カクヨムユーザーミーティング Vol3

文月やっすー

第一部『角川文庫が求める小説』

第一部は角川編集長、吉良浩一さんの講演内容です。


◇◇ 初めに ◇◇


沢山ご応募いただき、大変嬉しく思いました。

編集部としてはカクヨムから新人発掘を行い、プロになって頂きたいと真剣に、大真面目に考えています。

今回は予めお答えいただいたアンケートにありました質問に答えながら、話をしていきます。

今回はプロを目指す方々とあって、高速球や直球の質問もありました。それらを集約した質問に答える形で、角川が求める小説をお話させていただきます。



◇◇ 角川文庫のねらい ◇◇


今回お仕事コンテストという形で、カクヨムにエントリーした理由は、「若い読者を取り込みたい」と思っているからです。角川は男性層と若い層に弱いので、若い世代に向けたカクヨムの作者を角川に接続させていきたいと考えています。


◇◇ 角川文庫ってこんなレーベル ◇◇


まずは、角川についてのお話をしていきます。

角川は、来年2018年で70周年を迎えます。当初は夏目漱石や森鴎外、芥川龍之介などの古典の世界を、若い世代に安く売り出していました。そこからご存知の方もいると思いますが、横溝正史などの映画と連動してたくさん売るようになります。ですので、初めは男性作家が多かった。ですが、いま角川を支えているのは40代、50代の女性作家です。そして、その層の読者が、角川中心になっています。


ここから先は作品と売れている年齢層を見ていきたいと思います。

まずは結構売れている「このすば」の読者層です。


「この素晴らしき世界に祝福を」グラフ 

(スケールは正確ではないので、概形で見てください)

        ←男性  女性→

          [__|60|_]

          [____|50|__]

         [____|40|____]

         [_____|30|__]

     [____________|20|_]

 [_________________|10|]



10代男性、20代男性が多くなっています。男女ですと男性が7割~8割、女性が2割くらいです。

併読書をみると「このすば」が並んでいます。(シリーズを通して読まれている)

「なろう」(小説家になろう)からの読者で10~20代の方が多いです。


次に「君の名は」です

「君の名は」グラフ

       ←男性   女性→

         [_|60|_]

         [__|50|__]

        [____|40|_______________]

         [____|30|___]

        [___|20|__]

      [________|10|______]


40代女性が多いですが、これは子供に買った可能性があります。

いずれにせよ「このすば」の読者層とは違うことが分かります。

(「このすば」の方が角川が新たに目指している読者層。

「君の名は」の方が従来の角川の読者層)


次に米澤穂信さんの「いまさら翼といわれても」〈古典部シリーズ最新作〉です

「いまさら翼といわれても」グラフ

         ←男性  女性→

           [|60|_]

           [_|50|___]

          [___|40|____]

          [___|30|____]

    [______________|20|___]

        [______|10|______]


アニメになった「氷菓」からの読者で20代男性が多かったようです。


角川に近い売れ方として、湊かなえさんの「高校入試」

「高校入試」グラフ

         ←男性   女性→

           [_|60|____]

            [_|50| _______]

           [__|40|________________]

           [__|30|______]

            [__|20|____]

          [___|10|__]


また東野圭吾さんの「ナミヤ雑貨店」

「ナミヤ雑貨店の奇蹟」グラフ

        ←男性   女性→

          [_|60|_]

         [_____|50|____________]

         [____|40|_______________]

           [_|30|____]

            [_|20|__]

           [|10|_]


40代、50代の女性の層が多くなっています。

それとは違った形が森見登美彦さんの「夜は短し」

「夜は短し歩けよ乙女」グラフ

        ←男性   女性→

          [_|60|__]

          [__|50|___]

          [___|40|__________]

         [___|30|____]

           [__|20|_________________]

       [______|10|__________]


映画アニメ化(2017年4月)から10代や20代の層が伸びたようです。





◇◇ お仕事コンに求めるもの ◇◇


カクヨムは日常をベースにファンタジックな要素が入ってきます。

一方で角川は日常、誰でもその人の立場で考え、共感できるような作品が多くなっています。ただ、本当に日常を、例えば通勤の様子などを書いても面白くないので、仕事を描きつつ、人の葛藤や成長や、恋愛などを描いて欲しい。

「校閲ガール」の撮影でこのビルの一階が使われましたが、「校閲ガール」はまさに仕事の話でした。どんな仕事でも本気で取り組むと、そこに生まれる葛藤や衝突があります。そのリアルな世界を描くためのベースとして、今回は「仕事」コンテストとしました。

裏で生々しいものが転がっている世界もあると思います。

端的に面白いものを、そして「今」の世界が反映されているものだと良いです。読んでいく中で、「今」に気がつかせてもらえる作品。そういった作品が好まれます。


◇◇ 集まった質問に対して ◇◇


集まった質問の中に、どんなプロが求めれているか、というものがありました。

求めるのは、一定のペースで書ける人です。1年に2作。これが最低ラインです。それ以上空くと読者が離れます。

また最近のトレンドは、という質問がありました。これは「まねしてね」ではないですが一般文芸の中でもキャラものが増えてきています。例えばビブリア(ビブリア古書堂の事件手帖)とかです。そう言った作品の読者は一般文芸も回遊します。

ビブリアの読者は、宮部みゆきさんの作品も読むし、東野圭吾さんも読む。

(例として「櫻子さんの足元には死体が埋まっている」の読者層のグラフが出る)

「櫻子さんの足元には死体が埋まっている」グラフ

       ←男性   女性→

         [_|60|__]

         [__|50|___]

        [____|40|________________]

          [__|30|____________]

         [___|20|____]

         [_|10|______]


(40代の他に、10代、20代も多い)

ドラえもんの様な要素というか。のび太くんは日常にいる男の子ですが、そこにドラえもんという非日常の要素が入ってきて、困難を解決していく。

七月隆文さんの「僕は明日、昨日のきみとデートする」や住野よるさんの「君の膵臓を食べたい」のように、ラノベから一般文芸に移った方は、一般+ラノベの層に受け入れられています。

作品の内容を見ると、「君の名は」も含めて、時間に関するものがトレンドになっています。



◇◇ 質問タイム ◇◇


Q1:新人としては、何枚くらいを目安に書くといいのでしょうか。

A1:ボリュームとしては長編は最低、400字詰め原稿用紙250枚です。上限は600~700枚ですかね。それ以上だと定価が高くなってしまいますから。適正は250~450枚と言ったところです。

Q2:新人は単行本(ハードカバー)での発行はしないのでしょうか。

A2:単行本と文庫本は読者層が異なるので全くの別物です。単行本で行けるなら行きたいですけど。

単行本と文庫本の違いは、価格的なものです。文庫本のメリットとして、単行本の大体3倍くらい売れます。単行本のメリットは、単行本の方が書評がつきやすかったり、文学賞にノミネートされやすいところです。


Q3:お仕事の範囲ですが、ボランティアは大丈夫でしょうか?また、野球の審判のような有償に近いボランティアはどうでしょうか?

A3:こちらが求めているものと合致していれば大丈夫です


Q4:講演の中で「若い層」を取り込む、というお話がありましたが、このお仕事コンテストでは、若い層はターゲットとして入っていないのですか?

A4:結果として取り込めればいいですが。あまり意識せずに書いてください。


Q5:(自分は本を読む人がもっと増えて欲しいと思って書いていますが)30代の層があまり読書をしないと聞いて、だからこそ狙ったほうがいいのか、それとももっと別の層を狙ったほうがいいのか、どちらでしょうか?

A5:上手くアプローチできていない、とは思っています。現代物であれば、書く世代と読む世代があまり離れていなく、経験や空気が近いので、30代40代の人が10代や20代の層を狙えると思っています。


Q6:プロの作家が生き残るために、やっていることは?

A6:専業作家と兼業作家で違いますが、兼業作家さんはすごく真面目です。レビュー等を励みにしたり、読者のニーズを取り入れて次の作品にしっかり反映させています。


Q7:サポート体制はありますか?

A7:9時~17時の仕事ではないので、小説の中身をブラッシュアップするために24時間体制でいます。夜に長く電話をすることもあります。


Q8:仕事コンはファンタジー的なものでも大丈夫ですか?

A8:どういうふうなメタファーなのか、読者にわかれば大丈夫です。現実と相似形であれば、異世界を補助線としてリアルを描くのは大丈夫です。


Q9:(ジャンルについて)色々なジャンルを書きたいが、作家さんを見ているとひとつのジャンルに特化した方が多いので、やはり一本に特化したほうがいいのでしょうか?

A9:一作ごとにジャンルが変わると、読者が「書きたいもの」が分からず離れてしまう。もちろん宮部みゆきさんのように、ミステリーから入ったが、色々なジャンルで1流の作品を書く人もいる。一方で、器用貧乏になる場合もあるので、大きなジャンルを度々変えるのはおすすめしない。


第1部はここまで。

第2部に続きます。

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