エピローグ短編1「ジェイカイザーの初デート」
【1】
『ジュンナちゃん、私と子づくりしないかっ!?』
「お断りします」
『あがぁっ!』
ジェイカイザーが帰ってきてから数ヶ月たった、春の陽気が蒸し暑さに変わり始めた頃。
リビングで洗濯物をたたむジュンナに即答で斬り捨てられたジェイカイザーが、うめき声を上げた。
先ほどまでパソコンを使って進次郎と何やら話し込んでいたのに、急に携帯電話に戻って来たと思ったらこの発言。
エリィが寝っ転がるソファーを背もたれにゲームを遊んでいた裕太は、このやり取りを聞いてたまらずポーズボタンを押した。
「ジェイカイザー、新しいセクハラか? それとも、またなんか変な性癖アニメの影響でも受けたのか」
「あたしは、裕太に子づくりしないかって言われたらオッケーしちゃうけどねぇ」
「はい、私も同感です」
「エリィ、話がややこしくなるから黙ってくれ。……ってジュンナ、お前いまなんて言った?」
矢継ぎ早に問題発言が飛び交う中、いちばん聞き捨てならない事を聞き取った裕太。
半目でジュンナの方を睨むが、当の本人は感情の薄い真顔のまま口元だけで微笑みを返す。
「私は男性の
『ぐおぉぉぉ、これが最近流行りの
「ちょっと待ちなさいよぉ! 裕太の初めてはあたしが貰うんだからぁ!」
「待て待て待て待て! お前ら落ち着けよ!」
カオスに堕ちていく居間の中で、裕太は声を張り上げた。
けれども愛憎入り交じるこの空間を抑えることができず、特にエリィとジュンナのにらみ合いがヒートアップ。
誰か助けてくれと裕太が切に願ったところで、救いとなる足音が玄関の方から響いてきた。
「ええい、やはり思ったとおりだったか!」
「助けに来てくれたか進次郎! おお、心の友よ……って、思ったとおり?」
進次郎の登場で一旦争いを止める女性陣。
彼女たちを前に、進次郎がこの状況が生まれてしまったそもそもの原因を語り始めた。
【2】
進次郎が語った騒動の原因。
それは進次郎の親の会社・コズミック社が新しく始める、
裕太は知らなかったが、ここ数ヶ月の間に何度かジュンナの身体構造を、彼女の同意の元でコズミック社が解析していたとか。
それにより、現在のサイバネティックス及び発達しつつ有る機械義肢テクノロジーによって、ジュンナと同レベルのアンドロイドの生産目処が立ったらしい。
しかし、全く問題が無いというわけではない。
あくまでも人間と見紛うボディが製造が可能となっただけで、入れるソフトウェア──プログラムで作られた個体の自我や意識というものがまだできていないのだ。
その問題の解決策について、進次郎はジェイカイザーと通話で相談していたらしいのだが。
『私は、ジュンナちゃんと子供を作ればその子が新しいアンドロイドになると聞いたんだぞ!』
「アンドロイドの頭脳が生物的な交配で生まれるわけがないだろう。僕はジェイカイザーとジュンナの思考プログラムをかけ合わせる方法を提案したんだよ」
「岸辺くん、思考プログラムのかけあわせって何?」
「そもそもだ。アンドロイド製造の点でネックとなっていたことが一点あってな……」
進次郎がスラスラと小難しい用語を用いて解説を始めた。
要点だけをかいつまんだ結果、機械人間製造のネックというのは自己の確立と独立性の確保にあるという。
人間であれば、たとえクローンであっても生まれた環境や育つ過程で個性というものが生まれ、外見から人間性まで全く同じ個体は生まれることはない。
しかし、コンピューターによって完成された、意識をデータとして複製できるアンドロイドであれば話は別である。
とある研究機関が自我を持った人工知能を開発しテストした結果、単体で人間と対話する分には問題はなかったらしい。
しかし、複製した人工知能をボディに入れたものと、パソコン内のオリジナルが鉢合わせした際に自己の存在というものに対しての認識にバグが発生し、自己崩壊を起こしたという。
「ドッペルゲンガー遭遇」と名付けられたこの現象から判明したのは、人工知能にとって同一存在を複製して生み出すのはご法度だということ。
そこで進次郎が……というか、コズミック社が出した結論というのが……複数の人工知能をかけ合わせ、ランダム性を加えた「遺伝」を経て新たなAIを生み出すことだった。
人工生命分野では古くから一般的な技法として、遺伝的アルゴリズムというものが用いられてきた。
遺伝的アルゴリズムとは簡潔に説明すると、良い結果を出したアルゴリズム(動作パターンのようなもの)同士を無作為に混ぜ合わせ、さらに低確率で突然変異と言う形でランダムな変化を行わせることである。
これは生物が交配によってより良い遺伝子を生み出そうとする行為を模倣したものであり、この手法が人工知能分野でも有効的なのは実証済みである。
「──つまり進次郎。ジェイカイザーとジュンナの思考を混ぜ合わせて新しいAIを作るってことか?」
「おおむねその通りだ裕太。ちなみにジェイカイザーの頭脳のベースが人間であることは問題ではない。ジュンナも過程は知らぬが、同様の人間ベースのAIだということが調査の過程で明らかになっている」
「私は言うなれば、後天的に機械化されたルイド星人ですからね。そういう意味ではジェイカイザーと似通った存在です」
『では早速ジュンナちゃん、協力して進次郎どのの役に立とうではないか!』
「嫌です」
『あがあっ!?』
二度も即答で振られ、閉口するジェイカイザー。
別に生物的な行為をするわけではないので、問題はないんじゃないかと裕太は思ったのであるが。
「考えてみてくださいご主人さま。知らず
「あー、うー……そう考えるとちょっと嫌だな」
脳裏に浮かぶのは、ナンバーズ製造の際に勝手に遺伝子を使われたらしいキーザの顔。
彼は今、誕生していない個体も含めると70人前後の
「ってことはぁ、岸辺くんのプロジェクトはお流れかしらぁ?」
「……そうなるな。本人の了承を得ずして行うほど、コズミックは追い詰められているわけではないし」
『誠に遺憾である』
「別に、私は完全に拒否をしたわけでは有りませんが」
「「「えっ?」」」
手で口元を隠しながら視線を背けるジュンナ。
その行為の意図は読めないが、発言としては協力の意図ありと言った感じである。
「ジュンナ、どういうことなんだ?」
「私は別に、そのアンドロイド製造の協力をすることについては肯定的ということです。これまで身体のメンテナンスをしてもらった恩が、コズミック社にはありますし」
「じゃあ何で?」
「そうですね、マスターならわかるでしょう。一度もデートすらしたことがない相手と、子供ができるということへの忌避感が」
「あー……わかるかもぉ」
『デート?』
不意に出てきた単語に、声が上ずるジェイカイザー。
勘の鈍い裕太でも、だんだんジュンナの言いたいことがわかってきた。
「私は別に、ジェイカイザーが嫌いなわけではありません。真面目なときはカッコいいですし、日々のセクハラ発言だけがネックなだけです。とはいえ、一番好きなのはご主人さまですが」
『うん? これは喜んで良いのか悔しがれば良いのか』
「喜んどけ喜んどけ。ってことは、まんざらでもないってことなのか?」
「そういうことです」
ジュンナが一番好きなのは裕太、と言ったあたりでエリィの顔つきが強張ったのは置いておくことにする。
とにかくどうやら、ジュンナが嫌がっているわけではないというのだけは確かである。
あくまでも一度でも良いから恋人らしい行為を経てから子を作りたい。
それだけのようだった。
【3】
「とはいえ、8メートル超えのジェイカイザーと一緒に町中を闊歩するわけには行きません」
「こんなこともあろうかとな、ちょっと待ってろ!」
そう言って急ぎ足で玄関へと駆けていく進次郎。
しばらくして戻ってきた彼の手には、2メートルほどの高さの細く大きなダンボール箱が抱えられていた。
「ふんぎぎぎ……誰か手伝ってくれと言うべきだったぁぁぁ」
「カッコつけるからだろ進次郎。で、その箱は?」
「まあ慌てるな、こいつの中身は……これだ!」
留め具を外して展開される段ボール箱。
その中から現れたのは、1体の人間サイズのロボットだった。
ロボット、といっても角張ったいかにもなものではなく、シルエットだけで見ればいいスタイルの男性体と言った風貌。
人工筋肉を包み込む灰色の外皮は柔らかさこそ皆無であるが、しなやかで柔軟性が高そうに見える。
頭部に関して言えば髪が無いためハゲではあるが、わりかしイケメンな面構えの人間らしい肌色の外皮で包まれている。
服を着せた上で帽子かカツラを被せて肌を出さなければ、人間と見間違う見た目になるだろう。
「これぞ、男性型アンドロイドの試作型。スマートモデル3型だ!」
『もしかして、これを私が使えるのか!?』
「OSにはキャリーフレームのものをベースとしたソフトウェアを入れている。であればジェイカイザーでも動かせるだろう」
『では早速! 転送だ!』
裕太の携帯電話からピロピロとチープな音がなると同時に、灰色のアンドロイドのこめかみ辺りが緑色の光を放ち始める。
そうしてしばらくLEDの点滅を眺めていると、閉じられていたアンドロイドの目がくわっと見開かれた。
「おお、おお進次郎どの、裕太! 動く、こいつ動くぞおっ!」
興奮気味にアンドロイドの口から発せられるジェイカイザーの声。
手や足を色々と動かしているのを見るに、特に動作に問題はなさそうだ。
「どうだジェイカイザー。素晴らしいボディだろう」
「進次郎どの、ひとつ困ったことが有るのだが……」
「何だ? どこか動作に違和感でもあるのかね?」
「私の股間に何も付いていないではないかっ!!」
その場でずっこける進次郎。
額に手を当ててヤレヤレといった感じのジュンナは、先行きの不安を感じているようだった。
「どうでもいいだろうそんなことは!!」
「よくないのだ! これではデートの終わり際にホテルへ行って、仕上げの時に突っ込むことができないではないか!!」
「我慢しろ我慢! そういうところだぞ、ジュンナが嫌っているお前の性格!!」
「ぐぬぬぬぬ……裕太に先駆けて童貞脱出とはいかぬか……!!」
わりかしイケメンに作られた顔面から放たれるセクハラ発言の数々に、こんな見た目でも中身がジェイカイザーであることを意識させられる。
とはいえ、今の状態では頭部以外は露骨な人工皮膚むき出しのいかにもなロボットである。
この状態で外には出せないよなと思っていると、エリィがジェイカイザーの背中を押して裕太の私室の方へと向かわせはじめていた。
「エリィ、何をする気だ?」
「裕太の服でコーディネートしてあげるのよぉ! せっかくのデートだもん、精一杯のおしゃれをしなきゃ!」
要領を得ないまま、裕太の部屋へと連れ込まれるジェイカイザー。
閉じられた扉の先からエリィのはしゃぎ声とドタバタした物音が耐えず響き渡る。
無言でぽかんとした表情のまま、進次郎と共に扉を見つめ続けていた裕太。
その扉が再び開かれたとき、その中から出てきたジェイカイザーの姿に、一同は呆気にとられた。
ボーダーのTシャツをインナーに、上着として涼し気な七分袖のシンプルなリネンシャツ。
アンダーはベルトで止めた細目の青いジーパンに黒いソックス。
頭部に被せられたウィッグは、前に学校行事の出し物のために買ったきりの短い金髪のもの。
意図は不明だが、サングラスも良いアクセントになっている。
全体的に派手さは無いが、しっかりとまとまった色使いのコーディネートでまとめられていたイケメンがそこに立っていた。
「ど、どうだ裕太!?」
「どうって……いや、普通に普通だな」
「ほらぁジェイカイザー、裕太ったら掛ける言葉がないのよぉ! ねえジュンナ、これだったら良いでしょ?」
「……そうですね。まあ良いでしょう」
素直じゃない返答をしながら、静かに立ち上がるジュンナ。
そのままどこかへ歩いて行こうとするので、とっさに裕太は呼び止めた。
「おい、どこへ行くんだ?」
「ご主人さまのお母様のお部屋です。メイド服で外に出るわけにもいきませんし、衣服は自由にして良いとお母様よりお達しは出ております」
「あ、ああ……行ってら」
なんだかんだでノリノリじゃないかと思いながら、部屋へと入っていくジュンナの背中を見送る裕太。
またしばらく経ってから、部屋から出てきたジュンナの格好はこれまた見事だった。
空色のロングヘアーによく似合う、光を受けて輝くノースリーブの白いワンピース。
たしかあの服は、裕太の母が若い頃の写真で身につけていたものだったはずだ。
キュッと細く止められているウエストが、ジュンナのスタイルの良さを見事に表している。
また、長いひらひらしたスカート部分も、その下から伸びる細く美しい脚を引き立てていた。
「……どうでしょうか、ご主人さま」
「あ、いや。すげえと思う」
「似合ってるわよぉ、ジュンナ! これでデートの準備はバッチリね! はい、これ!」
まるで自分のことのように楽しそうなエリィが、革製の薄い財布をジュンナへと手渡す。
その場で中身を確認するジュンナが、財布から取り出したのは千円札が五枚。
「日帰りデートだったら、それで十分でしょ? あたしから二人への
「今はじめて、マスターがマスターで良かったと思いました」
「ひどくなぁい!?」
「まてエリィどの! なぜ私に渡してくれないのだ!?」
「だってぇ、ジェイカイザーに渡したら……ぜぇーったいに無駄遣いするもの!」
「賢明な判断ですね」
「ぐぬぬぬぬぅ!」
悔しがって地団駄を踏むジェイカイザーだったが、信用の無さはこの中の共通認識だった。
【4】
ジュンナの細く白い指が、カラッカラに揚がったフライドポテトを摘む。
彼女に掴まれたポテトはそのまま、真っ赤なケチャップを付けられてから口へと運ばれ、サクッと小気味いい音を鳴らした。
「……ジェイカイザー」
「何だ、ジュンナちゃん」
「どうして、私をずっと見ているんですか?」
ファストフード店の狭い席に向かい合わせに座りながら、黙々とポテトを食べる二人。
ジェイカイザーの使っているボディは、ジュンナ同様に食事でエネルギーを補給し味覚も存在するので、食べることについては問題はない。
何が問題かというと、勇んでデートへ繰り出したはいいが何をすれば良いのかわからないということであった。
ジェイカイザーは過去に遊んだエロゲやギャルゲでデートの知識を得ていたのだが、遊園地だとか植物園だとかそういう特別な場所を来訪することばかりしかしていなかった。
そのため、いざノープランで二人で出ると何をしていいかがわからず、正午だったこともあり何となくファストフード店へと入ったのであった。
「いやなに、ジュンナちゃんの指はキレイだなと思って」
「いつも見ているじゃないですか」
「そ、それもそうだな……」
会話が不発に終わり、がっくりするジェイカイザー。
決して好感度が低いわけではないであろうが、後も会話が弾まないと自信が失われていく。
仕方なくしょっぱいポテトを口に運び、慣れない食事の味に感覚を研ぎ澄ます。
「ジェイカイザーは、いつ自身の正体に気がついたのですか?」
それは恐らく、ジェイカイザーの正体がデフラグ博士そのものだったことに対する質問だろう。
「そうだな……なんとなく、だったものがあの決戦で確信へと変わったというところか」
「どういう気分ですか? 自分という存在が思っていたものと違ったっていう気持ちは」
「……複雑な感情が渦巻いていたな。ただ、今となっては私は私であるという確固たる自信があるから、何も問題はない!」
「ふふっ、そうですか」
クスりとジュンナが笑った。
はたから見れば誤差レベルで口端が上がっただけであるが、付き合いの長い者ならそれが笑い顔であることを理解できる。
自分の話でジュンナが笑ったのは初めてだったので、ジェイカイザーもつられて微笑みを返した。
「そういえば、ジュンナちゃんはどうなのだ? さきほど進次郎どのが、ジュンナちゃんも人間ベースだと言っていたが……」
「私はルイド星人ですからね」
「ルイド星……そういえば私はルイド星のことを全然知らなかったな。ジュンナちゃんが良ければ、教えてくれないか?」
「楽しい話ではありませんよ?」
「無理にとは言わないが、私はもっとジュンナちゃんのことが知りたいのだ!」
「……そうですか。では話しましょうか」
ゆっくりとジュンナは語り始めた。
ルイド星、それは全人類が機械化した惑星。
新しく生まれる人間は、無作為に選ばれた
誕生した赤子はその時点で意識をデータ化し肉体は廃棄。
以後その意識データを仮想空間上で育成していくらしい。
市民階級の者の場合、ある程度意識体が成長すると機械の肉体と共に人間としての権利を与えられて自由を与えられる。
しかし、ジュンナのような奴隷階級の場合は成人まで仮想空間内で従順になるよう教育が施され、必要が生じれば用途に合わせた機械肉体が用意されインストール。
思考回路に自由を阻害するロックをかけられた状態で現実世界に降り立つらしい。
「……というわけで、私は潜入・工作・要人護衛の用途に特化したこの身体へとインストールされたわけです」
「な……」
「どうしました? 軽蔑しましたか?」
「ああ、いや。ひとつ気になったことがあってな……」
「なんですか?」
「ジュンナちゃんは女の子なのか!?」
ジェイカイザーの質問に、ガクッと首を下に向けるジュンナ。
どうやら、なにか的を外した質問をしてしまったようだ。
「ジェ、ジェイカイザーは私のことを何だと思ってたんですか……!?」
「いや、その方法で誕生するのだったら男の場合もあるなと思ってしまってな……つい」
「ま、まあいいでしょう。あなたの失言をいちいち気にしていてはキリがありませんからね……」
「ハッハッハ! ありがたいことだ!」
「……ふふ、やはりあなたは面白い人ですね、ジェイカイザー」
重苦しい空気から一転して、笑い声が店の一角で響き渡った。
【5】
ジェイカイザーとジュンナがデートに出かけてから2時間後。
ふたりはあっさりと裕太の家へと帰ってきた。
あまりに早く帰ってきたのでジェイカイザーの粗相を疑ったが、どうやらそうではないらしい。
二人して視線を合わせて頷くのを見るに、この数時間で何か仲が発展するようなことが起こったのは確かであろう。
ひとまず、ジュンナがAIの掛け合わせに了承するという当初の目的が達成されたので良しとする。
しかしジュンナは協力する代わりに、いくつかの条件を提示した。
「……君たちを元にして作ったアンドロイドには、購入者に面接をして欲しい、か」
「具体的には商品としてではなく、人間を里子に出すような感覚で引取先に適性検査をして欲しいのです」
「もともと富裕層に売り出す予定だったから構わないが、よかったらその理由を教えてくれないか?」
「はい」
進次郎へと、ジュンナは説明を始めた。
曰く、自分たちは他者のエゴによって作られた存在だから。
曰く、そのため自分たちの子供たるアンドロイド達には人間としての幸福を得られるようにして欲しいから。
曰く、だからこそ引き取り手となる人間は信頼の置ける人物だけにして欲しいから。
「……なるほど。事情はわかった」
「ワガママを言ってすみません。けれども、どうしても私たちの子供と思うと……これだけは守っていただきたいんです」
「わかった。社の人間には父を介して、そのように伝えておこう」
「あと……ワガママついでにもう一つだけよろしいですか?」
「何だ?」
「その……子供たちが旅立っていったら、通信でもいいので私たちと交流をもたせてもらえませんか?」
「お安い御用だよ。それじゃあ、今日のところは僕はこれで」
足早に立ち去る進次郎。
そもそもここへ来た理由も、答えを今日中に出す必要があったかららしい。
なので、実はジェイカイザーがデート中、進次郎が一番落ち着きがなかったのである。
親友の背中を見送ったところで、裕太の携帯電話からチープな電子音が鳴った。
『あ~やっぱりデータの状態が一番落ち着くぞ!』
「おつかれ、ジェイカイザー。ところで……このボディどうしようか」
壁際に伝っている、おしゃれな格好をしたジェイカイザーだったアンドロイド。
こんど進次郎が来たときにでも返すかなどと、のんきに考えていた。
後日、進次郎が新開発の股間ユニットを持ってきて、ジェイカイザーとジュンナが大喧嘩をするのは別の話。
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