第2話 資料館と漁師
「これらは全て、当資料館で捕れた魚たちです」
案内された館内ロビーには、立派な額に入った大小様々な魚拓が壁一面に飾られていた。しかし、どの魚拓も今まで見たこともない奇妙な形の魚ばかりだ。
「資料館で捕れた?」
「ええ、毎年、資料の虫干しをするこの時期に合わせて、この『
この地方の大名の末裔だという、五十絡みの恰幅のいい館長は、どこか誇らしげに笑った。
「この前のエッセイだけどな、アレ評判が良かったんで連載にしていこうと思うんだが、どうだ?」
部下からミスター・ダンディーというあだ名で呼ばれる編集長は、そう言って身を乗り出した。
この前のエッセイとは、心を病んで都会から海沿いの田舎に引っ越した私が、局地的に雨を降らせる生態を持つアメフラシという生物に困らされたという顛末を書いたものだ。
誰に頼まれた訳でもなかったが、中々面白い体験だったのでエッセイにまとめ、試しに世話になっている雑誌社の担当に送ってみたら、幸いなことに担当に気に入られ、雑誌に掲載された。
そして今日、編集長直々に呼び出された私は、久しぶりに都会に戻ってきたのだ。
「はぁ、それはもちろんありがたい事ですが……」
そんなに珍しい生体を持つ生物に出会う機会など滅多にないと言うと、編集長は片眉を上げて私を睨みつけ、「機会がなければ作ればいい」とフランス王妃のような事を言い出す。
「日本だけでも不思議な生態を持つ生物は相当数いる。そこにお前が出かけて行って生物と生物に関わる人々を取材、ルポタージュ風にまとめていくっていうなら、連載も可能だろう」
「はぁ、しかし編集長もご存知の通り、私は一人じゃ電車だって満足に乗れませんし……」
それ以前に生来の出不精で遠出は性に合わない。だから自宅で出来る物書きになったのだ。
「優秀な編集者をつけてやるからその辺は心配しなくていい。生物探し、相手先へのアポイントメント、乗り物や宿泊先の手配、その他諸々の雑事は全部そいつに任せて、お前は取材と記事を書くだけでいい」
まさに致せり尽くせりの特別待遇。余程の大物作家ならともかく、フリーの雑文屋にここまでの待遇はまずありえない。逆に言えば、編集長の話は既に決定事項であり、私に断るという選択肢はないという事だった。
こうして私の新連載は決まり、その第一弾として東北地方南西部の県にある、この地の大名ゆかりの品や書面などを集めた資料館へとやってきたというわけだ。
「へー、じゃぁこの魚拓は全部『紙魚』なんですか」
編集者の高山君が、感心したように声を上げる。
高山君は編集長が選出した私のサポート役で、良く言えば大らか、悪く言えば大雑把で無駄にポジティブな、私とは正反対の男である。
「ところが実はこれ、魚拓じゃないんです」
高山君の言葉を待ってましたとばかりに、館長は嬉しげに笑うと一旦ロビー横の小部屋に引っ込み、その手に醤油差しのような容器を持って再び現れる。
そして「見ていてくださいね」というと、横九十センチ、縦四五センチほどの魚拓めがけて、醤油差しのような容器をギュッと握った。途端に容器から真っ黒な液体が吹き出し用紙の一部を黒く染める。
そのまま数秒すると、墨の魚がゆらりと動き出した。
横向きだった魚拓が、尻尾と身体をくねらせて紙の奥に向かって小さくなり、ゆらりと反転すると今度は館長が用紙にかけた黒い液体に向かって大きな口を開けて迫り、液体を食べたのだ。液体を食べるというのもおかしな表現だが、そうとしか書きようがない。魚が獲物を捕食する動きそのままに、平面の魚が紙の中を泳ぎ、黒い液体の部分を丸呑みにしてしまったのだから。紙魚が食べたのは本当に液体だけで、紙の部分は傷一つ残っていない。まるで3D映像を観ているようだ。
呆気に取られた私たちの表情には目もくれず、食事を終えた魚は再び元の位置に戻ると動きを止めた。
いや、よく見ると止まっているようで微妙に尾びれや背びれが動いている。
「ここにいる
館長は醤油差しを手に持ったまま、誇らしげに声を上げた。
“
「紙魚ってのはあれだろう? 紙を食べる小さな虫だ。動きが速く、くねるように走る姿から魚の文字を当てられているがね」
「いや、それがですね……」
高山君曰く、東北地方南西部の県のある地方には、本当に紙の中を泳ぐ魚がいるらしい。虫の紙魚の語源は、虫を紙魚の稚魚と勘違いした誰かさんが「紙魚」と呼んだのが広まったのだとか。
虫の紙魚が紙を食べるのに対し、魚の紙魚は文字、つまり墨やインクを食料にしており、この魚が繁殖すると本はもちろん書道作品や手紙の文字まで食べられてしまうので、この地方では害獣扱いとなっており、駆除の対象になっているのだそうだ。
「つまり、その魚は紙の中を泳ぐと言うのかい? あんなペラペラの中を一体どうやって泳ぐんだい」
それとも紙面を歩き回る虫の紙魚のように、紙の上を泳ぐということだろうか。まったくイメージが沸かない。
「まぁ、百聞は一見に如かずですよ先生」
高山君はそう言うと、自分のノートパソコンを起動、ブラウザーを開いて動画共有サイトを表示させると「紙魚 〇〇地方」と検索。
すると数件の動画がヒットし、高山君はその中の一本を私にも見やすい様に全画面モードで再生した。
その動画には、茶色がかった和紙の中を悠々と泳ぐ一匹の魚の姿があった。
古代魚を思わせる不思議な形をした魚は、縦に横に奥に手前に、和紙の中を縦横無尽に泳ぎ回っていた。
「CGじゃないのかい?」
「ネットや書籍、生物学者にも電話で話を確認しましたが、ガセではないようですね」
高山君が生物学者に聞いたところ、この魚の祖先は海に暮らしていたらしい。
この地方では楽水紙という三椏を原料としてノリウツギのネリを加え、海藻あるいは川苔を混入して漉いた和紙を作っていて、その海藻に産み付けられた卵が何らかの偶然で環境に適合するべく進化し、紙の中を泳ぐ魚「紙魚」となったのではないかというのが定説とされているらしい。しかし長いあいだその存在が知られていなかったため、詳しい生態などはよく分かっていないし、研究者自体、日本に数人しかいないのだという。
「どうです先生、記念すべき連載第一弾としては面白いネタじゃないですか?」
高山君が興奮気味に言う。
彼がさらに取材を進めたところ、この地方には害獣である紙魚を専門に駆除する漁師がいて、資料館や古い寺などの依頼で定期的に漁をするのだという。
高山君の話に、私も珍しくワクワクしていた。確かに面白そうなネタだし、この不思議な魚が紙の中を泳ぐ姿を生で見てみたいと思ったのだ。
それから一週間後、件の資料館で、資料の虫干しと紙魚漁が行われるという情報を仕入れた高山君がスケジュールを組み、私たちはこの地にやってきて、今に至るというわけだ。
「市議会や地元商工会議所も巻き込み、この紙魚を展示する紙族館の計画もあるのですよ」館長は、大小形も様々な紙魚を眺めながらそう言った。
「しぞくかんですか」
「そうです。紙を泳ぐ魚を展示する紙族館です。紙魚は長いあいだ私どもにとっては資料や貴重な美術作品を食い荒らす害魚でしたが、町おこしの観光資源として一役買ってもらおうと、そういうわけです」
なるほど、確かにこの地方にしかいない固有種であるし、実際そのような施設が出来たなら、すぐに話題が話題を呼んで観光客が押し寄せるだろう。まぁ、多少生臭さい話ではあるが、過疎化の進む地方の市町村にとって、特色を打ち出して観光客を呼び込むのは、地方の生き残りをかけた命題でもあるのだ。
資料館を後にした私たちは、車で三十分ほどの場所にある一軒の民家を訪れていた。紙魚漁師の大西さんに紙魚漁とはどのようなものかを取材するためである。
大西さん宅は、ぱっと見た感じではどこの地方都市にもありそうなごく普通の民家だ。漁師の家といえば、浮き玉や漁に使う網などの道具が置いてあるイメージだったので、勝手は承知だが少々拍子抜けしてしまう。
家人の方の案内で家の裏手に回ると小さな小屋があり、中から大西さんが迎えてくれる。まぁ、「迎えてくれる」とはかなり控えめな表現で、有り体に言えば私たちはあまり歓迎されていないようだった。
見た目は三十代前半といったところだろうか。がっしりした体躯ではあるが、私の住む町の漁師、松本さんのようにいかにも強面ではないし、型通りの挨拶はしてくれるのだが、その口調はぶっきらぼうで愛想がない。
何か気に障るような事でもあったろうかと思っていると、私たちを案内してくれた家人――奥さんなのだそうだ――が、「ほんと無愛想ですいませんねー」と謝ってくれ、大西さんを嗜める始末で、どうにも居心地が悪い。
奥さんが母屋に戻ったあと、大西さんから紙魚漁の概要を伺うことになった。
「紙魚漁とは具体的にどういった手順で行われるのでしょう?」
「紙魚が出そうな場所に網を張って、掛かったヤツを捕まえる。まぁ普通の漁と同じだな」
「網ですか……」
オウム返しに言って小屋の中を見回すも、網らしき道具はどこにもない。
もう、車にでも積んでしまったのか、それとも此処とは別に道具を置く場所でもあるのだろうか。
そんな私の様子に気づいたのか、大西さんは私の後ろに丸めて置かれていた一枚の大きな和紙(新聞紙二枚分くらいだろうか)を手に取り広げて見せてくれる。
「これが紙魚漁に使う網だよ」
「この紙が網なんですか」
「ああ、この和紙には先祖代々伝わる特殊な糊を染み込ませててな、一旦この紙に入った紙魚は逃げられなくなっちまうんだ」
「紙に入るということは、紙魚は紙の間を移動出来るんですか?」
資料館で紙魚を見たとき、私はその魚は生まれた紙の中で一生を終えるのだろうと漠然と思っていたのだ。
「理屈はわからんがね。奴らは和紙でさえあれば紙と紙の間を自由に行き来出来るらしい。例えば本で生まれた紙魚は、その本の文字を全部食っちまうと、別の本や紙に餌場を探して移動するんだな」
「それは、例えば空中に跳ねて、隣の本に移動するみたいな感じですか」
「いや、それがどうもね……」
大西さんは少し口ごもったあと、いい大人が口に出すのは恥ずかしいがと前置きして、
「奴らが紙から出たのを見たものは今まで一人もいないし、そういった伝承もない。だが、奴らは確かに紙の間を自由に行き来してんだ。つまり……、紙と紙の間に何らかの異空間があって、奴らはそこを行き来してんじゃねえかと……」と言う。
説明しながら徐々に声が小さくなっていく大西さん。
「なるほど、人には認識できないが、紙魚だけが通れる空間を繋ぐトンネルのようなものがある。ということですか」
私がそう言うと、大西さんは俯いて、唸り声を上げながら硬そうな髪の毛をガシガシと掻き毟った。
「あれ、違いますか?」
「いや、そうだ。そういう事だがよ、あんた、よく恥ずかし気もなくそんなマンガみたいなセリフが言えるな」
マンガやアニメの設定のような突拍子もない発想をしたり、言葉に出すことを大西さんは恥ずかしがっていたらしい。
私は「未だにマンガもアニメも大好きですからね」と笑った。
このやりとりが功を奏したのか、その後大西さんの雰囲気は柔らかくなり取材がスムーズに進んだ。
紙魚漁とは、特殊な糊を染みこませた和紙の網に墨の撒き餌をして、餌に釣られて網に入った紙魚が逃げられないようにする漁らしい。そして人間には感知出来ない紙魚の通り道に当たりをつけ、網を仕掛けられるかが紙魚漁師の腕の見せどころらしい。
とはいえ、この地方だけの固有種であり、和紙の中でしか生きられない紙魚だけに漁自体の需要は少なく、寺や資料館など古文書や美術品を扱うオーナーから年に一、二度依頼が来る程度で、専業漁師として食ってはいけないのだという。
大西さんも普段は農業で生計を立て、農閑期の時期だけ紙魚漁を行うのだそうだ。
「ちなみに、捕まえた紙魚はどうするんですか?」
それまで黙っていた高山君が大西さんに尋ねた。
「燃やす」
「え、燃やしちゃうんですか!?」
「ああ、別に食えるわけでもないしな。ここから1時間ほど行った山の中に墨を作る工房があってな、そこで枯れ松の枝と一緒に燃やして、煤から墨を作るんだ」
「ああ、そういえばこの地方の特産に墨がありましたね」
私がそう言うと、大西さんは一瞬驚いたような顔で私を見たあと「へぇ詳しいんだな」と言う。
「この辺の墨は質がいいって書道家の間じゃ有名なんだ。どうやら紙魚を燃やした煤に関係があるらしい」と嬉しそうに笑った。
「でも、資料館の館長は生け捕りにして展示するって言ってましたね」
何気ない高山君の一言で、それまで機嫌の良かった大西さんの表情が一変した。
「……らしいな」
と言ったきり、口をへの字にして黙り込んでしまい、それに気づいた高山君がしまったという顔になる。
「大西さんは、その紙族館ですか。それには反対なのですか?」
「いや、町に観光名所が出来ること自体は反対じゃねえよ。そのために紙魚が役立つってんならそれもいい」
ただ、と大西さんは言う。
「紙魚ってのは詳しい事が何もわかってねえ魚だ。いや、見た目は魚だがそれだって怪しいもんだ」と、大西さんは網に目をやる。
「この網も捕まえて燃やすまでの短い時間なら何の問題もない。もう何十年、何百年も何事もなかった。でもよ、この網を水槽替わりに使ったことは今まで一回もねえんだ」
大西さんは、せっかく捕まえた紙魚が逃げ出して貴重な資料の文字を食べるんじゃないか、珍しさから誰かに盗まれた紙魚がこの地方以外で繁殖する危険性を指摘し、生態研究とルール等の準備を整えてから公開したほうがいいと、幾度となく資料館の館長に進言してきたが、館長の方は聞く耳を持たず、すぐにでも紙族館を始めようとあちらこちらに根回しをしているらしい。地方とは言え大名の子孫で、この町では名士の館長の発案でもあるから紙族館計画は順調に進んでいるという。そして、全ては館長と懇意にしている東京のコンサルタントの入れ知恵らしく、私たちもその一味だと思われていたらしい。
「相手は生き物だ。俺たちの思い通りになるとは限らんし、もし紙魚は話題になって、誰かのせいで日本中、いや海外に持ち出されて繁殖して、万が一にも貴重な資料を食われたなんて事になったら、この町の名前に大きな傷が付いちまう。俺はそれに加担するのが怖いんだよ」
大西さんの言葉が、重くのしかかってくる気がした。
もちろん、何事も起こらない可能性もある。紙族館がオープンし話題になれば、この町は観光で潤うだろう。
しかし、大西さんの心配がもしも的中してしまったら、この町が被るダメージは計り知れない。
答えの出ないまま大西さん宅を後にしようとすると、「俺の言ったこと、必ず記事にしてくれよな」と大西さんに真剣な目で言われ、私は思わず頷いてしまった。
翌日午後6時、閉館後の資料館で大西さんが漁の準備をしていた。
明かりを落とした非公開の歴史的文献を所蔵している地下の資料室を、大西さんは慎重に歩きながら、目をつけた棚に専用の「網」を縄で括っていく。
今回仕掛ける網は全部で十枚、内一枚は畳一畳分もある大物狙い(大西さんによればこの部屋の主らしい)の網だ。
確かにこの部屋に生息しているのだが、長年生きた主は狡猾で中々捕まえられないらしい。
すべての網を仕掛け、それぞれの網を真鍮性の小さな鈴を括りつけた細い縄で繋いで準備完了となる。
あとは、地下の明かりを消して真っ暗闇の中で紙魚が掛かるのを待つだけ。
一寸先も見えない漆黒の闇の中、隣の大西さんの静かな息遣いだけが聞こえる。
視界だけでなく、色々な感覚が闇に奪われて自分の輪郭すらあやふやになってしまうような気がした。
まるで、体が闇に溶けていくような感覚の中、嗅覚と聴覚、それに空気の流れを感じる皮膚の感覚だけが鋭敏になっていくのが分かる。
一体、どのくらいの時間が経ったのだろう。
ぼんやりとした頭の中で、この場所に高山君を同行させなくて良かったと思う。
彼の性格では、暗闇で長時間息を殺しているなど、とても耐えられないだろう。
その時だった。
ふいに鼻先に微かな墨汁の匂いを感じた。
そして空気の揺らめきが敏感になった肌の産毛を揺らすのが分かる。
「来たぞ」
大西さんが小声で短く呟く。
漆黒に目を凝らすと、何も見えていないはずの視界に、空気の渦や線のような気配が映っては消えていく気がする。
それは恐らくは、無数の紙魚の
暗闇の中で敏感になっている視覚以外の感覚が、レーダーやソナーのように脳に映像として送り込んでいるのかもしれない。
横で、大西さんがゆっくりと動く気配を感じる。
感覚はますます鋭敏になり、棚の向こう側の空気の流れまでが視えるような気がする。
その時だった。
チリンチリンチリンチリンチリンチリン……
それまでの静寂が嘘のように、真鍮の鈴が暗闇の中で一斉に鳴り響き、敏感になっている聴覚を揺さぶった。
「よし!」
掛け声とともに大西さんが、部屋のスイッチを一斉に入れると、暗闇になれた目に真っ白な光が飛び込んできて、思わず目を閉じて初めて、それまで自分が目を開けていた事を思い出す。
さして広くもない資料室に、真鍮の鈴と和紙がバタバタとなびく音が響く。
「見なよセンセー、今日は大量だぜ」
大西さんの声にゆっくりと目を開くと、仕掛けた網が真っ黒に見えるほどの紙魚が掛かっていた。新聞紙二枚を合わせた大きさの和紙の中で、大小さまざまな、どこか古代魚めいた紙魚が右往左往している。形の様々な真っ黒な魚の群れだ。
「うぉっ!」
不意に響いた大西さんの叫び声に驚いて目をやると、最後に仕掛けた畳一畳分の網の前で彼は呆然と立ち尽くしていた。
「どうしました?」
声をかけながら大西さんに近づいて、私も異変に気づいた。
大きな和紙のど真ん中に、大きな穴があいているではないか。
「……これは」
「主だ。網を破って逃げやがった」
大西さんは悔しそうに、しかし、ほんの少し嬉しそうな複雑な表情で、穴の空いた和紙を見つめていた。
こうして、紙魚と紙魚漁の取材を終えた私と高山君は、翌日の夕方帰路についた。
不慣れな行動が祟ったか、旅館に戻り倒れ込んだまま、今日の午後一時過ぎまで眠っていたのにまだ眠い。
大西さんは、昨日に引き続き今日も漁があるというので、帰りしなに挨拶だけを交わして別れた。今日こそ主を捕ってみせると息巻いていた彼を見て、やはり漁師というのはタフなものだと思う。
電車に乗り込み、さて記事の構成はどうしようかと考える。
館長と大西さん、どちらかを悪者にしないよう、しかし両者の主張を書かねばならない。まぁ、多少大西さん寄りになるのは致し方ないかもしれないが。
そんな事をつらつら考えるウチ、再び眠ってしまった私は、微かに香る潮の匂いで目が覚めた。
窓の外に目を向ければ、海沿いの見慣れた景色が見えている。
たった二日離れただけなのに、我が家をひどく懐かしく感じるのは、昨晩の漁の感覚がまだ残っているからか、それとも……。
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