チャクラクリニック

@simameko2628160

第1話:怪しい職業始めました。

1つ

2つ

3つ

4つ

「段々、深くなってゆきます。」

5つ

6つ

「周りが暗く感じるようになってきます。」

7つ

8つ

9つ

「ぼんやりと光が見えるようになってきました。」

10

「底についたみたいです。」


まどかは海の底にいた。

まるでベテランの潜水士が海に潜るように、するすると海底に降りて行った。

それは、自分の力だけじゃない、声に導かれての事だった。

砂の上に横たわる

雪?まるでパウダースノーみたい。

いいや

これはマリンスノーだ。

昔、テレビの何かの特集で見たことがある。

埋もれてしまいたい。

ここにずっといたい。

そう思う気持ちを声が引き戻す。

「立って。扉を開けて。」

扉なんて無いのにどうすればいいの?とまどかは思った。

思ったと同時にまどかは、古い洋館の中にいた。

沢山のドア。それを片っ端から開けてみる。

3歳の誕生日。ろうそくを消そうと一生懸命。

5歳の私。家族で海に行った思い出。

このドアは私の思い出に繋がっているのだと、確信した。

まどかは一番大きくて、輝いて見える、ステンドグラスがキレイなドアを開けた。

「お待ちしていました。」

そこには大きな門があり、二人の門番がいた。

そして、門の中に入るように手招きした。

門の中には夜が繋がっていた。

そして無数の扉が天空や地面など至る所に点在していた。

きっと、これも、記憶の類だろうと開けてみる。

「あんたなんか死ねばいい。」

「僕だけを好きになって欲しい。」

「お母さんの自慢の娘でずっといて頂戴。」

「そんなに可愛くないのに、人気があるのは許せない。」

「偉そうに、ぶつかっても謝らないブスは干されろ。」

扉をあける度に声が聞こえる。

扉の先には、線のようなものが繋がっている。

糸電話みたいにその向こうから声が聞こえる。

まどかはとっさにその糸を切る。

扉をあけ切る

切る

切る

切る

すぐに切れるのもあれば、とても頑丈なものもあったりするが、まどかの手にはその度に新しいアイテムが増えていく。

ハサミ、ナイフ、ノコギリ・・・・・・。

扉は閉まる

1つ

2つ

3つ

沢山あった扉が消滅していく。

まどかは天井にある最後の扉をあける。

何かのヒントを探して、光の中を見る。

うっすらと鳥かごの中に入っている少女が見えた。

だが、頑丈な鍵がかかっている様でまどかの力ではどうにも出来ない。

「私はもう歌いたくない」と書いた紙が錠にくくりつけてあった。

開けようとする度、声が空から降ってくるのがわかった。

「リナの歌、凄く好き。」

「歌を聴くと元気が出るよ。」

「失恋の痛みが癒えました。」

リナ大好き

もっと歌って

もっと

もっと

そうやって声は鳥かごの周りにふりかかる。

「リナさん、何故声を出さないんですか?」とまどかは聞く。

「もう、嫌われたりも、必要以上に期待されるのも嫌なの!」リナは短く、吐き捨てるように言った。

「誰かの為に歌おうとするから、嫌になるんじゃない?誰の期待にも応えなくていいの。私はあなたが好きな時に、自分の為に歌えばいいと思う。歌は好きなんでしょ?」

「そうね。私は人前ではもう歌わない。だからもうしゃべれない真似をするのは辞めるわ。」

その瞬間、錠を締めていた紙がはずれ、紫色の炎で焼かれて行くのがみえた。


10つ

9つ

8つ

7つ

「段々暗くなってきました。」

6つ

5つ

4つ

「中間地点まで来ました。」

3つ

2つ

「水面が見えてきました。後少しです。」

1つ

パン!


まどかは手を叩く音で目覚めた。


眼光がするどい男が私を褒める。

「今回は初セッションだった割りによく出来ていた。」

優しい男が、あわてて言う。

「最初は退行催眠なんかかけて、どうするのかって思っていましたよ。もしも無意識の状況で彼女の意識と対峙して、無意識から出られなくなったらどうするつもりだったんですか?」

「ああ、それは無いと思ってたから考えて無かった。」

まどかは、「あの、リナさんはどうなったんですか?」

「ありがとうって言って帰っていったよ。」

「声が出ないと言う事が、主訴だったので、成功でしたね。」と優しい男が微笑む。


これで、正式におまえはここの四葉クリニックの人間だな。


「俺は、青井、ここで精神科医をやっている。表向きは。」

優しい男が言う。「僕は、山吹です。臨床心理士でカウンセリングを担当しています。」

「まあ、って言っても偽名だけどな。」と青井は言う。

「人に本当の名前を知られてはいけないのか、しきたりなので・・・・・・。」と山吹は笑った。


まどかは「私の偽名はコダマにしますね。」と出された紅茶をすすった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る