燃え尽きる前に

あの子はあたしに火がつくと、幸せそうに笑った。

雪の降る中、はだしで、ぼろぼろの服で寒いはずなのに、まるで大きなあったかいストーブの前にいるみたいに。

もっと見ていたかったけれど、あたしはすぐに燃え尽きた。




あの子は僕に火がつくと、幸せそうに笑った。

ロクなものも食べていないだろうに、まるで机に並んだ豪華な食事を見つけたかのように。

まだ見ていたかったけど、やがて僕は燃え尽きた。




あの子は俺に火がつくと、幸せそうに笑った。

ガラス戸越しにしか見られなかったクリスマスツリーを、すぐ間近で見られた喜びをたたえたような表情だった。

ずっと見ていたかったのに、俺はあの子が背伸びをして上に手を伸ばしたところで燃え尽きた。




あの子は私に火がつくと、「おばあちゃん!」と幸せそうに笑った。

もういないはずのその人を呼んで、そして、何かに気付いたかのようにふっと悲しそうな顔をした。

そんな顔しないで、もう一度笑ってほしかったけど、その前に私は燃え尽きた。




私達に火がつくと、あの子は本当に幸せそうに笑った。

「ずっと会いたかった。嬉しいよ」

だれもいない空間にそう言って、あの子は静かに壁に寄りかかった。

幸せそうな笑顔を浮かべたまま、そうして… 二度と動かなかった。




ごめんね。

私達には、あなたを助けられないの。

あなたに、寒さを癒してくれるストーブも、おいしいお料理も、立派なクリスマスツリーもあげられないし、大好きな人に会わせてあげることもできないの。

あなたをこんな小さな火で照らして、暖めて、幸せな夢を見せながら眠らせてあげることしかできないの。

ごめんね。


私達の火が、ゆっくりと小さくなってくる。

空は、ゆっくりと明るくなってくる。


また、新しい一年が始まる。

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