心喰いと不思議なレストラン

猫宮噂

ウェルカム・ドリンクをおひとつ。


──嗚呼、いらっしゃい。よく来たねェ、我らが同胞はらから。いやなに皆まで言うことはないサ。うんうん、わかっているよ。【此処レストラン】に来たということはつまり、キミもな訳だ。

 ってどういうことかって? オヤオヤ、まさか自覚がないことはないだろう?つまり、そう──キミもまた、ヒトの『心』を喰べる能力チカラを持っているというわけだ。違うかね?

 オヤ、私としたことがとんだ失態だ。お客人を立たせたままなんて、紳士の名が廃ってしまう。ささ、どうか腰掛けてくれ給え。

──失礼、バリスタ嬢。珈琲カッフェを二つ。

……ウン、良い香りだ。はて、珈琲はお嫌いかね? 違うのならば良かった。是非飲んで見るといい。きっと口に合う。


 さて、適度に喉も潤したところで本題に入ろう。君はどうやらあんまりにも何も知らないようだからね。なあに、ただのお節介サ。

 此処はレストラン。店名は──ウン、実のところ私も知らないんだが、嗚呼、そんな顔はしないでおくれ。何しろそういうモノなのだ。私以外もそう、誰もこの店の名前は知らない。ただ、レストランというからには食事処さ。勿論、ただのそれではない。此処は我々のような心喰いの為のレストランだよ。

 はて、心喰いが何かって? ふむ、仕方ない。なに、得てして生きるということはそういうモノだからね。無知は恥ずべきことではないさ、知ろうという意思が在る限りは。

 そうだなあ、何から話したものか。先ず、心喰いというのは能力チカラの総称だ。文字通り心を──といっても、丸ごと全部を食べてしまう訳ではない。ほんの少し、感情の一部分を喰らい、自身のエネルギーとして取り込む事が出来るのサ。とはいえ、この能力というのも定義は上手く定まっていなくてね。者もいれば、一息に他人の感情を丸ごと食べてしまう者もいる。変わり種ならば、私の友人には魂を喰うのも───オット、此れは与太話だったかな。

 兎角、此処はそんな心喰い達が料理に舌鼓を打ち、料理人が腕を振るい、一つの物語が生まれていく場所だよ。謂わば、君の居場所のひとつと言っていい。


 改めて、ようこそ我等が同胞はらから。ウェルカムドリンクは、珈琲で良かったかな?

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