カップル

@gourikihayatomo

第1話

「ねえねえ、今のカップル、一体何者?」

 日本有数の大企業の本社受付で秘書嬢が隣に座る同僚に話しかけた。

「ホント。超美人と超ブ男、あんなに不釣合いなカップル、初めてだわ。女性は流れ落ちる黒髪、透き通るような白い肌と真っ赤な唇で女性の目から見てもゾクリとするような超美形。それなのに男の方ときたら、不細工に馬鹿でかい図体とつぶれた鼻に小さな目、分厚い唇に毛深い腕、思い出しただけでゾッとするわ。きっと胸毛も相当なものよ」

 同僚も同じ事を考えていたようで、即座に応じた。

「あの二人、とてもカップルになる要素なんてありそうないけど、男と女はねえ……」

 最初の女性がそう言うと二人はちょっぴり意味深な笑いを浮かべた。

「それにあの非常識はなに?約束もなしに突然やって来て、社長に会わせろ、なんて」

「ご用件は、と尋ねるといきなり、地球温暖化防止のために二酸化炭素の排出を減らさなければいけない、ですって。まるで、生きるか死ぬかというような二人の真剣な形相に圧倒されて、社長に取り次いじゃったけどまずかったかな」

 彼女たちは自分たちの無責任を棚に上げて、さきほどのカップルの必死な様子を茶化した。

「ねえ、ここ、ちょっとヒンヤリとしていない?冷房の設定温度を下げたのかしら」

「不思議ね。さっきまでは暑かったんだけど」

 少し前から急に涼しくなった室内で二人は同時にぶるっと震えた。


 その頃、上の部屋では社長が半ば凍りつきながら、雪女と雪男から地球温暖化防止の訴えを聞かされていた。


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