走れセリヌンティウス

原田和正

第1話〔序〕

 セリヌンティウスは待ちくたびれていた。

唯一無二の親友、メロスの代わりに人質となってからはや2日。メロスはこの街の暴君、王のディオニスにとっかかり捕まって処刑されそうになった。が、妹が結婚するとかで、代わりに私が人質になっている。

メロスに与えられた猶予は3日。それまでに来なかったら私が処刑される。なんでだよ。

 暴君、ディオニスとの会話も続かない。

ディオニスが「どうせメロスは来ない。」と言えばセリヌンティウスが「メロスは必ずや来る。」と同じ会話が2時間に1回行われるだけ。

セリヌンティウスが「退屈だ。」と言うと、ディオニスが「むっ。退屈か。それはいけないな。楽しませてからお前を殺したい。だから、〔テトリス〕でもしよう。」

セリヌンティウスはぷよぷよ派だった。

「私は〔テトリス〕が嫌いでね。〔ぷよぷよ〕がしたい。フィーバーしたい。」

そう願うと、ディオニスは〔ファミコン〕と〔ぷよぷよ〕を持ってきた。

「思う存分フィーバーしようぞ。」

小一時間ほど経ったか。

気づけばディオニスとの〔ぷよぷよ〕に夢中だった。ディオニスはかなりの手練だった。

しかしセリヌンティウスを負かせばセリヌンティウスがいじけて退屈になると思ったのか、わざと負けたりしてくれた。


「ディオニス、わたしは外が走りたいな。外が。ずっと王宮の中じゃ退屈だ。」

退屈だ、に反応したディオニスは「好きなだけ走れ。走ってこい。」と手をしっしと動かした。

セリヌンティウスは久しぶりの外の空気を吸い、王宮に戻った。

セリヌンティウスは驚愕した。

『どーも!ディオニスチャンネルのディオニスです!今日紹介する商品は…!こちら!〔ポケットモンスター ブラック〕…』

ディオニスがハンディサイズのカメラに向かって何か話しかけていたのだ。

「な、何をしているんだ?ディオニス…」

セリヌンティウスがそう聞くと、

「…うわぁーッ!何を見ておる!見るなじゃ!見るなぁーっ!」

暴君は赤面した。

         ●●●

 「わしは産まれてからずっと一人だったからな。そこで見つけたんだ。わしの居場所を。〔YouTube〕を。」

セリヌンティウスはディオニスの肩に手をおいた。

「よせ、今は私がいるではないか。」

ディオニスは顔を赤らめながら「ふんっ!人質のくせに!」と顔をそむけながら言った。


 …メロスはまだ妹の結婚式に興じている。

「あと一日…メロス、来てくれよ?」


つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る