生命のうた
「みんな! バッタを見つけたよ!」
家から兄弟達がたくさん出てくる。
みんな大喜びでバッタの周りに集まる。
「せ~の!」
掛け声をあげて全員で持ち上げる。
力を合わせて家まで運ぶ。
「よく見つけたな! 大収穫だぜ」
お兄ちゃんが褒める。
弟たちは待ちきれないような目で一緒に歩く。
冬が近づいている。
立派に成人した男たちは食糧を蓄えるために外に出ている。
近所や隣町、縄張りをいくつも越えた隣国だって同じ。
みんなが情報を交換し合い、獲物を分け合い、厳寒の訪れに備える。
「隣町のオースティンがさ、間違ってモグラの巣に穴空けちゃったんだってよ」
「隣国の女王様が付き人と結婚したらしいよ」
「3軒隣りで獲物が逃げちゃったんだって。見張ってたウェズリーが大怪我したみたい」
出稼ぎから帰ってくる兄弟達から色々なエピソードが届く。
働きを労う宴会が開かれると大いに盛り上がる。
兄弟達はよく喧嘩もする。
かと思えば遠い場所の同族のために駆け付けたりもする。
絆は強い。
「僕さ、メアリちゃんのこと好きなんだ」
「ああ、アブラムシの? 彼女の蜜最高だよなぁ」
「おーっと、ライバル多いぜ? 何を隠そう俺もだ」
「ケインまで!? 兄弟のよしみで身を引いてよ!」
恋をしたり。
励まし合ったり。
時には決闘をしたり。
冬が近づいても燃え上がる想いは止められない。
「ねぇゾラおじいちゃん。冬が過ぎたらどうなるの?」
「ピーターは最近生まれたんじゃったな。冬を無事に越えたらな、暖かい春が訪れるんじゃよ」
「春って楽しい? みんなと一緒にいられる?」
「ああ楽しいよ。花は咲き乱れて甘い香りを放ち、暖かい陽射しが道を温めてくれる。美味しい朝露で喉は潤い、新鮮な食べ物がたくさん獲れて国中が活気に満ちる」
「わぁ楽しみ~! ゾラおじいちゃんも一緒にいてくれるの??」
「そうじゃのぉ、長生きしたいのぉ。でもなピーター、わしが死んでもお前達が育つ。そしてまた女王様が新しい家族をお産みになる。お前はその子達にこうして色々なことを伝えてあげて欲しい。そうして未来は繋がっていくのじゃ」
「ゾラおじいちゃん居なくなっちゃったらイヤだよ。僕いい子で頑張るから長生きしてね」
去りゆく者は未来を担う者に心を伝える。
受け止める者は命に満ちた世界を目に焼きつける。
沢山の家族が生まれて、色々な愛情を育む。
沢山の事件が起こって、顔も知らない仲間達のために頑張る。
女王様を守るために体を張り、命を張って戦う。
寒い季節が近づけば力を合わせて備え、
暖かい季節がくれば喜びを分かち合う。
ある場所のある蟻の世界。
いつまでも続く確かな
―――突然、一発の光と熱と風と音が全てを終わらせた。
深く抉られ焼き尽くされた土ごと、数え切れないほどの彼らの暮らしと未来を終わらせた。
一生懸命声をかけながら餌を運んでいた者たち。
汗を拭いながら頑張って巣穴を掘っていた者たち。
友達と笑いあっていた者たち。
恋を囁いていた者たち。
未来を若者に託していた者と、目を輝かせながら受け止めていた幼い子供も、
愛情をこめて卵を産んでいた女王も、
モグラも、ミミズも、アブラムシも、何もかも跡形もなく、
数億、数十億の命が瞬きの間に消えた。
冬を越えるための収穫と、春を待つ楽しみに胸を高鳴らせたまま……
『本日、○○国の大量破壊兵器保持を巡って、○軍の武力による制裁行動が強行されました』
『爆撃は都市部を避けて行われ、圧倒的軍事力の一端と共に実行力を示すことで譲渡を引き出す狙いでした』
『一時間後、○○国は会議に出席する旨を打診。軍事行動は一時停止、○国の戦略は成功したとの見方が強まっています』
『識者からは被害者を出さなかった今回の“人道的攻撃”を評価する声が多く……』
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