星環の跡で

ルロルタ

第1話 流れ任せに

 ここに、極平凡な日常を過ごしている人がいる。茎馞くきかは、帰宅路を急いでいた。一羽の鴉が人鳴きすれば、茎馞は自然と足を止めた。茎馞はその鴉に近づき、声をかけた。

「……この前遇った鴉?」

 鴉は石を嘴で加えて受け取るのを待っていた。

「……くれるの?」

 受け取るや否や、石の中で漂っていた光が外に溢れ出して、その鴉にまとわりついていた。眩しくて思わず目を背ける。

「……?」

 鴉……だった彼は、水溜りを見た次の瞬間、気絶してその場に倒れてしまった。

 茎馞は、考える前に自分の頬を抓っていた。

「夢じゃない……?」

 周りに人が誰もいないか確認した後、彼を背負って部屋に運び込んだ。


 彼をふかふかのソファに寝かせ、テレビを付けると、音量を少し下げた。

『昨夜、星環が夜空に広がっていました。これは身近では滅多に見られないもので──』

「星環……ってこの鴉と何か関係しているのかな?」

「……?」

「無理しちゃ駄目……!」

 彼が勢い良く飛び起きて、茎馞を物ともせずにテレビを真剣な眼差しで見た。

「せい、わ……星環?」

「ちょっと、質問していいかな?」

 彼は、首を傾げつつも茎馞の口から言葉が出るのを待っていた。

「君は、人? 鴉……?」

「……」

 茎馞は「ああ。そっか」と小さく呟いた。

「君も突然の出来事で……混乱しているのに、ごめんね」

「……」

 彼は首を一回、縦に頷いた。

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