うん。 

 灰色の石で造られた冷たいベンチ。

 公園の噴水をぐるりと囲んでいる。

 いつもいつも座っている白髭のおじいさん。

 ぱらぱら玄米をばらまいている。

 

 そばに行くと大きな手で撫でてくれた。

 私の手を掬って開かせると何粒か乗せてくれた。

 あげてごらんって言う声はしわがれていて優しい。

 閉じているような目の中の黒も優しい。

 

 この鳩たち飛ばないね。

 

 羽の開き方を忘れてしまったんだよ。

 

 どうして?

 

 毎日わしがごはんをあげているせいさ。

 

 じゃあおじいさんは悪いことしてるの?

 

 そうかもしれないね。

 

 どうしてやめないの?

 

 どうしてかな。

 

 鳩たちはクックと鳴きながらおじいさんの足元にすり寄っていく。

 おじいさんは玄米をぱらぱらとまく。

 鳩たちは首を振りながら歩いて拾いに行く。

 おじいさんの顔が笑っていた。

 

 真似してひょいっと放ってみる。

 鳩がくるりと向きを変えて早足で拾いに行く。

 ちょいちょいとついばむ。

 

 可愛いかい?

 

 ……うん。

 

 おじいさんのあったかい手が頭を撫でた。

 もう一度もらってぱらぱらとまく。

 首を振りながら拾ってくれる鳩。

 どうしてやめないの?ってもう思わなかった。

 

 いつしかおじいさんは居なくなってしまったけど

 鳩たちは今日も羽を閉じて歩いている。

 どうしてやめないの?って小さい子に訊かれたら

 どうしてかな。って言って何粒かあげよう。

 それは教えられるものじゃなくて見つけるものだから。

 

 私はただ、おじいさんみたいに微笑んで。

 

 

 

 

 

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