性の力を見る。これから先、どんな能力に目覚めるのか。どのクラスに入れば強くなれるのか。

そういう可能性を見る。

クラスってのは生まれつき人間が持ってるもんだ。

セイバー、ランサー、アーチャー、ガンナー、キャスター、アサシン、などたくさんあるのに、俺は決まってない、見えないと言われた。

過去例もあり、決まってないはないが。

見えないと言われた。

見えないと言われた大半の人間は死んでいる。

俺は近いうちに死ぬ可能性があるってことになるんだ。

それだったら、もう諦めた方が……

痛い……痛い?

「痛い痛い痛い!」

アガサが両方の頬をつねっていた。

「痛いって!」

「また、あんた!下向いてたでしょ!何ですぐ諦めるような事を考えるの!」

頬をつねる手は離さず、俺の目をしっかり見てくる。

「諦めなかったらできるの!何度も何度もしたら、出来るようになってるの!何もしなかったらできるわけ無いでしょう!勉強と一緒なの!料理と一緒なの!練習と一緒なの!挫けても!倒れても!転けても!何度も立ち上がれば、いつかできるの!わかった!」

なんで、こいつは俺にそこまでして、言ってくれのだろうか?

この学校であって1ヶ月ぐらいしかたってないのに。

まっすぐ俺の目を見てる。こいつは真剣なんだ。真剣に言ってるんだ。

「……わかっひゃよ。がんはってみりゅよ。《わかったよ。頑張ってみるよ》」

ああ、死ぬまで頑張ってみるかな。

「ツカサ」

「ん?」

「なに言ってるか。分からない」

「おしゃえがつがんひぇるからだりょ《お前が頬を掴んでるからだろ!》!」

やっと離してくれた。ああ~ヒリヒリする。

「でしたら、ツカサさん。あそこに行ってみたらどうでしょうか?」

「あそこって?」

「購買部です」












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