第2話 襲撃編
長きにわたり玉座についていた精霊が崩御した。
王位継承者たるアリス、ミュラ、バシスは、権力欲などなかったが、周囲に推され、実質的にアリスが女王となった。
即位式の前に『異世界の者を召喚する』行事があり、その過程における様々な事件があったが、人間界よりロストが加わり、これまで以上に楽しい日々が訪れた。
────新日本神話:序────
国王即位式。
平時は議会が設置される闘技場には人々が犇ひしめき、華美な装飾が場を盛り上げる。
そのような会場を、アリスは緊張した面持ちで見ていた。
「緊張なさっておられるのですか?アリス殿k──いえ、陛下」
アリスの傍らに座る宰相が問うた。
「そう……ね」
「そう気負いなさるな。ミュラ殿下もロスト殿もおられるのです」
「……ええ、努力するわ」
彼女の溜め息と同時に鐘が鳴る。
静まる会場の中心にアリスと宰相は対峙し、宰相は口を開いた。
「王位を彼女のもと、アリス女王に捧げよう」
宰相は高らかに言い放ち、杖を彼女に突きつける。王位の正当性を示す神器である。
「今より王位につき、この世界の安寧を誓おう!!!!」
緊張をごまかすため、叫んだ。
同時に客席が沸く。
(よ、よかったあ……)
安堵するアリス。
ミュラやロストと目が合う。女王の立場で手を振ることは憚られたから、笑顔で応じた。
「「────陛下!!!!!!」」
アリスの身は宙に舞う。宰相が彼女を突き飛ばした。
尻餅をついた彼女が怒鳴るが、眼前の彼は矢で射抜かれていた。
会場が一気に静まる。
アリスは宰相に駆け寄る。倒れた彼を抱き起こし揺さぶる。
かすかに甘い香りがした。
この香りは──!
「あ~あ、外れやがった」
ひどく聞きなれた声がアリスの耳に飛び込んだ。
声の聞こえた方を見やると、
「バ……バシス?」彼女の幼馴染みが、白兵を率いて立っていた。
「お……逃げ、ください……陛……下」
瀕死の宰相がアリスに懇願する。
「!」
「こ……の老骨めは、もう持……ちません、矢に毒、が塗られていた……ようで、す」
甘い香りはやはり毒であった。歯噛みするアリス。
「だか……ら早、く」
揺さぶるアリスに宰相は応えない。
彼はそのまま砂となり跡形もなく消えた。
精霊は命尽きると砂となる。
そんなこと、聞いただけで、
見たことなど、なかった──。
「次はお前だぜ、アリス」
バシスの宣言の後、我に返った女性客のひとりが絶叫した。
バシスの指揮により、白兵が襲いかかる。
ミュラやロストらは女王を守ろうとするが「観客の方を守ってろ」と言わんばかりにアリスに睨まれた。
観客席には十数名が行ったが、アリスには数十名の刺客、ついでに矢が降ってくる。敵の狙いはアリスだ。
「バシス!あなたは何を考えているの!!?」
器用に攻撃をかわしながらアリスは叫ぶ。が、彼は答えない。
「バシス!!!!」
バシスの胸ぐらを掴んだアリス。
この行動は予想外であったのか、捕まれたまま動かずただ目を見開いていた。
彼女さえ意図はしていなかったが、指揮官たる彼を人質にされたからか白兵からの攻撃は止んだ。
「あ・な・た・は・な・に・が・し・た・い・の?」
アリスはバシスを睨みつける。
「……別に、何でもいいだろ」
「よくないのよ!!!!」
アリスが殴ろうとした時、
「何をしているのかと思えば」新たな声がした。
「…………『デューゴス』!?」
アリスは声の方へ言った。
「ほう、わしを知っているのか小娘よ、ならば話は早い」
デューゴスなる老人は嗤った。
彼は数千年、若しくは数千年前に《箱庭》に害を為したとされる存在で、その後、王都から追放された。その所業を知るのは先王と当人のみである。
「あなた、王都から追放されたはずじゃ……!?」
「追放されただけで死んでなどいない。…………バシス。小娘ひとりに随分と手間取っているものだな」
「お陰さまで」
皮肉めいたバシスの口調にデューゴスは一瞬顔を歪めた。
「……まあ、よい、行くぞ。間もなく起動装置が動き出す」
「御心のままに、デューゴス様」
アリスは去り行くふたりを追おうとする。だがそれは白兵に阻まれ叶わなかった。バシスらを見失う。
「ああああああ!もう!!鬱陶しいわ!!!!」
怒りに身を任せ、近くの白兵を蹴り飛ばした。
ミュラとロストが駆け寄る。
「アリス!大丈夫!?……大丈夫そうだね、一瞬でこの量を倒すなんてさすがアリスだね!!」
「どうも……観客の皆は無事?」
「僕らの方もさっき一掃しました。観客は、ローデウス閣下が指揮を執って、親衛隊と陸軍が避難誘導していましたよ。」
アリスは「そう」と相槌を打つと、城に向けて走り出した。
「とりあえず、ふたりとも早く戻るわよ」
「うん!」
「はい!」
城に着いた3人。城門には多くの臣民がいた。
アリスは侍従長を呼びつけると、急ぎ国民を城内に匿かくまうよう言いつけた。彼女なりの配慮である
背後から「アリス陛下」と呼ばれ振り返る。
そこには大将軍にして軍事大臣、ローデウスの姿があった。
「これから緊急の御前会議が開かれることとなりました。陛下の御臨席を賜りたく……」
「わかったわ」
アリスに休む間はなかった。
喧騒に狂う会議。
「だから!これはデューゴスからの宣戦布告で、あやつは戦いくさを仕掛けているんだ!!」
「確かにこれは戦争のように見えるが──!」
「既に閣下が殺されたんですよ!?」
喧騒に業を煮やしたアリスが平手をバンと円卓に叩きつける。
「今、私たちがすべきことは、これからのことを話し合うことよ」
アリスの静かな、だが毅然とした声色が部屋に響く。
この場で最年少ではあるが、軍そして国家の最高指揮官である。皆は黙りこんだ。
「これから私たちは何をするべきか、意見を出して頂戴」
会議は再開された。
ミュラとロストが振り返ると、アリスが駆け寄るのが見えた。
「会議は終わったんですか?」
「一応ね。……これから宰相臨時代理から発表するんだけど、まず、皆は城内に匿うことにしたの、で、親衛隊、陸海軍で守りを固めるつもり……大変でしょうけどね」
「アリスも戦うんですか?」
「私も出るって言ったのよ?そうしたら『最高指揮官なんですから引っ込んでいてください』って言われちゃった」
「もう王様なんだから前線に出ちゃまずいでしょ……」
「え。武闘派のミュラの台詞かしら?」
「じゃあ僕が」
「言わなくていいから」
軽口を叩きあったからなのか、アリスは笑みを溢こぼした。
「これからアリスはどうするの?」
「戦いに出るなって言われているから……気になることがあるのよね」
「気になること?」
「ええ。デューゴスが言っていた『起動装置』……ちょっと調べてみるわ。ふたりは軍の方を手伝ってくれないかしら?」
「はーい」
「わかりました」
それから白兵との戦いが始まった──。
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