第二話 超巨大掘削機

 幾年もの歳月をかけて開発された超巨大掘削機、通称「プラットフォーム」。全高が五〇階建てのビルほどもある巨大な船だ。核融合炉を有し、無尽蔵なエネルギーで直径三〇〇メートルのドリルを使って掘り進める。掘削した土は、圧縮形成してシールドとなり、地上へと帰るための真空エレベーターシャフトが構築される。大深度地下の気圧に耐えうる潜水艦以上に丈夫な構造と、宇宙ステーション以上に充実した各種プラントを有し、水耕栽培で乗組員百三十人が自給自足可能だ。艦内に全てのエネルギーを供給する核融合炉は、エイリアン攻撃用の核融合爆弾を兼ねている。大深度地下に辿り着いたときには、人類対エイリアンの決戦兵器となるのだ。

 僕が最初にプラットフォームに乗り込んだのは、約二〇年前。ポスドクとして在籍していた対エイリアン総力戦研究所からの推薦だった。作業員、指令員、技術者、科学者――選抜に選抜を重ねられたメンバーが乗り込み、八年にわたって狭い世界で寝食を共にした。

 壁を覆い尽くす計器、複雑に這うパイプ、吹き出る蒸気、力強く動き出す機械――それらを自在に操る科学者。子どもの頃から、僕は、科学者になりたかったのだ。プラットフォームに再び乗り込んでから、毎晩のように子どもの頃を思い出し、現実を噛みしめた。科学の力で人類を救おうとしている自分たちに、興奮を覚えた。

 しかし、作戦は失敗だった。エイリアンの卵まで、まだ約半分、地下四〇〇キロというところで、地震によりプラットフォームが圧壊し、核融合炉は壊れてしまった。女子高生エイリアンの孵化は予想よりも早く、地震が頻発し、幾多のプラットフォームが地殻変動の犠牲になった。そのような中、僕らは運よく、命辛々に地上へと戻った。

 数年ぶりに見る空は青く、数年ぶりに吸う地上の空気は清々しかった。しかし、日に日に拭いがたいものが溢れた。やがて清々しさは微塵も感じられなかった。悔しさが科学者として、リーダーとして、男としての僕を奮い立たせ、再び地下へと誘ったてくれた。僕らは、卵を、絶対に破壊しなければならない。新型プラットフォームの完成と、「艦長」としての搭乗。それが五年前のことだ。

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