おバカ3トリオ

箱入りどろん

第1話

七星中学校2年3組勝村翔利です。最近のブームはこれといってありません。……本校を志望した理由?そんなの無いですよ。担任からココに行けって言われて…。

「もういい。お前からはやる気が感じられん」

目の前に座っていたガタイのいい先生がそう言うのだから、さらにやる気が失せた。そしてため息。

「勝村ッ!お前はもう2年だぞ?!1年とは違うんだ。真剣に取り組め!」

唾が飛んできた。汚ねえ。

先生は俺を一瞥して教室を出ていった。最後に扉を強く閉めたのは俺への当て付けなんだろう。



先生が出ていった後すぐに俺は同じく教室を出た。すると、教室前に見慣れた顔が並んで腕を組んでいた。

「よお勝村」

うししッと笑いながら1歩前に出たのは、俺と同小の堂川だ。コイツとは小6からのたった3年間の付き合いだ。

「織田っちがカンカンだったぜ」

「アイツ、織田っつーのか」

「なんだ、知らねぇの?野球部の顧問だぜ」

そういやコイツは野球部だったな。

初面識だったということは、他の学年の担任、又は赴任したてってとこか。

「アイツうぜーからよ。生徒指導だからって威張ってくんの」

「そんなこと言っていいのかよ。顧問だろ」

いいのいいの!と首を振る堂川。そして後ろにいた連中に何かを話す。みんなボウズ…野球部か。

「そうだ。放課後さ、つる屋行かね?」つる屋…確か小学校の近くにあった駄菓子屋だ。中学になってからは1度も行ったことがないが、昔はよく行っていたな…。懐かしい。

「別にいいや。甘いモン嫌いだし」

まあ、駄菓子屋なんてお子様な所、俺は行かないが。

「そうか。今日は部活休みだから皆で行こうっつってたんだけど」

「なら尚更だな。野球部の中に帰宅部がいたらメーワクだろ」

じゃあな、そう言って俺は野球部と別れた。そこまで仲良くないヤツらといたって時間の無駄だ。


「…おい昭一。アイツなんなんだよ」

「いつもああいう奴なんだ。気にすんなよ」

「気にくわねーな」




「あっ、翔利」

教室に入ろうとしたら声をかけられた。この声は、

「雪」

「3組にいないから困ってたんだよ。また生徒指導?」

肌が白く、目がクリクリしていて、女子だったら絶対に彼女にしているようなコイツは1組の鈴村雪。俺の幼馴染み。

「そうだ。やってらんねーよ」

「そう言わないで。仕方ないよ七星なんだから」

ココ、七星中学校は進学にとても積極的だ。2年時から進学について勉強している。さっき俺が呼び出しを喰らったのも、進学の面接の補習だった。

「そうだな。…ところで、何の用?」

「えっとね、明智先生からの伝言。【放課後に視聴覚室まで来い】だって」

本日2連チャンの生徒指導デース。おめでとー!

「翔利は根は真面目だけど…はっきり言ってさ」

別に授業を受けていないとか、よそ見をしているとか、そんな訳では無い。

「バカ、なんだよね」

そう。俺はただ単に勉強ができない馬鹿なのだ。

勉強が出来なけりゃ成績が下がる。それで生徒指導を受ける…その流れ、何回もやってきた。初めは内申だけは良くしようと努めたが、テストが出来なけりゃ成績が下がる。生徒指導を受ける。気力が無くなるっつーわけだ。その無限ループ。今や2年になってからは生徒指導は日常と化している。そして俺の学力も気力も日常と共に失われていく…。

「結果、ダメ人間が出来上がったわけだ」

「そのとーり…。俺、心の声出てた?」

「出てた出てた丸聞こえ」

うんうん、と頷く雪の髪がフワフワと揺らめく。少し天パだがそこが良い。

「でも、翔利は天才だよ」

パッチり開かれた雪の目。その中には同じく目を見開いた俺の顔が映っている。

何を言っているんだコイツは。

「だって翔利は料理もできるし運動もできるし、裁縫も歌もうまいし動物の世話もできるし」

「たんまたんま」

キラキラと目を輝かせ俺に詰め寄る雪。雪はたまに俺のことをこうやってベタ褒めする。裏も感じられない純粋な気持ちにはいつまで経っても馴れないな。顔が熱くなる。

「とにかくっ、翔利は翔利が思ってるほどダメ人間じゃないよ!そりゃあ勉強は出来ないバカだけど、勉強以外にも大切なことってあるし」

勉強以外にも大切なことってあるし。

勉強出来ない奴にかける言葉ランキング常にトップスリーであろうその言葉は、雪以外の奴に言われてたら(殴りかかるだろうから)警察沙汰だっただろう。反吐が出るくらい慰めになっていない。でも雪だからいいのだ。

「…ありがとう」

でも、勉強以外に大切なことって料理とかそんなモンだろ。料理は出来るが好きではないし…。あれもこれも…。

「ほらっ!深く考えない!」

頬に冷たい感覚が走る。驚いて前を見るとドアップで雪の顔があった。睫毛が長い。そして口元は緩く弧を描いている。

「ありがとう」

「翔利真面目だから。深く考え過ぎて固まっちゃうの良くないよ」

そう言う雪は控え目にクスクス笑った。つられて俺も笑う。

そしてこの雰囲気をぶち壊す予鈴が鳴った。予鈴マジ許さん。

「じゃあね!」

手を振りながら少し遠くの教室へ入っていく雪を見送って、俺も教室へ入る。

放課後、視聴覚室。面倒だ。でも行かなければそれで生徒指導…。

「………行くしかねぇ」

深く考えるな俺。

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