君と見た風景

君野笑顔

第1話

ねえ、覚えているかい? 随分あれから時間が経ったような気がするけれど、まだ半年しか経っていないんだね。忘れっぽい性格だから、所々間違いがあるかもしれないけれど、どうか許してほしい。


あれは蒸し暑い日だったような気がする。家に帰る電車は冷房が効き過ぎて、冷え症の僕の手は氷水に手を突っ込んだみたいに冷たくなっていた。まだ出逢って間もない僕らは、手を繋ぐことをできないまま、壁に貼られた広告の文字を読んで次の話題を探していた。


「もし良かったら、また会ってくれませんか?」


僕が言うべきか迷っていた言葉を、君は先に言ってくれた。楽しんでくれていたのか僕は分からずにいた。口下手な僕は、ろくに話すこともできず、ただ君の話す言葉に相槌をうつだけだったから。


「え…、も、もちろん大丈夫です」


上ずった声になってしまって顔が赤くなっているのが自分でも分かった。


「…本当ですか? …嬉しいです‼︎」


君は少し声を高揚させて返事をしてくれた。顔を上げて君の顔を見ると、僕と同じ様に顔を赤らめながら、とびっきりの笑顔で見つめてくれていた。

君も同じ様に不安で仕方がなかったんだろう。僕は、そんな姿を見て可愛いなと素直に思えた。







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