君はゴーレム

@sinonono

序章 序章であればいいなという彼女の願望

まずい状況だ。逃げきれない。

息を切らして凹凸の激しい地面を踏みつける。

いつもはヒンヤリとした空気に包まれたダンジョン内だけど、今の私の発熱した身体を冷ますには全くの役不足。後ろの方たちからも熱い吐息を感じます。振り向きたくないーー!!


バウガウッ!ガァウワゥッッ!!


ガチン!という開閉音。

その際に私の剥き出しの太ももに涎が飛んで来たようです。泣きそう。てか泣いてます。


犬型のモンスターは相当腹が減っているらしい。そんな時に私みたいな人が通ったらそりゃ襲って来るってなもんですよ!あははは!


……何でこんなことになっちゃってんの。


///


「聞いたかマーニャ!今ウィークスの三層でスノーラビットが大量発生してるらしいぜ!!」


輝くような笑顔で私に声を掛けてきたのは友人のカティだった。彼は昔から事あるごとにこの笑顔で数多の犠牲者を出してきた大罪人である。主に女性関係的な意味で、だ。幼馴染みとしてはもう慣れてしまったからだからどうしたって感じだが。……顔が近い近い鬱陶しい!


「ふーん、あっそ」


「……何だそのつれない態度は。あのスノーラビットだぜ?純白のレアモンスターが幾多の困難を退け幸運を呼ぶ、まさに俺たち冒険者の女神!」


「アンタはその女神を狩っちゃうのか。不信心者過ぎるでしょうが」


何故こんなイケメンに育ってしまったのか。ちんちくりんの私は周りからの視線が痛い。男の視線がないってことも時と場合によっては辛いものだ。


今話してる此処はこの冒険者の街に幾つか点在するオープンな喫茶店。お洒落な佇まいから女性に人気の場所、というか男性が入りづらい環境となっている。お酒も扱っていないし厳つい冒険者の男は普通こんな場所には来ない。


その点コイツは顔が整っていて尚且つ女性しかいないこの場を何とも思っていない(少なくとも私にはそう見える)という、なんとも豪胆極まりないヤツだ。周りのお客さんもなんかソワソワしている。ウチの幼馴染みがすみません……。あ、睨まれた。理不尽じゃないコレ?


「あー、そうだな。女神はソルネちゃん一択だった」


「……アンタ、この前は旅館の看板娘サーリャちゃんがイチオシ!とか言ってなかった?」


「だって彼女もう片思いしてる相手がいるらしいしなぁ、ザンネンっ」


「あー、ハイハイ」


ホントなんなんだコイツは。暇なのか?暇なんだろうなぁ。私に構ってるくらいだし。ウィークスにでも潜ってればいいのに。


「マーニャお前、今日はいつにも増して冷たいな。ま、原因は大体わかるぜ?まーた失敗?したんだろ」


うっ!


コイツの言う通りだ。私はソロで探索することもあるが、大抵はその場で依頼内容の被った相手とパーティーを組んで遂行することが多い。一人ではどうしても対応できない危険が多いからそこは仕方ない。話上手かと言われれば違うよと答えるが。


そこで大事なのは信頼である。交友的な意味合いではなく、役割的な意味合いでだ。コイツに任せれば大抵の仕事はこなしてくれる!という下地があればこそ円滑に依頼を遂行でき、その後のクエスト受注の際にも幅を利かせられるというものである。


「今度はどんなミスをしたんだ?」


「……んー」


私は仕方なく、今日あった出来事を掻い摘んでカティに話す。


依頼内容はごく簡単な採取作業。二層の中腹にある『マルデキノコ』が対象であった。……いや、名前からそれはキノコ?と思うかもしれないがそれは普っ通にキノコである。毒も無く味も他のきのこ類とほとんど同じで、乾燥させて粉にすれば若干薬草と同じくらい回復力が見込めるだけというごく普通のキノコ。名付け親は何を思ってそんな名前にしたかは不明だ。


そして私はいつものように四人組のパーティーに入れてもらって採取活動に勤しんでいた。その場所の周囲にはモンスターの気配がなく、索敵役の男の人を見張りを立てつつ作業は順調に進んでいった。


しかし、ここで問題が発生する。


このマルデキノコと姿形が似ている『ガナリキノコ』というキノコがある。見分けは色で判断できるのだが、外に比べて若干暗いダンジョン内では注視しなければわからない。偶然にも生息地域がマルデキノコと同じという悪意を感じるキノコである。単純作業が続き、パーティーでヒーラー役の女の子がガナリキノコを引き抜いたのは仕方のないことだった。


途端に、けたたましく警鐘が鳴り響いた。


耳をつんざくガナリキノコの金切り声。それは遠く離れたモンスターにも届いたのだ。


そして彼らは作業を中断せざるを得ない状況に陥ったのであった。


そして、その話に出てこなかった私が何故責任を感じているのかというと。


「その娘と話してたんだよね、その時」


「お、おう」


「……何その感想」


はぁぁぁ、と溜息を吐きながらテーブルにもたれかかる。コイツにはわからないようだな、私が話しかけなければこんなことにはならなかったというのに。


「それでそんなに落ち込むとか相変わらずだなマー「五月蝿い」ニャは、ってその返しは理不尽じゃね!?」


「……」


「ま、あれだな。ここんとこ失敗?続きのマーニャ君にはやはりドーンと幸運値を貯めていただかないと、だな!」


「……五月蝿い」


「おし!そんじゃこれでどうだ?配当は8、2だ。これで新しい装備でも買えばいい。マーニャ最近胸回りキツいから新しいメイル作るんだーって専らの噂だろ?」


「……なんで私の胸囲の噂が専らになってんの?」


こうして私たちは依頼を受けることにした。


///


からの探索。


からのトラップ。


からの落下。


……からのホワイトファング。


ふぁーーーー!

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