第一話:少年の人形(アルヴィオス)#3

そして時刻は昼を過ぎ。

いよいよ持ってギルド前の広場は祭りの雰囲気を色濃く見せ始める頃に。

 一人の女冒険者がギルドに顔を出した。

 今晩のバカ騒ぎを前に、夕刻すぎまで体調を整えると称し寝ている

やからばかりだというのにだ。


「よう、代表、テリオスはここに来てる?」

「あぁん!?あいつなら夜まで時間をつぶしに…………ハァァァァァァ!?」

 ケツァゴール代表はその立派なアゴを地べたに落とすところであった。

 声自体は良く聞き知った中堅どころの女戦士のものであるのだが

、格好が普通であったからだ。

 大きな塊を収めた濃い茶色のチュニック、膝丈のスカート、真っ白なソックス、編み上げサンダル、すべて下ろしたての新品か?

 そして髪を梳り結い上げている―――誰だこいつは。


「おぅベネッタ――――――だれだおまえは」

「名前言ってるじゃないかベネッタだよ!

自分言うのもなんだけど結構働いてるほうだよあんたのギルドの中ではさ!」


 そんな風に毒づいても、自身で性に合わない格好をしている

自覚があるのだろう。

 一寸顔を赤らめ、スカートのすそを下に引っ張った

 やめろ破れる。


「いいや信じねえ、俺はしんじねえぞ。

今日はギルド一同登録冒険者以下、一丸で大事な依頼をこなすんだ、

今日は顔見知り以外にギルドの門を通すわけにはいかねぇ。

おめえさんがベネッタだというなら、自分の二つ名ぐらいはいえるよな?」

「いやだよ!いいたくないよ!!」

「そこを曲げて言ってくれ、おめえが偽者でない証拠を挙げろ、

これは勅命だッ」

 見知らぬベネッタを指差しながら大声を出す、

騒ぎを聞きつけたギルド職員も小声で彼女を誰何し始めたところだ。

 こいつらわかってねぇ。

自分が誰かということを、わかっていながらわかってねぇ。

 ベネッタは意図的に作られた脅威に震撼した、

このままでは気合一発洒落っ気を出した自分の乙女心の居場所がなくなる。


 恥ずかしいが、今でも十分恥ずかしいが。

ここは一つ自身の存在証明を明かすことにしよう。


「――――――グ…………っ」

「おい、聞こえねえぞはっきりしゃべれ」

「――――――"グラビアアイドル"…………っ」


 おいなんだやっぱりベネッタじゃねえか、

ちょっと心配したぜと野次馬が散り散りに仕事へ戻ってゆく。

 露骨に安堵を見せたギルド代表が残り、

彼女の顔を覗き込んで二の句を告げた。

「まったく今日はどうしちまったんだ?

まるで町娘がめかしこんでるみたいじゃないか。

いつもの卑猥な格好はどうした?おなか冷やしちゃったのか?」

「冷やしてないっつの!今日はアレだよ、オフだよ。

夜にテリオスの誕生日祝いに来るから、先に場所確かめに来ただけだよ」


 その割には真っ先にテリオスの所在を聞きに来るぐらいだから、

ああもうこれはアレだね、とケツァゴールは得心した。


 この女冒険者、戦士の職で登録されている"グラビアアイドル"ベネッタ

、割とテリオスに近しい知り合いである。

 ちなみに二つ名は超文明世界のことに割りと詳しい知人からもらったとのことで、何でも絵のモデルを生業にする女のことらしい。

 そんなものに選ばれるくらいならばすなわち見目麗しいとけっして本人を軽視するものではなく、

 これは冒険者の二つ名にしては本当に珍しいので、

 その立派な胸を張って喧伝すればいい指名依頼でも来そうなものだと思うのだが、本人はどうしても恥ずかしいらしい。

 まあ、功名な"ドラゴンバスター"なんかも自分の二つ名は大仰だと忌避するような感じだし。

 実際"美しい"みたいな二つ名で本当に画家から依頼が来ても、

こいつは困るような女だ。


 御年16歳、まあケツァゴールからすればこれくらいの娘がいてもおかしくない年だし、きっと内心は色々難しいのだろう。


「まあなんだ、今宵を待てずにテリオスを連れ出して個人的に祝おうとする魂胆がわかった。

先んじてそんな企みがつぶせて俺は満足だ、本当に満足だ。

あいつなら夜まで帰ってこえねぞ。

緑色の女をあてがってやったから、今頃はよろしくしてるさ」

「ハァ!?誰そいつ、セイン?シルミィ?アンシイ?ジズ?」

 ベネッタはケツァゴールの立派に突き出たあごを力任せにつかみ、

振り回した。

「いてててて、やめろフラフラする!

知ってる髪が緑の女片っ端から疑ってんじゃねえ。

…………アンシイはドリアードだしジズは干物屋の女房だろうが」


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